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5.悪夢――葬儀。

ここまで、3章です。









 ――喪服を着た人たちが、列を成している。

 俺もその中の一人。学生という身分上、服装はそれに準ずるものだったが。淡々と進む式の中では、そんなことを気にする人などいなかった。

 誰もが自分の元から去ってしまった彼女のことを、悼んでいる。


 凪咲は俺の傍らで、大声を出して泣いていた。

 賀東は、静かに怒りを堪えるようだった。

 そして俺はただ、呆然と――。



「どうして、こんな若くして、ねぇ」

「自ら命を絶ったらしいわよ?」

「しっ、それは言わない!」

「あらあら……」



 無神経な老婆たちの会話が聞こえてきた。

 でも、それは事実だ。変えようがない、戻しようがない事実。

 彼女はあの日、突然に俺たちの前から姿を消した。次に発見された時には、もう手遅れだった。誰にも見つからないような、そんな場所で。

 孤独という言葉を体現したように、彼女は首を吊っていたのだ。



 それもまた、俺が又聞きした話に過ぎない。

 賀東はもっと詳しく知っている様子ではあったが、話そうとはしない。



 彼は言っていた。

 どうして自分はなにも、救えないのか、と。

 どうして、恩義を果たすことができないのだろうか、と。



「賀東……」

「すまない、拓馬。少し席を外す」

「……あぁ」



 短い会話を交わして、彼は退出した。

 そして直後に壁を叩くような音が聞こえ、泣き崩れる声が響く。

 俺と凪咲はそれを耳にして、また涙が出そうになった。それでも、ここで泣いてはいけない、そう感じてしまう。


 何故なら、彼女はみんなの笑顔が大好きだったから。

 誰よりもきっと、文芸部のことが大好きだったから。



「でも、どうしてだよ……!」



 そうは思っても、悔しくて悔しくて、握った拳に力がこもった。

 爪が手のひらに食い込み、薄っすらと血がにじむ。

 食いしばると、奥歯が軋む音がした。



「どうして、こんなこと――」



 俺は、遺影を見て彼女の名を呼ぶ。

 大粒の涙を流しながら。













「朝倉、先輩……!」――と。









 全身から、脂汗がにじむのが分かった。

 俺は呼吸を荒げながら、大急ぎで身を起こす。

 ノートを手に取って――いいや。それより先に、電話をかけた。



「あ、あの……」



 緊張で、声が震える。

 つながった相手は、キョトンとした風に言った。



「こんな遅くに、どうしたの? 拓馬くん」



 声の主――朝倉先輩は、小首を傾げているのが分かるような声色で。

 深夜の電話に、なんてことなく応対した。



「あ、いや……。すみません、変な夢を見ちゃって」

「変な夢……? もしかして、今日みたいな?」



 俺が素直に言うと、先輩はメイド喫茶でのことを話題にして笑う。



「あ、まぁ……、そんな感じです」

「そっか。ごめんね、今日は」

「いえ、楽しかったです」



 俺は当たり障りのない言葉を選んだ。

 そして、別れの挨拶をして電話を切った。

 ものの数分のやり取り。ただ、その後に襲い掛かってくるのは――。






「なん、なんだよ――あれは!」






 あまりにも生々しい、現実味を帯びていた夢の内容。

 ノートを取る手が震えた。文字が、歪む。それでもどうにか書き終えて、俺は大きく息を吸い込んだ。そして、唇を強く噛む。



 怖い、とにかく怖かった。

 理由の分からない、恐怖心に苛まれる。



 ただ何故だろう。

 この出来事は、遠くない未来に起こり得る。そう思えた。






「なんなんだよ、なんなんだよッ!」





 深夜の自室で。

 俺は誰に向けることのできない怒りを、延々と吐き出し続けていた。



 


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