3.賀東の不安。
賀東と俺は、浜辺の端にある岩場に移動する。
そしてそこに腰掛けて、ぼんやりと沈む夕日を眺めることになった。先ほどとは一転して、あまりにも窮屈に感じる時間だが、仕方ないことだろう。
そう思いながら、相手の出方をうかがっていると――。
「あんな顔をする佐那、本当に初めて見たよ」
「え……?」
賀東は、表情を変えずにそう言うのだった。
こちらが首を傾げると、彼は手元にあった石を投げながら続ける。
「たぶん、もう俺じゃダメなのかもしれないな。――当たり前か、アイツも高校生になった。好きな奴ができて、夢中になってもおかしくないんだ」
ちらりと、俺の顔を見る賀東。
「まぁ、どこの馬の骨か分からない野郎ならぶん殴ってただろうが。拓馬みたいに一生懸命に頑張れる、尊敬できる奴なら、俺も文句はないさ」
「賀東、お前……」
「なぁ、相棒。俺からも頼みたいことがある」
「え……?」
彼はこちらを向くと、真剣な表情で頭を下げた。
「しばらくでいい、佐那のことを頼む」――と。
俺は言葉の意図が理解できない。
慌てて頭を上げさせると、その理由を訊ねた。
「どういう、ことなんだ?」
「………………」
黙る賀東。
そんな彼の言葉を、急かすことなくジッと待った。
そうすると寂しげに息をついて、こう言う。
「実は、少しばかり野球部の遠征でここを離れることになってな」
「遠征……? なんだ、深刻そうな顔をするから驚いたぞ」
「ははは、たしかにマジになりすぎた。でもな……」
俺の返答に、頷きながらも彼は不安を吐露した。
「嫌な予感が、するんだ」
「嫌な、予感……?」
深いため息。
その分厚い胸板に手を当てながら、賀東はこう口にした。
「最近、嫌な夢を見るんだ。俺はどこか荒廃した街にいて、そこで得体の知れないバケモノと戦っている。そして、そこには――」
俺は息を呑んだ。
そんなこちらの様子に気付かず、彼は歯を食いしばりながら告げる。
「佐那は、いないんだよ。ガキの頃に死んだ、それだけは覚えてるんだ」
きっと、彼は自分でも気づいていない。
自身がいま、どれほど悲痛な表情を浮かべているのか。
そしてそれは俺も同じだった。夢の中の賀東の妹――佐那はたしかに、幼い頃に亡くなっているのだから。
不思議な感覚だった。
夢の符合。それを突き付けられ、俺も背筋が凍った。
「夢だって、分かっているんだ! それなのに、あまりにもリアルで怖いんだよ! なぁ、相棒。佐那は、間違いなく生きているんだよな……?」
「……あぁ、生きているよ」
「だよな。それなのに、どうして――」
賀東はだんだんと声を荒らげる。
そして、最後にこう叫ぶのだった。
「どうしてこんなに、胸が苦しいんだよ……!!」――と。
大男が、肩を震わせる。
決して涙は流していなかった。
それでも、彼はあまりの不安に心で泣いていたのだ。
「なぁ、賀東。俺に任せてくれないか?」
「相棒……?」
それを少しでも取り除いてやりたくて、俺はこう提案する。
「一日中、ってわけにはいかないけど。放課後はずっと佐那と一緒にいるからさ。なんなら、学校を休んで一緒にいたっていい。だから、笑ってくれよ」
その、大きな肩に手を置いて。
「あぁ、あぁ……!」
「なにかあれば、すぐに病院にも連れていくから」
「ありがとう、相棒……」
絶対に破れない約束を、結ぶのだった。




