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4.あの日の彼女を、信じる。








 目が覚めると、そこはもう現実の世界だった。

 先輩の家からほどなくしてある公園、なのだろうか。俺はベンチに寝かされており、その傍らには凪咲の姿があった。

 身を起こすと、彼女は大きなため息をついて言う。



「あれほど、夢に干渉するなと言ったのに」

「夢、って先輩の?」



 俺が返答すると、凪咲は頷いた。

 しかしそう言われても、俺にとっては事故でしかない。



「まぁ、いい。陽子にも悪影響は、なかったようだしな」

「――そうだ、先輩!!」

「落ち着け、これでもう悪夢は見ない」



 慌てて立ち上がると、少女は呆れたように言った。



「もう、大丈夫……ってことか?」



 俺は不安になりつつ訊ねる。

 すると、凪咲は難しい顔をして言った。



「それは、分からない」――と。



 その言葉に俺は、頭を鈍器で殴られたような気持になる。

 だが、どうにか堪えてこう訊いた。



「それって、どうして……?」

「あくまで悪夢は見ない、というだけだ。一度できた心の傷は、そう易々と治るものではない。あるいは、いつまでもあの状態かもしれない……」

「そんな、ことって!」

「…………」



 思わず声を荒らげる。

 これで終わりだと、そう思っていた。

 それなのに、まだどうなるか分からないのだ。



「おい、明海氏!?」

「いまから、先輩の部屋に行ってくる!」

「待て、そんなに――」




 急くな、という凪咲の制止を振り切って。

 俺は微かな記憶を頼りに、先輩の家を目指すのだった。









「拓馬くん……」

「京子さん、すみません。少しだけで良いんです!」

「………………」



 俺が家を訪ねると、先輩の母――京子さんが出てきた。

 どうにか頼み込んで家に上がらせてもらう。そして、二階にある先輩の部屋の前までやってきた。悪夢は終わったはず。それなのに、やけに静かだ。

 喉が渇く。

 緊張で指先が震える。

 そんな状態でも、俺はどうにかドアをノックした。



「………………だれ?」



 すると聞こえたのは、あまりに弱々しい女の子の声。

 俺は胸が痛むのを感じながら、声を振り絞った。



「俺です。明海拓馬、です」

「拓馬くん……?」



 朝倉先輩は、少しだけ声を大きくする。

 体調も以前よりいいのか、ドアの向かい側までやってきた音がした。



「先輩、話を聞いて下さい。賀東の高校の、話です」

「………………!?」



 だが、そう切り出すと彼女が息を呑んだのが分かる。

 怯えたような雰囲気が、伝わってきた。



「ごめん、なさい……!」



 そして、出てきたのはまた謝罪。

 なにに向けたものなのか、もはやハッキリしない。

 それでもきっと、先輩の胸の中には深い後悔があるんだ。だから――。



「誰も、先輩のこと怒っていませんよ」

「え……?」



 力強く、そう口にした。



「みんな、先輩のことが大好きなんです。チームメイトも、賀東も、佐那も。それにもちろん、俺と凪咲も!」



 気持ちをすべて、ぶつける。



「先輩が誰よりも頑張ってきたのを知っています。そして、誰よりも友達のことを大切にする人だって、俺は知っていますから。だから――」




 ふっと、息をついた。

 感情が溢れ出そうになるのを堪えて。

 俺は一言、最後にこう添えるのだった。




「待っています……!」――と。




 返事はなかった。

 それでもいい。いまは、少しだけで。

 俺は京子さんに挨拶をして、彼女の家を後にした。



 凪咲にこっ酷く怒られたが、それでもいい。

 俺は信じた。









 あの夢の中で見た、強い少女の笑顔を……。




 


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