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4.イレギュラーな夢の話。









 賀東と別れてから、俺は意味もなく商店街に足を運んだ。

 少しでも遠回りして帰ることで、頭を冷やしたかった、というのもあるかもしれない。それでも考えてしまった。先ほど、彼が話していた夢のことを。

 どうして俺と似たような夢を、彼が見ているのか。

 その理由が分からなかった。



「いや、そもそも――」



 ――夢に理由なんて、ないのか。



 俺はそう考え始めた。

 夢は記憶の焼き直しだと、凪咲は言う。

 そう考えるなら、偶然に似たような映画を見ていて、その中にトリップしたような夢を見たとするのなら。話の辻褄は合うような気がした。

 普通なら、ここで無駄な思考は終わりだろう。



「なのに、なんでこんなにモヤモヤするんだ」



 だけど、俺にはいくつか腑に落ちない感覚があって――。



「いた!? あ、すみません!」

「……………………」

「あ、あの?」



 その時だった。

 灰色の長い髪をした、赤い瞳の男性と肩がぶつかったのは。

 完全に俺が悪いので謝罪したが、まったくの無反応に不気味さを抱いた。さらには、こちらを値踏みするように見てくる。

 闇に紛れるような黒のコート姿の男性は、こう口にした。



「ふん……。ここにも、イレギュラーか」――と。



 そして、あっさり背を向けて去っていく。

 俺は思わず首を傾げた。イレギュラーとは、どういう意味だろう。

 そう考えていると、背後から知った声が聞こえてきた。



「おや、キミは拓馬じゃないか」

「…………カトレア?」



 振り返ると、そこには黒髪に赤い瞳の少女の姿。

 その腕の中には――。



「………………」




 またもや、大量の中華まんが入った袋があった。









「同じような夢を見ている……?」

「あぁ、そうなんだ」

「ふむ」



 近くの公園まで移動して。

 ブランコに座りながら、俺は彼女に賀東の夢の話をした。

 話すかどうかは少し迷いはしたが、それでもカトレアになら話しても良いような気がしたのだ。なにせ、この少女は俺の夢の中に出てきている人物でもある。


 もしかしたら、解決の糸口があるかも分からなかった。



「なるほど、同じ夢か」

「なにか分かるか?」



 俺が訊ねると、カトレアはふふんと鼻を鳴らして言う。



「もちろんだよ。ボクはこれでも、夢については一家言あるんだ」



 そして、こう語り始めた。



「まず、夢というのは記憶の焼き直し、というのは分かるだろう? その日に経験したことを、脳のメモリに読み込んでいる作業、と言ってもいいかもしれない」

「あぁ、そこまでは分かる」

「しかし、これはあくまでも学術的な部分だ」

「学術的……?」



 俺が首を傾げると、カトレアは頷く。



「そう、科学の分野において判明している脳の機能、という意味さ。しかし夢というのは、それだけでは説明しきれない部分が大きく存在している」

「例えば……?」

「大昔の逸話に、夢の中に出てきた女性に恋をした男の話がある。今回は、これを例に挙げてみるとしよう」



 そう言って、少女は話し始めた。

 それは一つの恋物語。



 昔あるところに、一人の男がいた。

 その男は夢の中に出てくる女性に恋をしたのだ。しかし、所詮は夢の中の人物――その恋が実るとは思わず諦めた男は、他の女性と婚姻を結んでしまう。

 だが、その後に彼は出会うのだ。

 夢の中に出てきた女性と、瓜二つの人物に。

 慌てて話を聞いてみると彼女もまた、同じように男の夢を見ていた。

 しかし男はすでに婚姻を結んでいるために、その女性とは結ばれなかった。




「――以上。歴史物語の中にも、このような話が出てくる」

「それってつまり、俺と賀東が見ている夢も……?」

「それは断言できないよ。ただ、物事には常にイレギュラーが存在する」

「イレギュラー……?」



 その言葉に、また首を傾げてしまった。

 そういえばついさっきも、同じ言葉を聞いたような……。



「なにかの間違い一つで、結果に大きな変動を及ぼす。良くも悪くも、ね」

「ふむ……?」

「まぁ、要するに――」



 カトレアは、最後の一口を頬張って立ち上がった。

 そして、こう言うのだ。



「どうなるかは、ボクにも分からない!」――と。



 ガクッと、肩の力が抜けた。

 俺は思わず苦笑いをして、彼女を見る。



「……分かった。そこまで、深く考えないようにするさ」

「そう、それでいいよ」



 そしてそう言ってから、ふと思い出すことがあった。

 そうだ。彼女に訊いておきたい言葉がある。




「なぁ、カトレア? ――【眷属】って、言葉を知ってるか?」




 それは、夢の中での俺と彼女を結ぶ関係の言葉。

 もしかしたら、いまの話からしてカトレアがこれを知っている可能性もあった。そう思って聞いたのだが――。



「拓馬、それをどこで……?」



 少女は、真剣な表情になってそう言った。

 俺は赤い眼差しに射竦められ、思わず声を詰まらせる。すると――。




「まぁ、いいか。それについては、またの機会に教えよう」



 スッと、表情を緩めるカトレア。



「ただ、一つ忠告しておくよ。明海拓馬」

「忠告……?」



 だが、彼女は声を落ち着けてこう言い残すのだった。







「キミはあまり、迂闊に夢の話をしない方が良いのかもしれない」――と。





 


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