2.佐那にとっての、特別な時間。
その後、俺たちはショッピングモールを歩き回った。
色々な店を見て回って、いまはフードコートの中でクレープを食べている。俺はシンプルにチョコバナナを選んだのだが、佐那は呪文のような言葉を口にした。
そして出てきたのは、イチゴなどのフルーツがふんだんに使われたもの。
それを見て目を輝かせる辺りは、やはり女の子か。
「はむっ……! うぅ~っ!」
一口食べて、頬を押さえる少女。
うっとりとしたその表情には、こちらも和んだ。
「そんなに美味しいんだ」
「おいしぃですぅ! あ、そうだ――」
チョコバナナを口にしつつ訊ねる。
すると佐那は、なにかを思いついたようにして前のめりに。そして――。
「はい、拓馬さんもどうぞ!」
「え……?」
自分のクレープを差し出してきた。
その時俺の脳裏には、とある単語がよぎる。
しかし、それを指摘するのもどうなのか、と思った。
「どうしたんです?」
「…………」
だって、佐那は特に意識したような顔をしていないのだから。
これは俺の自意識過剰というやつなのか……?
「…………」
「…………」
沈黙。
俺は胸の高鳴りを感じながら、ゆっくりと――。
「は、む……」
佐那のクレープを、一口。
味を感じるような余裕などなかった。
そうしていると、少女は嬉しそうに笑って言う。
「えへへ。これで――」
心底、嬉しそうに。
「間接キス、ですね!」――と。
俺はその場で一人、悶えた。
◆
「今日はとても楽しかったです!」
「うん、こちらこそ」
最後に俺たちは、砂浜にやってきていた。
ここは陽子先輩と賀東兄妹が、子供の頃に遊んだ場所。懐かしそうに目を細めながら、佐那はこう言うのだった。
「わたし、小さい頃は走れなかったですから。いつも兄と陽子さんが楽しそうにしてるのを、見ているだけだったんです」
風になびく髪を押さえながら。
彼女は大きく伸びをして、笑った。
「だから、今はとても幸せなんです! こうやって、その――」
俺の顔を見て、少し恥ずかしそうに。
「初恋の人と、一緒にここに来られたのが」
「え、佐那……?」
「えへへ! 二人だけの秘密ですよ?」
彼女は数歩、砂浜を歩くと振り返って言うのだった。
「あの日、ソフト部のみなさんのために戦ってる拓馬さん、カッコよかったです! 絶対に諦めないって姿、とても眩しくて……好きになっちゃいました!!」
夕日を浴びながら。
とても、とても晴れやかな笑顔で。
「その、お返事はまだ、いいですから。だから――」
こちらに駆け寄ってくる。
そして、俺の答えより先に頬に柔らかい感触があって。
「できたら、また遊んでくださいねっ!」
「佐那……!?」
走って、行ってしまった。
振り返ることなく。まっすぐに、俺を置いて。
一人残されたこちらは、どうすることもできずに呆然としてしまった。
「また、遊んでくれ、か……」
ただ、その言葉を繰り返す。
なぜだろう。その言葉のニュアンスに、違和感を抱いたのは。
「しかし、それにしても――」
だが、それ以上に問題があった。
「あれは、告白以外のなにものでもない、よな!?」
俺は佐那の言葉が耳から離れず、顔が熱くなるを感じる。
初恋の人――少女は、たしかにそう口にした。
やばい、こんなところ……。
「賀東に見られてたら、殺され――」
「よう、相棒」
「…………」
――あ、死んだわ。
声のした方へ視線を投げると、そこにはお兄様のお姿が。
ニヤリと笑った彼は、無言で俺の服の奥襟を掴んだ。
そして、信じられない力で持ち上げる。
「ちょっとばかし、話をしようや」
「…………はい」
天国から地獄へ。
俺は見事に突き落とされるのだった。




