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4.カトレアからの申し出。








 俺が名を口にすると、カトレアはスッと目を細める。



「やっぱり、ボクの名前を知っているのですね」



 そして、小さくそう言うのだ。

 クマのぬいぐるみをきゅっと抱きしめながら。

 その様子に俺は違和感を覚える。たしかに外見は夢の中のカトレアと瓜二つだ。だけどその――醸し出す雰囲気というものが、異なっている。


 夢のカトレアはどこか棘のあるような、小悪魔的な少女だった。

 それに対して目の前のカトレアはなにかに怯え、自信がなさそうだ。少なくとも俺の中に出てきた彼女とは、まったくの別人。

 いや、それは当たり前なんだけど……。



「カトレア、アタシはどうすればいい?」

「ひとまず席を外していただければ」

「……分かった」



 短く言葉を交わすカトレアと凪咲。

 少しだけ引っかかりはあったが、俺の悪友は指示に従った。

 だが、こちらとすれ違う時に小さく、耳元でこう囁くのだ。



「気を付けて」――と。



 俺は意味を理解できず、反応できなかった。

 凪咲はそそくさと建物から出ていく。それを見送っていると、カトレアが声を軽く上ずらせながらこう言うのだった。



「あ、あの……! 明海拓馬さん、お話があります!」

「え……。あ、うん!」



 彼女の声に思わず俺も背筋を伸ばす。

 すると、数秒の沈黙の後に――。



「貴方にはボクたちと一緒に、ナイトメアを討伐する任に就いてほしいです」




 そう、口にした。








「つまりナイトメアってのは魔物の一種で、人の夢を食べて悪夢を見せる。そして最悪の場合は死に至らしめる存在、ってことか?」

「はい、です。ボクと凪咲は、この街でナイトメアを倒す任に就いています」



 俺は一通りの話を聞いて、顎に手を当てて考え込んだ。

 ナイトメア――夢を喰らう魔物。こんな話をされて、はいそうですかって、素直に頷けるはずがなかった。だけど俺はすでにその存在を知っている。


 夢の中で、俺と賀東はその魔物らしき存在と戦っていた。

 そちらではカトレアとも知り合いのようで、なんなら【眷属】とかいう、意味の分からない言葉も飛び出している。



「いくつか、訊きたいことがある」



 俺は悩んだ末に、疑問をぶつけることにした。



「まず、どうして俺なんだ?」

「…………」



 一つ目、どうして俺なのか。

 これは本当に基本的なことで、なんの取柄もない俺に、なぜこのような話が巡ってきたのか。それが疑問で仕方がなかった。

 俺の問いかけに、少し考えてからカトレアは答える。



「貴方はどうやら、少し特殊なようです。夢の中でボクと出会ったと語ったそうですね。凪咲から、少しだけ聞き及んでいます」

「それで、興味を持った――ってことか?」

「他にもありますが、省けばそういうことです」



 俺が結論を先に言うと、彼女は肯定した。

 たしかに、これは俺自身も不思議に思っていることだ。

 もしかしたら、あの夢の正体を掴めるかもしれない。そう思った。



「じゃあ、二つ目。どうして、今なんだ?」



 俺は納得したことにして、次の質問に移る。

 二つ目は、どうして今このタイミングで俺を呼び出したのか、ということ。正直、いったい何の脈絡なのかが掴めない。

 凪咲から話を聞いたそうだが、果たしてそれだけか?



「これはきっと、貴方にも協力してもらう必要があると思ったからです」

「俺の協力……?」



 カトレアは、小さく首を縦に振った。

 そして、意を決したようにこう口にする。



「いま、とても強力なナイトメアが街に出現しています。この規模の相手となると、凪咲一人では心もとない。そして、被害者は貴方も知っている――」



 一度、言葉を切って。




「朝倉陽子、です」――と。





 なにか、パズルのピースがはまる感覚があった。



「…………!」






 カトレアの言葉に、息を呑む。

 俺がこちらの世界に飛び込む理由が整った、その瞬間だった。


 


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