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5.いつか、あったかもしれない景色。

ここまでで、4章








 朝倉先輩と、文芸部の部室で話していたことがある。

 二人きり。凪咲もいない、本当に二人きり。窓の外からは運動部の声が聞こえてきていた。彼女はそれに耳を傾けながら、どこか寂しそうに目を細めた。



「もしも、あの頃の私に戻れたのなら」

「……先輩?」



 俺の言葉は届かない。

 さっきから、会話という会話はできていないのだ。

 どこか虚ろな生気のない瞳。朝倉先輩は、ただ独り言のように口にした。



「もしかしたら、あんなことにはならなかったのかな……」――と。



 その時の俺には、意味が分からなかった。

 意味を理解できたのは、それから数か月後のこと。

 分かったから良いのではない。それが、遅すぎたのが問題だった。



「もう、ダメなんだ。私はもう、必要ないから」



 自暴自棄な言葉が並ぶ。

 時間が無為に流れていった。

 そして、下校時刻になり文芸部の活動は終了。




「あの、先輩! また明日!!」

「………………」




 ふらりと立ち上がった先輩に、俺は喉が張り裂けんばかりに叫んだ。

 しかし、彼女がこちらを振り返ることはなくて。

 ただ一人、そこに取り残された。







 彼女が失踪したのは、その翌日。

 そして、遺体として発見されたのは一週間後のことだった。









 心臓を鷲掴みされたような錯覚と共に、跳ね起きる。

 ひどく汗をかき、呼吸が乱れていた。時計を見るとまだ夜の九時。紛れもない悪夢に、俺は額の汗を拭った。

 どうしたというのか。

 ここ二日は、まともな夢を見れていない。



「そうだ、朝倉先輩……!」



 ノートを取ってから、俺はハッとしてスマホを手に取った。

 そして、発信履歴から彼女へと電話をかける。

 長い呼び出しから、聞こえたのは……。



『ただいま、電話に出ることができません……』



 そんな、あまりに無感情な機械の音声だった。

 焦燥感が募る。喉がひどく乾いていた。



「夢だ、あれは夢なんだ……!」



 自分に言い聞かせる。

 しかし、心臓は嫌なほどに脈打っていた。



 きっと、今日のことで先輩を泣かせてしまった後悔のせいだ。

 そうに違いない。俺は、必死にそう思い込んだ。

 明日、謝ればそれで済むはずだ、と。




 そう思っていたんだ。

 だけど、現実は想像以上に辛く険しいものだった。



 


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