5.いつか、あったかもしれない景色。
ここまでで、4章
朝倉先輩と、文芸部の部室で話していたことがある。
二人きり。凪咲もいない、本当に二人きり。窓の外からは運動部の声が聞こえてきていた。彼女はそれに耳を傾けながら、どこか寂しそうに目を細めた。
「もしも、あの頃の私に戻れたのなら」
「……先輩?」
俺の言葉は届かない。
さっきから、会話という会話はできていないのだ。
どこか虚ろな生気のない瞳。朝倉先輩は、ただ独り言のように口にした。
「もしかしたら、あんなことにはならなかったのかな……」――と。
その時の俺には、意味が分からなかった。
意味を理解できたのは、それから数か月後のこと。
分かったから良いのではない。それが、遅すぎたのが問題だった。
「もう、ダメなんだ。私はもう、必要ないから」
自暴自棄な言葉が並ぶ。
時間が無為に流れていった。
そして、下校時刻になり文芸部の活動は終了。
「あの、先輩! また明日!!」
「………………」
ふらりと立ち上がった先輩に、俺は喉が張り裂けんばかりに叫んだ。
しかし、彼女がこちらを振り返ることはなくて。
ただ一人、そこに取り残された。
彼女が失踪したのは、その翌日。
そして、遺体として発見されたのは一週間後のことだった。
◆
心臓を鷲掴みされたような錯覚と共に、跳ね起きる。
ひどく汗をかき、呼吸が乱れていた。時計を見るとまだ夜の九時。紛れもない悪夢に、俺は額の汗を拭った。
どうしたというのか。
ここ二日は、まともな夢を見れていない。
「そうだ、朝倉先輩……!」
ノートを取ってから、俺はハッとしてスマホを手に取った。
そして、発信履歴から彼女へと電話をかける。
長い呼び出しから、聞こえたのは……。
『ただいま、電話に出ることができません……』
そんな、あまりに無感情な機械の音声だった。
焦燥感が募る。喉がひどく乾いていた。
「夢だ、あれは夢なんだ……!」
自分に言い聞かせる。
しかし、心臓は嫌なほどに脈打っていた。
きっと、今日のことで先輩を泣かせてしまった後悔のせいだ。
そうに違いない。俺は、必死にそう思い込んだ。
明日、謝ればそれで済むはずだ、と。
そう思っていたんだ。
だけど、現実は想像以上に辛く険しいものだった。
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