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1.先輩のいない日。

ここから5章です。







 翌日いてもたってもいられず、休み時間に先輩のクラスへ向かった。

 一年生が三年生の教室を訪ねるのは勇気が必要だったが、それどころではない。俺は廊下を歩いていた上級生に声をかけた。

 すると返ってきたのは、こんな言葉。



「朝倉? 今日は休みだよ」

「え、休み……?」



 声をかけた男子生徒曰く、先輩は体調不良を理由に欠席したらしい。

 だが俺にはそれが嘘に思えて仕方なかった。仮に体調不良だとしても、それは風邪などでは断じてないだろう。不確かな確証が、俺の中にはあった。









 そうやって、悶々としながら午後の授業を終える。

 ホームルームを終えて放課となった後に、俺は凪咲に話しかけた。



「なぁ、凪咲? 今日の部活は、休みにしないか」

「む、どうしたのだ。明海氏」

「先輩も休みだし、三人揃わないと文芸部じゃないだろ?」

「……ふむ。一理あるな」



 俺が提案すると、彼女は少し考えて頷く。



「アタシも今日は用事があったから、ちょうどよかったのだ」

「用事って、またバイトか?」

「別件だ」

「別件?」



 そんなことを言うので俺は首を傾げた。

 すると凪咲はチラッとこちらを見て、少しだけ考え込む。



「なぁ、明海氏。もしも、この世界の真実が知りたかったら声をかけろ。そうでなくても、運命は否が応でもお前を引きずり込みそうだが……」

「なんだ、それ。また厨二病的な設定か?」

「真理、というやつだ。設定ではない」

「お、おう……?」



 鞄に荷物を乱暴に押し込んでから、彼女はこちらに背を向けた。

 そして、最後にこう告げるのだ。



「もしかしたら、お前が鍵なのかもしれないな」――と。



 俺は少女を見送りながら、意味が分からなく立ち尽くした。

 いった、どういうことなのだろうか。



「いや、それよりも今は……!」



 少しだけ考えるが、俺は思考を切り替えた。

 いまはそれどころではない。どうしようか迷っていたが、こうなれば行動しないわけにはいかない。俺は荷物をまとめると、教室から駆け出した。









 お見舞いという名目で、先輩の家の住所は教えてもらえた。

 彼女の家は賀東兄妹の学校と、俺の家の中間にある。経営者の娘だということもあってか、それなりに綺麗な住宅街にそれはあった。

 表札の苗字を確認して、俺はインターホンを鳴らす。



「はい、朝倉です」



 すると、先輩の母親だろう人の声が聞こえた。

 俺はほんの少しの緊張を胸に、名乗る。



「高校の後輩で、文芸部員の明海といいます。陽子さんのお見舞いにきました」

「あぁ、陽子の後輩さん。少しお待ちくださいね」



 それを聞くと、先輩の母親は玄関から出てきた。

 朝倉先輩をそのまま成長させたような、美魔女といって良い人だ。そんな彼女の母は、俺の顔を見ると少し困ったように笑う。



「あぁ、貴方が拓馬くんね? 娘がよく話していますよ」

「は、はぁ。ありがとうございます?」



 そして、こちらが畏まると。

 その人は少し考えた後に、こう言うのだった。



「貴方なら、お話してもいいかもしれませんね」――と。



 その言葉を受けて、俺は朝倉先輩の家の中に招かれる。

 綺麗なリビングに着くと、ソファーに腰掛けるように促された。



「あの、話って?」

「…………」



 向かいに座った母親に、俺は訊ねる。

 すると彼女は先輩がいるのであろう部屋がある方向へ視線を投げてから、ふっと息をついて語り始めた。



「あの子――陽子がおかしくなったのは、二度目なんです」






 娘の身を心配しながら。

 語られた内容は、俺の想像を超えるものだった。



 


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