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5.夢の中での、佐那。

7章ここまで!









「……賀東に、妹?」

「あぁ、そうなんだよ。もっとも、もう死んじまったがな」



 ある日、ナイトメアを狩った帰りのことだった。

 ちょうど通りがかった廃ビルのような建物を前にして、賀東は語ったのである。おそらくそこは、現実世界では病院として機能している場所だった。

 首を傾げていると、彼はふっと息をつく。



「妹は生まれながらに病気を抱えててな。そこにナイトメアからの精神侵攻を受けたんだ。幼い身体で耐え切れるはずがなかったんだよ」



 しゃがんで、静かに手を合わせる賀東。



「今でも思うんだ。もし生きていたら、ってな……」

「賀東、お前――」

「普通に学校に通って、普通に友達と遊んで、普通に恋愛をして。俺は野球をやってるからよ、それの応援に彼氏と一緒にきて、さ」



 ――そんな当たり前を、佐那は得られなかったんだ。



 俺はあえて、何も言わなかった。

 彼の肩が震えていることも、見ないふりをする。

 きっと、賀東には賀東の、背負っているものがあるはずだから。



「世界ってさ、どこまで行っても残酷だよな」

「………………」

「弱い者は幸せになれない。弱ければ死に、強いものがそれを糧にする」



 なにを思って、彼はそう言ったのだろう。

 先日亡くなった朝倉先輩の時も、何もできなかった自分を悔んでいた。俺は知らなかったが、彼らは中学時代に友人だったらしい。

 最初から持たなかった俺とは違うんだ。

 賀東はきっと、この人生の中で失い続けてきたんだ。



「ほんっとに、不公平だぜ。こんな世界にした原因が現れたら、真っ先に俺が殴りに行ってやる!」



 立ち上がり、こちらを振り返って彼は言う。

 目頭が赤くなっていた。



「なぁ、賀東? 絶対に、この戦いを一緒に終わらせような」



 そんな彼を見てると、自然にそんな言葉が漏れる。

 そして同時に――。



「馬鹿かよ、拓馬。なんでお前まで泣いてるんだ……」

「悪い、勝手にな」

「……ありがとな」



 涙を拭う。

 俺は相棒の隣で、同じように手を合わせた。

 会ったこともない彼の妹のために。すべてを終わらせよう、と。








「あぁ、夢だったのか……」



 そこで、目が覚めた。

 ノートに書き留めながら、ふっと息をつく。



「今日は、いっぱい楽しもう」





 夢の中の賀東が叶えられなかった。

 誰でも得られるはずだった、些細な幸せを描くために。



 


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