5.緊急事態。
6章は、もう少し続きます。
帰宅すると、俺はすぐにベッドに横たわった。
時計の針はまだ夕方を示しているが、今日はずいぶんと疲れたのだ。仰向けになると、自然に瞼が落ちてきて――。
「ん、スマホが鳴ってる。――誰だ?」
まもなく眠りに落ちようとした、その時だ。
スマホの着信音で、俺の意識は覚醒する。必死に手を伸ばして画面に表示された名前を確認した。そして、軽く首を傾げてしまうのだ。
「はい、もしもし」
不思議に思いながらも、俺は電話に出る。
すると相手は息を切らしながら、状況を説明してきた。
「え、ソフト部の上級生が!?」
その一報は、放ってはおけない内容。
俺は即座に起きて、家を飛び出すのだった。
◆
陽子はまだ、踏ん切りがつかないでいた。
真っ暗な部屋の中で、彼女は先ほど後輩から言われた言葉を思い出す。
「待っています、か……」
まさか、彼からあのように力強い声で言われるとは思わなかった。
女の子のような容姿をした、少し頼りなく思える男の子。それでも芯の部分は自分よりも強いのか、少年はまっすぐに、陽子へと気持ちを伝えた。
みんなが、待っている――と。
今まで自分は必要とされていないと、思っていた。
それなのに。どうしてだろうか、今なら彼の言葉を信じられた。
「私、もう許してもらえるのかな……?」
陽子はかつてのチームメイトたちを思う。
彼女たちと全国大会に出るのが、ずっと夢だった。
だから、執拗なイジメにも立ち向かえたのだ。それが――。
「…………!」
あの日の事故で、すべてを失った。
仲間も、それまでの苦労も、憧れた未来も。
思い出して彼女はまた、気持ちが重くなるのを感じた。
「…………あ、れ? 着信」
その時だ。
スマホが可愛らしいメロディを奏でたのは。
陽子はそれを取って画面に表示された名前を見て、少し首を傾げた。
「…………はい」
少し迷ったが、彼女は電話に出る。
そして、その相手――拓馬の声を耳にして、息を呑んだ。
「そん、な……!」
スマホを取り落とす。
運良くスピーカーが起動して、少年の声が聞こえた。
彼は息を切らしながら、こう説明するのだ。
「いま、賀東の高校のソフト部で暴力沙汰になっているみたいです! このままだと、下手をしたら取り返しのつかないことになるかもしれません!!」――と。
そこで、通話は途切れた。
陽子は目を見開いて、吐き気をぐっと堪える。
「どう、しよう……!」
呼吸が荒くなる。
どうすればいいのか、考えがまとまらない。
いいや。どうすればいいのか、どうしたいのかは、決まっていた。
「…………!!」
そして、脳裏によぎったのは。
『待っています……!』
拓馬の、あの言葉だった。




