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1.何を語るか。

ここから4章








 翌日の部活。

 相も変わらぬ緩い空気の中で、俺は一人だけ緊張していた。

 昨夜、あのような夢を見たせいだろう。あまりにも悪質で許せない、しかしそれでいて真に迫っているような、そんな夢だった。

 凪咲の緊張感のない、間抜けな夢の話を聞きながら考える。



 ――あれはなんだったんだ、と。



 現実と夢の区別はついているつもりだ。

 それでも、どうも忘れられない。夢日記というものは、夢と現実の混同があり得るからやめた方が良い――ネットで調べると、そんな記述もあった。

 もしかしたら、今の俺はそのような状態なのだろうか。



「……くん。拓馬くん?」

「え? あ、はい?」

「次は拓馬くんの番だよ?」

「あぁ、そうなんですか。分かりました」



 そんなことを考えている間に、俺の発表が回ってきたらしい。

 しかし、何を話せばいいのだろうか。俺は――。



「……えっと」



 二つの選択肢があった。


 一つは、カトレアのこと。

 夢の中で出会った不思議な少女との会話。

 この場でそれを言えば、冷やかしを受けるに決まっていた。



 もう一つは、賀東のこと。

 夢の中で出会い、そして現実でも出会った相棒。

 しかし、彼の話をすれば遅かれ早かれ、俺があちらの高校に行ったことが先輩にバレるだろう。




 しばらく考えて、俺は答えを出した。














「俺は二種類の夢を見ました。不思議な女の子と過ごす夢、そしてもう一つ夢の中で出会った人に、実際に会いました」――と。











 夢の中でカトレアと出会った話と、現実に賀東に出会ったこと。

 それらのことを合わせて語り始めると、朝倉先輩と凪咲は両者ともに黙ってしまった。そして、すべてを話し終わったとき、文芸部にはかつてない重苦しい空気が漂う。俺は思わず気圧されて、困惑してしまった。



「え、っと? なに、この空気は……」



 少々おどけた口調で言うと、すっと凪咲が立ち上がる。

 そして、真剣な声でこう言った。



「少し用事が出来たから、今日はこれで帰る」

「お、おう……」



 先輩も止めることなく、少女が出ていくのを見送る。

 結果的に俺と朝倉先輩の二人だけになって、さらなる静寂が訪れた。



「そっか、礼二先輩に会ったんだね……」

「………………」



 だが、それを先輩が破る。

 少し懐かし気に目を細めて、ふっと息をつくのだった。



「礼二先輩には、とてもお世話になったんだよ? 中学時代には困ってる私の相談に乗ってくれたし、色々動いてくれたりもした。佐那ちゃん、っていう妹さんもいてね。三人でよく一緒に遊んだりもしたっけ……」

「そう、だったんですね」



 そうか、佐那は賀東の妹だったのか。

 俺は先輩の話を聞きながら、一人勝手に納得していた。



「二人は元気そうだった?」

「はい、とても元気でしたよ」

「あはは、それは良かった」

「………………」



 問いかけられて、真っすぐに応える。

 すると朝倉先輩は儚げに笑んで、少しだけ自分のノートを開いた。そして、ちらりと確認してから頷く。



「実は私も、最近二人の夢を見たの」

「賀東と、佐那の?」

「うん」



 俺が確認すると、肯定してから彼女は静かにこう言うのだった。







「二人とも、私のことなんか忘れてるよね……」――と。




 


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