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4.佐那の事情。










 夜八時頃、最寄りの駅にて。



「お話ってなんですか。兄さん」

「おう、冗談でも兄さん、ってはやめておけよ? 死にたくないならな」

「あい、すみません」



 賀東と会った俺、開口一番の冗談に釘を刺される。

 今までに見たことのない、引き攣った笑みを浮かべた相棒の姿があった。これ以上はやめておこう、そう心に誓って、本題へと入る。



「それで、話ってのはやっぱり……?」

「そうだな。単刀直入に訊くが、お前は佐那のことどう思ってる?」



 ――やっぱりか。



 腕を組んで仁王立ちする賀東の視線が、妙に痛かった。

 しかし、訊かれたら答えなければならないだろう。なので俺は真剣に考えてから、率直な思いを返すのだった。



「正直なところ、まだ会ったばかりで。賀東の妹、ってイメージが先行してるかな? デート、ってお願いされた時はさすがに――」

「ほほう? そうか、佐那のやつデートに誘ったのか」

「あ、藪蛇だった」



 ――ごめん、佐那。



 しかし、咳払いを一つしてから兄の方は話し始めた。



「まぁ、それは置いておこう。ただ、佐那のやつ凄く喜んでてな」

「喜んでた、って。そんなに……?」

「おう」



 言葉に首を傾げると、彼は頷く。



「それはもう、大喜びさ。初めて友達ができた、ってな」

「初めて……? それは大げさじゃないか?」

「大げさなものかよ。だって――」




 そして、俺は次の言葉に閉口してしまうのだった。




「あいつ。高校入学まではずっと、入院してたからな……」









 自室に戻ってきて、俺はベッドに仰向けに転がった。

 天井を見ながら、賀東の言葉を思い出す。



『佐那は難病持ちでな。産まれた時からずっと、入退院を繰り返していたんだ。奇跡的に寛解して、今では高校に通っているが通院は欠かせない』



 ――だからアイツにとっては同い年の、初めての友達なんだよ。



 陽子先輩とも仲は良いが、それでも友達とは少し違う。

 年齢が上というので、先輩だという気持ちが強いのだろうか。賀東はそう話していたが、真意の部分はハッキリしなかった。

 それでもたしかなのは、佐那にとって俺は特別ということ。


 自惚れとかではなく、賀東も認めるところだった。



「ずっと入退院、ひとりだったってこと、か……」



 なんだろうか。

 ずっとひとりだった、という言葉が重くのしかかってきた。

 同情とかではない。そう言ったら、半分は嘘になるのかもしれない。それでも、もう半分は――共感、と言えば良いのだろうか。


 家族も友達も、何もかもあった俺が共感なんて。

 それも、おかしな話だったけど……。



「…………」



 身を起こしてボンヤリと考えた。

 佐那と遊ぶのは、明日の昼からだ。



「だとしたら――」






 俺は一つ息を吸って、ゆっくりと吐き出す。

 そして、気合を入れ直すのだった。



 


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