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3.先輩、強襲。








 夕方になり、ずいぶんと涼しくなってきた。

 ふと思えばそろそろ部活の時間か。凪咲には状況を説明してきたけれど、いきなり休んだ負い目が今になってやってきた。

 朝倉先輩も佐那のことを心配しているだろうし、なにか言えばよかっただろうか。そう考えていると、チャイムが鳴った。



「あ、俺が出るよ」



 もしかしたら、賀東家の父が帰ってきたのかもしれない。

 娘さん曰く事情は説明してあるとのことで、誤解はないはずという話だった。なので安心しきって玄関の扉を開ける。

 すると、そこに立っていたのは――。



「拓馬くん。女の子と二人きりは、いけないと思うなぁ~?」

「……………………」



 満面の笑みを浮かべた陽子先輩だった。









「おい、凪咲! 来なくても良いって言っただろ!?」

「そうは言っても陽子が、鼻息荒く行くと言って聞かなかったのだ! アタシは最大限止めたし、落ち度はないぞ!?」

「ふふふふふっ! 二人とも、なにをこそこそ話してるの?」

「…………」

「…………」



 先輩の後ろを、まるで借りてきた猫のようにしていた凪咲を問い詰める。だが返ってきたのは、言い知れぬ恐怖に震えた声だった。

 そして小声でこそこそと話していたのに、まるで内容を聞き届けたように口を挟むのは陽子先輩。彼女の張り付いたような笑みに、俺たちは硬直した。



「あ、あの……? 陽子先輩、今日ってソフト部の練習――」

「『そんなことより』も、こっちの方が重要だよ?」

「………………」



 ――そんなこと、って!?



 俺はなにが彼女をそこまでさせているのか、それが分からず怯えた。

 少なくとも陽子先輩は怒っている。なにかに怒っている!

 だが、そんな彼女に真っ向からぶつかるのは――。



「約束を破るなんて、陽子さんらしくないですね? ビックリです」

「そうかなぁ? 私はあくまで、外部のコーチだし、ね?」

「そうなんですね、なるほど~」

「ふふふ。そうだよぉ?」



 ――佐那さん、貴方の笑顔も怖いっす。



 俺は何故か正座をして、二人の様子を見守っていた。

 バチバチと火花が散っているようにも思える二人の会話に、凪咲と共に縮こまってしまう。しかし、いつまでもこれではいけない。

 深呼吸一つ、こう提案した。



「あの、さ? 二人とも何が原因か分からないけど、仲直りを――」

「うーん、拓馬くんは勘違いしてるなぁ」

「わたしたち、別に仲が悪いわけじゃないですよ?」

「そう、なのか……?」



 だが、それに対する返答で首を傾げてしまう。

 彼女たちはニッコリと俺を見ると、示し合わせたかのように言った。



「むしろ、貴方が原因ですからね。拓馬さん」

「そうだねぇ、この朴念仁さん、だね」

「へ……?」



 意味が分からない。

 助けを求めるように凪咲を見ると、呆れたように首を横に振られた。





 どういう、ことですか……。





「それじゃ、ひとまず拓馬くんには外に出ていてもらいましょうか!」

「ここは女子だけで話したいことがありますからね!」

「ま、待て! アタシもなのか!?」

「え、ちょ――」




 などと思っていると、俺だけ家の外に追い出された。

 ボンヤリと見慣れない町の中に立ち尽くす。





「あぁ、夕日が綺麗だなぁ……」





 うん、現実逃避をしよう。

 そうしよう。




 

 それから小一時間ほど。

 俺は心を無にして、空を見上げ続けるのだった。



 


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