4.佐那の事情。
夜八時頃、最寄りの駅にて。
「お話ってなんですか。兄さん」
「おう、冗談でも兄さん、ってはやめておけよ? 死にたくないならな」
「あい、すみません」
賀東と会った俺、開口一番の冗談に釘を刺される。
今までに見たことのない、引き攣った笑みを浮かべた相棒の姿があった。これ以上はやめておこう、そう心に誓って、本題へと入る。
「それで、話ってのはやっぱり……?」
「そうだな。単刀直入に訊くが、お前は佐那のことどう思ってる?」
――やっぱりか。
腕を組んで仁王立ちする賀東の視線が、妙に痛かった。
しかし、訊かれたら答えなければならないだろう。なので俺は真剣に考えてから、率直な思いを返すのだった。
「正直なところ、まだ会ったばかりで。賀東の妹、ってイメージが先行してるかな? デート、ってお願いされた時はさすがに――」
「ほほう? そうか、佐那のやつデートに誘ったのか」
「あ、藪蛇だった」
――ごめん、佐那。
しかし、咳払いを一つしてから兄の方は話し始めた。
「まぁ、それは置いておこう。ただ、佐那のやつ凄く喜んでてな」
「喜んでた、って。そんなに……?」
「おう」
言葉に首を傾げると、彼は頷く。
「それはもう、大喜びさ。初めて友達ができた、ってな」
「初めて……? それは大げさじゃないか?」
「大げさなものかよ。だって――」
そして、俺は次の言葉に閉口してしまうのだった。
「あいつ。高校入学まではずっと、入院してたからな……」
◆
自室に戻ってきて、俺はベッドに仰向けに転がった。
天井を見ながら、賀東の言葉を思い出す。
『佐那は難病持ちでな。産まれた時からずっと、入退院を繰り返していたんだ。奇跡的に寛解して、今では高校に通っているが通院は欠かせない』
――だからアイツにとっては同い年の、初めての友達なんだよ。
陽子先輩とも仲は良いが、それでも友達とは少し違う。
年齢が上というので、先輩だという気持ちが強いのだろうか。賀東はそう話していたが、真意の部分はハッキリしなかった。
それでもたしかなのは、佐那にとって俺は特別ということ。
自惚れとかではなく、賀東も認めるところだった。
「ずっと入退院、ひとりだったってこと、か……」
なんだろうか。
ずっとひとりだった、という言葉が重くのしかかってきた。
同情とかではない。そう言ったら、半分は嘘になるのかもしれない。それでも、もう半分は――共感、と言えば良いのだろうか。
家族も友達も、何もかもあった俺が共感なんて。
それも、おかしな話だったけど……。
「…………」
身を起こしてボンヤリと考えた。
佐那と遊ぶのは、明日の昼からだ。
「だとしたら――」
俺は一つ息を吸って、ゆっくりと吐き出す。
そして、気合を入れ直すのだった。




