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2.佐那にとっての、特別な時間。








 その後、俺たちはショッピングモールを歩き回った。

 色々な店を見て回って、いまはフードコートの中でクレープを食べている。俺はシンプルにチョコバナナを選んだのだが、佐那は呪文のような言葉を口にした。

 そして出てきたのは、イチゴなどのフルーツがふんだんに使われたもの。

 それを見て目を輝かせる辺りは、やはり女の子か。



「はむっ……! うぅ~っ!」



 一口食べて、頬を押さえる少女。

 うっとりとしたその表情には、こちらも和んだ。



「そんなに美味しいんだ」

「おいしぃですぅ! あ、そうだ――」



 チョコバナナを口にしつつ訊ねる。

 すると佐那は、なにかを思いついたようにして前のめりに。そして――。



「はい、拓馬さんもどうぞ!」

「え……?」



 自分のクレープを差し出してきた。

 その時俺の脳裏には、とある単語がよぎる。

 しかし、それを指摘するのもどうなのか、と思った。



「どうしたんです?」

「…………」



 だって、佐那は特に意識したような顔をしていないのだから。

 これは俺の自意識過剰というやつなのか……?



「…………」

「…………」



 沈黙。

 俺は胸の高鳴りを感じながら、ゆっくりと――。



「は、む……」



 佐那のクレープを、一口。

 味を感じるような余裕などなかった。

 そうしていると、少女は嬉しそうに笑って言う。




「えへへ。これで――」





 心底、嬉しそうに。




「間接キス、ですね!」――と。






 俺はその場で一人、悶えた。









「今日はとても楽しかったです!」

「うん、こちらこそ」



 最後に俺たちは、砂浜にやってきていた。

 ここは陽子先輩と賀東兄妹が、子供の頃に遊んだ場所。懐かしそうに目を細めながら、佐那はこう言うのだった。



「わたし、小さい頃は走れなかったですから。いつも兄と陽子さんが楽しそうにしてるのを、見ているだけだったんです」



 風になびく髪を押さえながら。

 彼女は大きく伸びをして、笑った。



「だから、今はとても幸せなんです! こうやって、その――」



 俺の顔を見て、少し恥ずかしそうに。




「初恋の人と、一緒にここに来られたのが」

「え、佐那……?」

「えへへ! 二人だけの秘密ですよ?」




 彼女は数歩、砂浜を歩くと振り返って言うのだった。




「あの日、ソフト部のみなさんのために戦ってる拓馬さん、カッコよかったです! 絶対に諦めないって姿、とても眩しくて……好きになっちゃいました!!」




 夕日を浴びながら。

 とても、とても晴れやかな笑顔で。




「その、お返事はまだ、いいですから。だから――」




 こちらに駆け寄ってくる。

 そして、俺の答えより先に頬に柔らかい感触があって。




「できたら、また遊んでくださいねっ!」

「佐那……!?」




 走って、行ってしまった。

 振り返ることなく。まっすぐに、俺を置いて。

 一人残されたこちらは、どうすることもできずに呆然としてしまった。



「また、遊んでくれ、か……」



 ただ、その言葉を繰り返す。

 なぜだろう。その言葉のニュアンスに、違和感を抱いたのは。



「しかし、それにしても――」




 だが、それ以上に問題があった。




「あれは、告白以外のなにものでもない、よな!?」




 俺は佐那の言葉が耳から離れず、顔が熱くなるを感じる。

 初恋の人――少女は、たしかにそう口にした。



 やばい、こんなところ……。



「賀東に見られてたら、殺され――」

「よう、相棒」

「…………」



 ――あ、死んだわ。



 声のした方へ視線を投げると、そこにはお兄様のお姿が。

 ニヤリと笑った彼は、無言で俺の服の奥襟を掴んだ。

 そして、信じられない力で持ち上げる。




「ちょっとばかし、話をしようや」

「…………はい」





 天国から地獄へ。

 俺は見事に突き落とされるのだった。



 


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