4.朝倉先輩の、諦め。
自宅への帰り道、その道中。
俺は先輩にどう切り出そうかを考えていた。
たしかに、この問題を解決するには強かった頃の彼女が必要なのかもしれない。でも今の彼女にとってそれは、必要なことなのだろうか。
首を突っ込んだ以上は、解決に動きたかった。
しかしどこか、先輩の気持ちを蔑ろにしているような気もする。
少しでもいい。
今すぐにでも朝倉先輩と、話ができたら……。
「あれ、拓馬くん?」
「え……?」
そう思っていたら、偶然にも先輩が現れた。
どうやら気付かぬうちに、先日のメイド喫茶の前までやってきていたらしい。そこから出てきたらしい朝倉先輩は、俺を見て首を傾げていた。
そして、少し考えてからこう言う。
「もしかして、礼二先輩たちに会いに行ってた?」
「……………………」
「その様子だと図星、だね」
「すみません」
思わず謝罪すると、先輩は少し困ったように笑うのだった。
そして、ふっと息をついて。
「ねぇ、拓馬くん?」
「はい。なんです――」
「ちょっとだけ、デートしよっか!」
「……か? って、へ?」
満面の笑みで、そう口にした。
◆
「懐かしいなぁ。この海辺に、昔はよく来たんだよ」
「それって、賀東と佐那と一緒に?」
「……うん、そうだね」
商店街近くには、小さいながらも浜辺があった。
夕日を浴びながら波打つそれに、目を細めながら朝倉先輩は言う。ここは以前に、賀東兄妹と一緒に遊びにきた場所なのだ、と。
まだ水は冷たい。
それでも彼女は、裸足でそれと戯れていた。
そんな先輩の後ろを歩きながら、俺は大きく深呼吸をする。
「ねぇ、拓馬くん。――礼二先輩、なんて言ってたの?」
「なんて言ってた、って?」
そうしていると、こちらに背を向けて彼女は言った。
俺は問いの意味が読み取れずに、ついつい首を傾げてしまう。
「たぶん、なにも言われてないんでしょ? だって――」
すると、先輩はこちらを振り返った。
その顔には、いまにも泣き出しそうな笑顔が浮かんでいる。
朝倉先輩は、言った。
まるでそれが、変えられない事実かのように。
「私もう、なんの価値もないから」――と。
それは、あまりにも悲しい自己否定。
俺は思わず首を左右に振った。
「そ、そんなことないです!」
「そんなことあるよ。私が仲良くしてもらってたのは、ソフトボールが人より上手だったから、ただそれだけだもん。もう、私は――」
「先輩!!」
「……………………」
心が苦しい。
俺は彼女のそんな言葉が聞きたくなくて、声を張り上げた。
すると先輩はまた、悲し気な笑顔を浮かべるのだ。
「ありがとう、拓馬くん。でも、ね……」
目を伏せて。
先輩は自信なき声色で続けた。
「それが、本当だもん」――と。
自分は役立たずだ。
なにもできない、そんな存在だ。
朝倉先輩の中からは、諦めがにじみ出ていた。
「そんなこと、ない……!」
だから、俺は頭が熱くなるのを止められず。
感情に任せて、こう叫んだ。
「チームメイトのみんなが、先輩を必要としています!!」――と。
俺たち以外誰もいない浜辺に、声が響き渡る。
「……え?」
こちらの言葉に、困惑の表情を浮かべる先輩。
その時の俺は、彼女の感情の機微に気が付くことができなかった。
「いま、あっちのソフト部ではイジメが起きています。先輩の力が必要なんです! だから――」
乱暴に、頭を下げる。
「強かった先輩に、戻ってください!」
そして、言ってしまった。
朝倉先輩の気持ちを完全に無視して。
俺は自分勝手に意見を、そして感情を押し付けた。
「…………」
「先輩……?」
そのせい、だったのだろうか。
朝倉先輩は――。
「ごめん、ね。私にはもう――」
大粒の涙を流しながら。
「無理、なんだよぅ……」
その場で、膝から崩れ落ちてしまうのだった。




