2.佐那の見る夢と、願い。
「夢の中のわたしは、必ず真っ暗な闇の中にいるんです」
佐那はそう切り出し、語り始めた。
◆
佐那は闇の中にいる。
自分の姿さえ、手の形さえ確認できない暗闇の中に。それでもたしかなのは、自分がそこにいるということ。生きているということ。
感情がある。
もっと、みんなと遊びたいと。
もっとたくさん、いろんなことを知りたいと。
しばらく、同じ夢を見ていると気づくことがあった。
この世界は生と死の狭間なのだと。それは、誰かに教えてもらったでもなく、なにか証拠を見つけたでもない。ただ漠然とそう感じただけだった。
自分はこれから生まれるのか、それとも死んだのか。
そのどちらかは、分からなかった。
ただ――。
「わたしは、出会いたい」
記憶があった。
おぼろげながらも、彼女には記憶があった。
頼りになる兄と、その友人の記憶。
そして、もしかしたら出会えるかもしれない数多の人の声。
誰のものかは分からない。それでもきっと、誰かに出会うこと、生きることは素晴らしいことなのだと思えた。だから、佐那は願い続ける。
少しでもいいですから、わたしもあの輪の中に入りたい――と。
『キミは、そうか。キミもいたんだね……』
そう願い続けること幾度目か。
ふいに、幼い女の子の声が聞こえた。
どうやら相手は、自分を知っているらしい。
でも、自分に彼女の記憶はない。
もしかしたら、出会う可能性がなかった人、なのかもしれない。
『キミは、行きたいんだね。みんなのところに』
――はい。わたしも、みんなと遊びたい。
『きっと、苦しい思いをすることになる』
――それでも、わたしは生きたいです。
『そうだね。それが、生きる、ってことだ』
声の主とのやり取りの後、光が差した。
眩しさのあまりに、佐那は目を瞑ってしまう。
『もし、そっちのボクと出会えたなら、友達になろう?』
そして最後に、そんな言葉と共に。
佐那は目覚めるのだった。
◆
「毎日のように、決まってこんな夢を見るんです」
「………………」
佐那が話し終えると、俺たちは自然と黙っていた。
抽象的ながらも、たしかな記憶に基づく夢。物語的な焼き直しではなく、そこにあるのは間違いない。彼女の中にある経験であるように感じられた。
しかしそうなると、生死の狭間とは、どういうことなのだろう。
「佐那は、その……。この夢のこと、どう思ってるんだ?」
「わたし、ですか?」
俺が訊ねると、少女は少しだけ考えてから答えた。
「どうしてかは、分からないのですが――」
どこか、晴れやかな表情で。
「ありがとう、って気持ちが大きいです」――と。
それは、心からの感謝だと思った。
でなければ、このように裏表のない笑顔ができるだろうか。
「あの、みなさんにお願いがあるんです」
「お願い……?」
するとそこで、佐那がそう口にした。
俺たちが首を傾げると、彼女は小さく頷いて言う。
「夢の中の女の子、一緒に探してもらえませんか?」――と。
陽子先輩、凪咲と三人で顔を見合わせた。
だが、断る理由はない。
「……分かった! 探そう、その女の子!」
こうして、俺たちの今後の活動が決まったのだった。




