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6.勝負。









 ――現場に到着すると、夕日はもう沈みかけていた。

 赤と黒のコントラストの中で、ソフト部の上級生たちはバット片手に後輩たちを恫喝している。他の部活の学生たちは、すでに帰らされているのだろうか。

 彼女たち以外にいたのは、賀東と佐那だけだった。



「佐那!」

「拓馬さん!」



 声をかけると、彼女は潤んだ瞳で俺を見る。

 兄の方は必死に教員に訴えかけているが、彼らによって足止めされていた。明らかな異常事態だ。黙認するにしても、ここの教員は行き過ぎている。

 俺は唇を噛んで舌を打った。

 そして、一気に駆け出す。




「あ、こら! 待ちなさい!!」

「すまない、拓馬! お前に任せる!!」




 教員の数人が俺を止めようと動いた。

 だが、今度は賀東がそれを制止するように割って入る。

 結果として双方は睨み合い。俺はソフト部員のもとへと到着した。



「あ、貴方は……!」



 すると、一番に俺の存在に気付いたのはあの日、屋上から飛び降りようとしていた女子生徒。その子が反応を示してから、下級生たちには歓喜が広がった。

 だが、それに対して――。



「うるさいんだよ、アンタたち! 黙れ、って言ってんのが分からない!?」



 バットを地面に叩きつけ、上級生のリーダー格が声を荒らげる。

 にわかに沸き上がった歓声が、一瞬にして沈黙した。そのことを確認してから、上級生たちは俺のことを睨み上げる。

 不良そのものの態度に、俺は若干だが気圧された。

 しかし、すぐに睨み返して言う。



「いい加減にしろ、お前ら……!」



 怒りをにじませて告げると、リーダー格の女子は鼻で笑った。



「アタシらは、まだなにもしてないけど? ただこいつらが、ありもしないことを学校に告げ口しようとしていたからさ! ――ちょっとした、お説教だよ」

「ありも、しないこと……だって?」

「アタシらが暴力を振るっているとか、イジメをしているとかね? あーあ、濡れ衣もいいところだよねぇ!!」



 ガツン! ――再び、バットで地面を叩く。



「やめろ! 事実じゃないか!!」



 それに怯える部員たちを見て、俺は声を上げた。

 すると上級生はみな、一斉に腹を抱えて笑い始めるのだ。



「あっはははははははは!? なんなのアンタ! 正義のヒーロー!?」



 リーダー格は、そう言って俺のことを指さす。

 俺は思わず手を上げそうになるのを、ぐっと堪えた。

 ここで相手の挑発に乗っては、なんの意味もなさない。こちらが一方的に悪に仕立て上げられて、それで終わりになってしまう。


 なにか、打開策はないか――。



「だったら、俺と勝負しろ……!」

「はぁ……?」



 そう考えて、とっさに出てきたのはそんな言葉だった。

 突然の申し出に、上級生たちは呆気にとられる。

 そんな相手に俺は、こう続けた。



「三打席勝負だ。こっちがヒットを打てば、言うことを聞け!」



 俺の身体つきを見て、リーダー格は笑う。



「そんな、女みたいにヒョロヒョロな身体で? 見た感じだけど、アンタ運動経験ゼロでしょ!? ――ちょっと、調子に乗りすぎ!」

「うるせぇ! もし、こっちが負ければ口出しはしない!!」

「はっ……!」



 それでも怯まず続けると、短く笑ってからリーダー格は言った。



「面白いじゃないの、やってやろうじゃない!」



 勝利を確信した顔で……。









 ――右打席に入る。

 まさか、自分が体育の授業以外で打席に入ることになるとは思いもしなかった。それでも、ぶっつけ本番でも、やるしかなかない。

 俺は深呼吸を三回。

 静かにバットを構えると、マウンドのリーダー格を睨んだ。



 一本で良い。

 たった、一本でもヒットを打てば俺の勝ちだ!



「さぁ、行くよ……」



 だが、その時に気付くべきだったのかもしれない。

 リーダー格の口元の、不敵をな笑みに。



 素早いモーションで、相手はボールを投じた。

 速い。そして、それは避ける間もなく――。




「が――!?」




 ヘルメットもつけていない、俺の側頭部に直撃した。




「あらら~、ごめんねぇ? 手が滑っちゃった!」




 その言葉の直後。

 上級生たちは、みんな揃って笑った。

 わざとに違いない。そうでないと、あんな球速で頭部にきてたまるか。



「あれれ、血が出てるよ? それじゃ、続けられないよねぇ?」

「うるせぇよ、クソ女……!」



 眩暈がする。

 膝が震える。

 遠くから、佐那と賀東の声がする。

 悲鳴に近い先輩のチームメイトの声に、教員たちの罵声も。



 こんなの、間違っている。

 そう思うのに、ダメだ――膝に、力が入らない。



「あーあ、こりゃ脳震盪だね。諦めたら?」

「まだ、だ……!」




 でも、諦めるわけにはいかなかった。

 ここで諦めたら、彼女に顔を合わせられない。

 そうだ。他でもない、朝倉先輩に顔向けできないんだ……!




















「私の後輩に、何してるの……?」




















 その時だった。




「え……?」

「あ……?」




 たしかに、彼女の声が聞こえたのは。

 全員が声のした方へと目を向ける。すると、そこにあったのは――。




「私の後輩に、仲間に、何したって聞いてるのよ!!」




 いつにない怒りの表情を浮かべて叫ぶ、朝倉先輩の姿だった。



 


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