3.先輩、強襲。
夕方になり、ずいぶんと涼しくなってきた。
ふと思えばそろそろ部活の時間か。凪咲には状況を説明してきたけれど、いきなり休んだ負い目が今になってやってきた。
朝倉先輩も佐那のことを心配しているだろうし、なにか言えばよかっただろうか。そう考えていると、チャイムが鳴った。
「あ、俺が出るよ」
もしかしたら、賀東家の父が帰ってきたのかもしれない。
娘さん曰く事情は説明してあるとのことで、誤解はないはずという話だった。なので安心しきって玄関の扉を開ける。
すると、そこに立っていたのは――。
「拓馬くん。女の子と二人きりは、いけないと思うなぁ~?」
「……………………」
満面の笑みを浮かべた陽子先輩だった。
◆
「おい、凪咲! 来なくても良いって言っただろ!?」
「そうは言っても陽子が、鼻息荒く行くと言って聞かなかったのだ! アタシは最大限止めたし、落ち度はないぞ!?」
「ふふふふふっ! 二人とも、なにをこそこそ話してるの?」
「…………」
「…………」
先輩の後ろを、まるで借りてきた猫のようにしていた凪咲を問い詰める。だが返ってきたのは、言い知れぬ恐怖に震えた声だった。
そして小声でこそこそと話していたのに、まるで内容を聞き届けたように口を挟むのは陽子先輩。彼女の張り付いたような笑みに、俺たちは硬直した。
「あ、あの……? 陽子先輩、今日ってソフト部の練習――」
「『そんなことより』も、こっちの方が重要だよ?」
「………………」
――そんなこと、って!?
俺はなにが彼女をそこまでさせているのか、それが分からず怯えた。
少なくとも陽子先輩は怒っている。なにかに怒っている!
だが、そんな彼女に真っ向からぶつかるのは――。
「約束を破るなんて、陽子さんらしくないですね? ビックリです」
「そうかなぁ? 私はあくまで、外部のコーチだし、ね?」
「そうなんですね、なるほど~」
「ふふふ。そうだよぉ?」
――佐那さん、貴方の笑顔も怖いっす。
俺は何故か正座をして、二人の様子を見守っていた。
バチバチと火花が散っているようにも思える二人の会話に、凪咲と共に縮こまってしまう。しかし、いつまでもこれではいけない。
深呼吸一つ、こう提案した。
「あの、さ? 二人とも何が原因か分からないけど、仲直りを――」
「うーん、拓馬くんは勘違いしてるなぁ」
「わたしたち、別に仲が悪いわけじゃないですよ?」
「そう、なのか……?」
だが、それに対する返答で首を傾げてしまう。
彼女たちはニッコリと俺を見ると、示し合わせたかのように言った。
「むしろ、貴方が原因ですからね。拓馬さん」
「そうだねぇ、この朴念仁さん、だね」
「へ……?」
意味が分からない。
助けを求めるように凪咲を見ると、呆れたように首を横に振られた。
どういう、ことですか……。
「それじゃ、ひとまず拓馬くんには外に出ていてもらいましょうか!」
「ここは女子だけで話したいことがありますからね!」
「ま、待て! アタシもなのか!?」
「え、ちょ――」
などと思っていると、俺だけ家の外に追い出された。
ボンヤリと見慣れない町の中に立ち尽くす。
「あぁ、夕日が綺麗だなぁ……」
うん、現実逃避をしよう。
そうしよう。
それから小一時間ほど。
俺は心を無にして、空を見上げ続けるのだった。




