2.佐那とお昼。
昼過ぎになり、ちょうど腹も空いてきた頃合い。
俺は買ってきたリンゴの皮をむき始めた。台所をお借りして、包丁でちょちょいとやっていると、物陰からこちらを見てくる視線を感じる。
この家にはいま、俺と彼女しかいないわけだ。
だから、苦笑いしつつ声をかける。
「なぁ、佐那。寝て待っててくれないか?」
「むー……!」
ひょっこりこちらを覗き込む佐那。
しかしこちらの言葉に、彼女はどこか不満げな表情を浮かべていた。
どうしたのかと問おうとすると、少女は頬を膨らせながらこう言うのだ。
「拓馬さん、絶対わたしより料理できるでしょう……?」
それは俺の包丁使いを見て、ということだろうか。
「いや、昔から手先が器用なだけだからさ。そういうわけでは……」
「じゃあ、今までどんな料理を作りましたか?」
「肉じゃがとか、スパイスからカレーとか」
「家庭の味! しかも本格的!!」
涙目になって、彼女は叫んだ。
そしてまたもや頬を膨らせてしまう。
「いや、そうは言っても今の佐那は病人だろ」
「病人じゃなかったら、一緒に料理作ってくれるんですか?」
「じゃなかったら、って条件はよく分からないけど。それは俺に料理の仕方を教えてほしい、って意味?」
「です!」
「うーむ……」
俺は剥き終えたリンゴを切りながら、首を傾げた。
すると佐那が、こう口にする。
「好きな人が自分よりも料理上手って、女の子からしたら複雑です」
唇を尖らせて。
まるで、駄々をこねる子供のように。
「ふむー……」
それを聞いて俺は悩む。
そして、こう条件を出すのだった。
「それだったら、早く元気になるんだ。そしたら、教えてあげるから」
「ホントですか!?」
すると佐那は、病人とは思えないほどに明るい表情になる。
これはもしかして……。
「ふんふふーん! やったっ!」
「……まさかとは思うが、俺がはめられたのか?」
「何を言っているんですか、拓馬さん? そんなこと、ないですよっ」
「……………………」
にっこり笑った少女を見て、俺はため息をついた。
どうやら彼女はなかなかに策士だったらしい。それでも、頑張って体調を戻すと約束したのだから良しとしよう。そう考えながら、皿にリンゴを乗せた。
布団の敷いてある部屋まで戻ると、すでに佐那は寝て待っている。
キラキラとした瞳で、俺のことを見つめてきた。
「はい、リン――」
視線に苦笑しつつ枕元にリンゴを置く。
だが、その時だった。
「あーん、お願いします!」
「……あーん……?」
佐那がまたもや、子供のように甘えてきたのは。
目を瞑って大きく口を開いていた。
「いや、さすがにさ。そこは――」
「あー! あー! あー!!」
俺が羞恥心から拒否しようとする。――が、彼女は聞こえないと言わんばかりに、俺の声を遮るのだった。
これは、もはや仕方なしなのだろうか。
俺はリンゴにフォークを刺して、佐那の口元に移動させた。
「あむっ! おいひぃです!」
「………………」
嬉しそうにリンゴを食べる少女。
そんな彼女を見て、顔が熱くなる俺。
「あれ、拓馬さん? どうして顔を隠すんですか?」
「な、なんでもない……!」
思わず顔を背けると、佐那はどこか楽し気にそう訊いてきた。
これ絶対、わざやってるだろ……!
「えへへ。ありがとうございます、拓馬さん」
「ど、どういたしまして……」
ほどよい暖かさの昼に、胸の奥が熱くなる。
佐那との時間は、そうやって過ぎていくのだった。




