2.記憶を頼りに。
乾いた音が響く。
何度も、何度も――俺はナイトメアに向かって引き金を引いた。
銃弾は特殊なものらしく、必要としない。俺は凪咲の位置を常に把握しながら、ゆっくりだが確実に前へと進んでいった。
夢の記憶があるから、なのだろうか。
こうやって戦っていることには、まったく違和感がなかった。
「明海氏、お前はいったい……」
そのことには、凪咲も驚いている様子。
俺自身も多少の驚きはあったが、しかし今は気にしている場合ではなかった。
ここは戦場であり、一歩間違えれば命を落とす。そのことは少女も俺も、重々承知していることだからだ。
互いに目配せをして前へ。
ナイトメアと遭遇すればそれに対応。
それを繰り返して、不自然に広い廃屋を行く。
「でも、さすがにそろそろ――か?」
「そうだな、気配がする」
その気配を追って、俺と凪咲は二階の廊下を歩いていた。
現実の世界であれば、おそらく先輩の部屋があった位置である。だが今は壁のあちらこちらが朽ち果て、崩壊していた。
それがナイトメアによるものなのかは、分からない。
そして、そんなことを考えた瞬間だった。
「きたぞ、明海氏!!」
「――――!!」
轟音が鳴り響く。
直後に、ひときわ大きな影が物陰から姿を現した。
うごめくそいつは大きさを何度も変え、這いずるようにゆっくりとこちらに迫る。これが、親玉であるに違いなかった。
他のナイトメアと違って、圧倒的な迫力だ。
「く、しかし場所が悪いな……!」
凪咲が銃を構えるものの、そう口にする。
たしかに、屋内では少々足場が不安定だった。いつどこが崩れるか分からない。そんな状況で二メートルはあろうかという魔物と戦うのは、不利に違いなかった。
「外におびき出そう!」
「分かった!」
だから俺は凪咲に提案する。
彼女も素早くそれに反応して、後方に一歩下がった――その時だった。
「なっ――!?」
彼女が踏んだ足場が、崩壊したのは。
ガラガラ、という騒音と共に。凪咲は階下へと叩きつけられそうになった。だが間一髪で、俺がその手を掴む。
裏界の構造はあべこべだ。
現にいま、凪咲の落ちようとする先には闇が口を開けている。
「明海氏、逃げろ! 手を離すんだ!!」
「できねぇだろ、そんなこと!!」
「だが、そうでないと明海氏まで死ぬぞ!?」
たしかに、彼女の言う通りだった。
背後からは大型ナイトメアの迫る音がしている。このままでは、俺まで餌食にされてしまう。それに間違いはなかった。
だが、ここで凪咲を見捨てる選択肢もあり得ない。
だから――。
「なぁ、凪咲? 一発でナイトメアを倒す方法、教えたよな」
「明海氏……? なにを、言って――」
「タイミングを合わせろ。合図と同時に、俺の眉間を撃て」
「え……!?」
そう言って、笑った。
夢の中で俺は凪咲に教えているのだ。
どうすれば、大型のナイトメアが倒せるのか、ということを。
「……本気、なのか?」
「あぁ、もちろんだ」
こちらの考えを読み取ったのか、少女はもう一方の手に持った銃を握りしめる。ここでの失敗は許されなかった。
それを理解しているからこそ、彼女は笑うのだ。
その笑顔を見て、確信する。
「さぁ、行くぞ!」
そして、背後の気配を探って。
俺は声を張り上げた。
「いまだ、撃て! 凪咲!!」
直後、乾いた音が響き渡った。




