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8.あの日の気持ちを、思い出して。








 場は静まり返った。

 俺は眩暈を堪えながら、事の成り行きを見守る。



「ほんとに、凄い人だよ。先輩……」



 思わずそう呟いて、自然と笑みがこぼれた。

 こちらにやってくる朝倉先輩。しかし、そんな彼女の後方から――。



「危ない、先輩!!」

「え……!?」



 とっさに叫んだ。

 何故なら、そこにあったのはバットを振りかざした主犯格の女子。明らかに正気を失った眼差しで、朝倉先輩に躍りかかった。

 そして、金属バットを先輩の頭目がけて――。



「だめえええええええええええええええっ!!」



 振り下ろそうとした、瞬間だ。

 一人のソフト部員がその上級生に飛びついたのは。

 そのソフト部員はあの日、屋上から飛び降りようとしていた女の子だ。倒れ込み、取り押さえられる主犯格。しかし気が狂ったように藻掻きながら、こう叫ぶのだった。



「あの時、やっぱり殺しておけばよかった! あの運転手にも、高い金を払ったのに! ちくしょう、ちくしょう!!」――と。



 その姿は、もはや人のそれではない。

 鬼か、あるいは悪魔の様相だった。そこに至って、ようやく教員たちが動く。主犯格および他の上級生を取り押さえて、どこかへと連行していった。


 残されたのは俺たちと、先輩のかつてのチームメイトたち。


 また、長い沈黙が生まれる。

 互いに顔色を窺っている様子だった。

 だが、その長い静寂を打ち破ったのは先輩のこの一言。




「みんな、ごめんなさい……!」




 その場で、土下座をする朝倉先輩。

 恐怖心を必死に抑え込んでいたのだろう。彼女はすすり泣きながら何度も、何度も謝罪の言葉を口にした。


 大会に出られなくて、ごめんなさい。

 約束を守れなくて、ごめんなさい。

 力になれなくて、ごめんなさい。


 誰も怒っていない。

 誰も責めていない。


 それなのに、朝倉先輩は必死に謝っていた。




「陽、子……」




 それを見ていたチームメイトたちは、みな同時に涙ぐんだ。

 そして、朝倉先輩に駆け寄ると――。




「こっちも、ごめん!」

「わたしたち、陽子に頼りっ放しで!」




 大粒の涙を流しながら、みな口々にそう謝罪を繰り返した。

 先輩はそんな彼女たちを見て、少しだけ唖然とする。

 だが、すぐに気持ちを汲み取ったのだろう。




「う、うぅ……! みんなぁ……!!」




 今までの緊張から解き放たれたように。

 すべての糸が、解けていくように。




「ありが、とう……!」




 失った時間を、取り戻していく。

 あの日伝えられなかった想いと共に。




 日がすっかり落ちた、グラウンドの端で。

 彼女たちはたしかに一つの夢を果たしたのだった。




 


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