3.一筋縄では、いかない。
教員に女の子を預けてきた。
どうして部外者の俺がここにいるのか。そんな質問を浴びせられたが、人命優先だったと言って押し通した。その上で、上級生によるイジメを訴えたのだが――。
「なんで、誰も話を聞こうとしないんだ……!」
本当に、気味が悪かった。
ソフト部の三年生の話になると、誰もが口を噤むのだ。
そして部外者なのだから、これ以上は詮索するなと、そう告げられる。どうしてかと訴えかけても、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべられるだけだった。
これ以上は、話しても埒が明かない。
そう考えて俺は職員室から出た。
「どうして、誰も――」
「ソフト部の三年生――イジメの主犯格は、この学校の大口寄付人の娘なんです」
「だからきっと、教員たちは口止めを喰らってるんだな」
「あ……。賀東に、佐那?」
そして、校舎を出たところで知り合いに声をかけられる。
「お騒がせして、本当にすみません」
「今日はありがとう。俺も、もっと早くに気付けばよかったんだが……」
その知り合い二人――賀東礼二と、妹の佐那は難しい顔で言った。
俺はひとまず、事情を聞くことにする。
「大口の寄付人……って、つまり?」
「娘の通っている学校に、それだけ影響力があるってことだ。学校で噂にならないように根回しもしているし、俺でさえ佐那に言われるまで知らなかった」
「お兄ちゃんはもう少し、他人を疑うことを覚えた方が良いよ?」
「…………お、おう」
佐那の指摘に、苦々しい表情で腕を組む兄。
そんな兄妹を見ながら、俺は唇を噛んだ。そして――。
「だとしたら、どうするんだ。二人に、なにか案は?」
少しでもいい。
なにか、解決の手掛かりになるものはないか。
藁にも縋るような思いで、訊ねた。だが、都合よく出てくるはずもなく……。
「すみません……」
「俺たちの家は貧乏だからな……」
二人はそう口にすると、うつむいてしまった。
それに心が焦るが、ぐっと堪える。ここで下手に声を荒らげても、冷静さを欠くだけで何の意味もなさない。きっと何か、手立てが――。
「やっぱり――」
「え……?」
そう考えていた時だった。
寂し気な目をしながら、佐那がこう口にしたのは。
「あの頃の陽子さんが、必要なんだと思います」――と。
それを聞いて、俺は小さく首を傾げた。
「それって、つまり?」
「あの頃の朝倉は、とても気が強かったんだ。弱い者がイジメられているのを善しとせず、毅然としてそれに立ち向かうほどにな」
「でもその代わり、一人で抱え込んでしまうところがあって――」
――それでも本当に、とても優しい方なんです。
賀東の言葉を引き継いで、佐那がそう結論を口にする。
俺は自分の知らない朝倉先輩の姿を思い描こうとしたが、上手くいかなかった。俺の中の彼女はいまにも消えてしまいそうな儚げな美人、というもの。
そのはずなのだが。
しかし、先輩を良く知る二人は違うことを言う。
だとすれば、なにかが彼女を変えてしまった、ということになるが……。
「ひとまず、このことを朝倉先輩にも話すべき、だと思う」
俺はそう意見を口にした。
二人も少々悩んだ様子だったが、頷いてくれる。
そうなると、次の行動は俺の順番だ。『いまの彼女』と接点を持つのは、俺だけなのだから……。
「頼んで、良いか?」
「できるだけは、やってみるよ」
賀東の控えめな言葉に、俺は一つ呼吸を入れながら答えた。
少なくとも、なにか動かなければならない。
でも、この時。
俺の中には漠然とした不安が、募っていたのだ。




