3.心の強さと、覚悟。
賀東にナイトメアの侵攻が始まっている。
カトレアはそう言っていたけど、彼からそんな素振りはまったく感じられなかった。それどころか、佐那の前でも明るく振舞っている。
俺は病室の扉越しに、二人の会話を聞いてそう思った。
傍から見れば不安になりそうな妹と、それを励ます兄貴の構図。
そのはずのに――。
「なぁ、カトレア。本当に賀東なのか?」
「なんだ、ボクの言うことを疑うのかい」
「そういうわけでは、ないんだけど……」
なんだろう。
モヤモヤしてしまった。
「ナイトメアに襲われる基準って、なにかあるのか?」
その中で、俺はふと思ってカトレアに訊ねる。
少女は俺の隣で椅子に腰かけ、足をぶらぶらさせながら言った。
「そうだね。一つに、心が弱っていることが前提となる」
「だったら攻め込まれるのは、佐那の方じゃないのか?」
俺が疑問を投げかけると、そうとは限らないとカトレアは首を左右に振る。
「そうとも限らない。身体の強さと、心の強さは必ずしも合致しないんだ。キミの目にはどう映っているか知らないが、佐那の心は存外に強いものだよ」
「強い、って……佐那が?」
「あぁ、そうさ」
椅子から飛び降りると、彼女は腕を組んでこう語った。
「ボクは都合上、その人間の心の強度が見える。佐那という少女は身体こそ弱いが、その心には確固とした覚悟があるように思えるのさ」
――だけど、と。
ふっと息をついて、少女は赤の眼差し扉に向けた。
「兄の方は、生きる理由にしてきた妹を失う恐怖に怯えている。ボクには、そう思えて仕方がない」
「失う、恐怖……」
それを聞いて、あの日――海辺で話した賀東のことを思い出す。
たしかに彼は震えていた。佐那のいない夢を見て、誰よりも強そうなその心に揺らぎを見せていたのだ。それに、これはあくまで夢の中だが――。
「賀東は、たしか……」
大切な者を失い続けた賀東。
俺は、その可能性の一端を見ていたかもしれない。
「どうすればいい、カトレア」
「どうすれば、とは?」
深呼吸一つ、少女に訊ねた。
「どうすれば、二人を救えるんだ」――と。
それを聞いてカトレアは、どこか難しい顔をして答えた。
「救えるか、か。ハッキリ言おう、ボクらにできるのは悪夢を払うだけ。佐那の身体は治せないし、兄の喪失感を消すことはできない」
「それでも、なにか――」
――なにか、あるはずだ。
俺は拳を握りしめる。
すると、そんなこちらを見て彼女は言うのだった。
「まぁ、諦めないのは良いことだ。それに何より、キミらしい」
「え……?」
どこか、誇らしげに笑って。
「できる限り、後悔は残すな――それが、ボクから送れる唯一の言葉だよ」
カトレアは、こちらに背を向けるのだった。
「おい、佐那に会っていかないのか?」
「よろしく言っておいてくれ。それだけで、ボクは十分だ」
そして、ゆっくりと歩きだす。
その後姿を見送って、俺は彼女の言葉を繰り返した。
「できる限り、後悔は残すな――か」
握った拳に力が入る。
俺は一つの覚悟を決めるのだった。
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