1.救難信号。
ここから10章。
【眷属】とは、神祖と呼ばれる人間を守護する一族に認められた人間のこと。
神祖から血を分け与えられることによって、人間でありながら特殊な能力を発現する。そして神祖の手となり足となり、人間に仇為す敵と戦う存在だった。
「で、カトレアは神祖で凪咲が【眷属】――と、いうことか」
俺は昨日の記憶と、ノートに書いた内容を照らし合わせて考える。
夢の中では、俺がカトレアの【眷属】だった。それに対して、現実では凪咲がそれということになっている。
凪咲は以前に、夢は記憶の焼き直しだ、と語っていた。
カトレアも同じことを言っていたし、そうなるとこれは俺の妄想、ということになる。しかし、それだとどこかで矛盾があるようにも思われた。
「あー、いや? これが、夢日記による記憶の混濁か?」
だが、そこまで考えてから。
ネットで調べた、そんな言葉が頭の中に浮かんできた。
「分からない、な。でも、なにか――」
重要なことを、忘れている気がした。
それが何なのか、それは分からないのだけれど……。
「……ん、と。そろそろ出ないと、学校に間に合わないな」
だが、そこで時計を見た。
そろそろ出発しないと遅刻である。
俺は荷物を手にしてから、ふとスマホを確認した。
「佐那から、メッセージ?」
するとそこには、佐那からの連絡があって――。
「え、マジか!?」
それを見た俺は、即座に学校へ欠席の連絡を入れるのだった。
◆
賀東家は、彼の高校の近くにあった。
どことなく古風な雰囲気が漂う町並みをしており、ありていに言えばボロい。どこも風が吹けば倒れそうな、そんな家ばかりだった。
その中でもいっそうに立て付けの悪い、小さな家のチャイムを鳴らす。
「はぁ、い……」
すると、中から佐那の声が聞こえた。
鍵が開けられて、ドアの隙間から少女が控えめに笑っている。頬が赤いのは、熱を出したせいだろう。気温も上がってきたこの頃なのに、厚着をしていた。
見るからに体調不良、という感じ。
「大丈夫か? リンゴとかスポーツドリンク、買ってきたよ」
「ありがとうございます。あ、上がってください」
「それじゃ、お邪魔します」
俺はほんの少しだけ遠慮がちに、靴を脱いで畳に上がった。
「親御さんは?」
「お父さんは、工場のお仕事です。えへへ……」
「そっか……。分かったよ」
そこまで聞いて、俺は彼女に母親がいないことを察する。
濁したのはそういうことだろう。
「すみません、学校休んでまで……」
「いいよ。相棒の妹のため、だからな」
「そ、そうですか?」
「あぁ、もちろん」
「え、えへへ」
畳の上に敷かれた布団の中に入った佐那。
彼女を寝かせながら、俺は床の上に胡坐をかいた。
佐那からのメッセージ。
それは、体調不良による救難信号だったのだ。
「それじゃ、よろしくです……」
毛布を目の下まで被って、申し訳なさそうに少女は言う。
俺はその頭を撫でながら優しく笑った。
「大丈夫。俺がいるから、安心して」
「……はい」
ふっと息をつくと、目を閉じる佐那。
彼女の様子を確認して、俺は少しだけ気合を入れるのだった。
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