2.カトレアの憶測と、ナイトメア。
放課後、俺はすぐに学校を飛び出した。
そして佐那に連絡を取ろうとする。しかし電話は繋がらない。メッセージにも既読が付かない。不安がだんだんと募っていく。
俺は電車に乗ったところで、賀東に電話をかけた。
すると――。
「…………分かった」
◆
短い電話のあとに、俺が駆け込んだのはあの日の総合病院。
受付で確認をしてから、制止を振り切って走った。目指すのは三階の西棟、一番奥の個室。心臓が跳ね上がるのを感じながら、俺はその病室の扉を開いた。
「え、拓馬さん……?」
そこには、佐那がいた。
ベッドに腰掛けた彼女は、驚いたように目を見開く。
どうして俺がここにいるのかと、そう訊ねるような表情だった。だがすぐに、なにかを察したのか泣き出しそうな顔になって言うのだ。
「そう、ですか。誰かから、聞いちゃったんですね」
無理矢理に笑顔を浮かべながら。
「わたし、もうダメみたいです。先日の検査で、お医者さんにも――」
「佐那……!!」
見ていられなかった。
いつも明るかった彼女の、そんな表情は。
「拓馬、さん……?」
「…………!」
「泣いているんですか、わたしのために?」
小さな佐那の身体を抱きしめる。
震えているのが伝わったのか、彼女は俺の肩に手を回して言った。
「ありがとう、ございます。わたしのために、泣いてくれて」――と。
まるで、赤子をあやすように。
佐那は俺の背中を、ぽんぽんと、優しく叩いた。
「嘘だって、言ってくれ。頼む……!」
「……ごめんなさい、です」
「…………!」
必死に懇願する。
それでも俺より小さな身体をした少女が、静かにそう答えた。
奥歯を噛みしめて、感情を押し殺す。これ以上みっともない姿を見せては、佐那を不安にさせてしまうから。
だけど、こんなのってないだろ。
どうしてだよ。どうして、佐那なんだよ。
彼女を抱きしめる腕に、自然と力が入っていった。
あまりにも儚い存在の少女が、消えてしまわないように祈りながら。
◆
「…………」
談話室で、俺は一人考えていた。
自分にはもうなにも、できることはないのかと。
だけど、なにも思いつかなかった。俺には医学の知識もなければ、技術もない。そもそも佐那の身体を蝕むものの正体を知らないのだ。
ただ、時間が過ぎていく。
その中で俺は――。
「ずいぶんと、沈んだ顔をしているんだね。キミらしいけどさ」
「……え、なんで?」
その時だった。
思いもよらない人物に声をかけられたのは。
「凪咲に聞いてね。ボクだって、彼女の友人だからさ」
「カトレア……」
その人物――カトレアは、俺の向かいの席に腰掛けると大きく息をつく。
「しかし、曖昧な存在だとは思っていたけど。想像より早かったな」
「……え? それって、どういう意味だ」
「………………」
そして意味深なことを言うが、俺の問いかけには答えない。
カトレアは少し考えてから、こう口にするのだった。
「もしかしたら、裏で手を引いているものがいるかもしれない」――と。
それは、あまりにも謎に満ちた言葉。
俺には首を傾げることしか、できなかった。
「誰かが、裏で……?」
「気にするな。これはあくまで、ボクの推測だ。それより――」
カトレアは短く言って、話題を変える。
周囲を見て、こう口にした。
「強力な、ナイトメアがいるな」――と。
そして、ある方向に視線を投げる。
その先にいたのは――。
「え、あれは――賀東?」
見舞いの花を手に、病室へと向かう賀東の姿だった。




