2.危機一髪。
そのあと文芸部の活動は、すぐに終了となった。
とても続けられるような空気ではない。俺が提案するとすぐに、朝倉先輩は申し訳なさそうに笑って了承した。そして少しだけ話したのち、俺は――。
「急に押しかけても、大丈夫なのかな」
大急ぎで、賀東兄妹の通う高校にやってきた。
理由というのも、さっきの朝倉先輩の一言。それが耳に張り付いて取れない。このままでは、なにかが手遅れになるような焦燥感があった。
だから、その衝動に突き動かされるようにして。
俺がグラウンドを覗くと、ソフト部は普通に練習をしていた。
「それよりも、賀東と佐那を探さないと――ん?」
当然ここに野球部員の賀東や、その妹の佐那はいない。
だから、大慌てで他の場所へ向かおうとした。
――だが、その時だ。
「アンタねぇ、分かってる? いまのトップはアタシらなの!」
ガシャン、という音と共にそんな罵声が聞こえてきたのは。
俺は何事かと思って、その音のした方へと向かう。
「なんだここ、薄暗くて気味が悪いな……」
そこは日差しもろくに差し込まない場所だった。
建物と木々の隙間を縫うように進んだ先。
意図的に入り込まなければ、ここに空間があるなんて知れないような。まさに死角というに相応しい。そんな場所から聞こえてきたのは、やはり暴言だった。
「アンタたちがここに入学できたのは、アイツにおんぶに抱っこされて、まかり間違って県大会を勝ち進んだからだっての! 本当は、そんな実力もないくせに!」
パシン、という頬を叩く音。
俺が少し陰から覗き込むとそこには、先日の上級生の姿。
そして尻餅をついているのは昨日助けたソフト部員の中でも、もっとも気の弱そうな外見をした女子生徒だった。
そんな彼女を、三人の上級生が見下して嘲笑う。
「あーあ、泣いちゃったよ?」
「情けないの。本当のこと、言われただけなのにね」
「もういいわ、スッキリしたし。練習行きましょ?」
泣き崩れる女の子を放置して、上級生たちは去っていった。
俺はいてもたってもいられずに、その子のもとへと駆け寄ろうとする。だがそれより先に女の子は駆け出して、校舎の中へと入っていった。
どうするか――!?
俺は自分が部外者だということを思い出し、一瞬だけ躊躇した。
だが、すぐに首を左右に振って走りだす。
「くっそ、足速い……!」
必死に追いかけるが、校舎三階まできたところで見失ってしまった。
どうする。どこに行ったんだ……!?
「上か、下か……!?」
いいや、この状況では下に行く必要はない。
だとしても、ここが最上階。だとしたら、もしかして――。
「くっそ、まさか……!!」
◆
屋上へと向かう扉は開いていた。
そこを勢いよく抜けると、フェンスの手前でさっきの女の子が靴を脱いでいる。唇を噛んで、恐怖心を押し殺すようにして。
そして、フェンスをよじ登ろうと手をかけた。
「待ってくれ!」
「ひっ!?」
俺はとっさに声を張り上げる。
すると女の子は、あからさまに怯えた表情でこちらを見た。
涙をにじませた彼女は、膝から力が抜けたらしい。その場にへたり込んで、肩を大きく揺らしながら泣き始めてしまった。
「どうして、こんな……」
駆け寄って、彼女の肩に手を置く。
すると涙声で、もう何もかも分からなくなっている様子で女生徒は言った。
「だって、こんなの耐えられない! あたし、陽子みたいに強くないもん!! ――でも、でも! ここで頼ったらまた、陽子が酷い目に遭うから……!!」
そう口にして、また大声で泣きじゃくる。
俺はそんな女の子を見て、拳を強く握りしめた。
「…………くっ!」
湧き上がってくるのは、間違いなく怒りのそれ。
俺は必死に女の子をなだめながら、一つの決意をするのだった。
絶対にこの――【悪夢】のような時間を終わらせてやる、と。




