表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/63

4.今の生活が、大切で。









 ――そういう意味じゃないんだよなあああああああああああああ!?


 俺は心の中で叫んだ。

 何故なら朝倉先輩に連れ込まれた後、多くのメイドたちの手によって衣服をひん剥かれた。そして、メイクを施されてウィッグをつけられ、最後はメイド服に着替えさせられる。



「…………」



 最終的に俺は、見事なまでに変身してしまった。

 鏡に映るのは黒髪の美少女。目の色こそ違うものの、夢の中の少女――カトレアのようだった。これが俺。これが、俺……?



「良く似合ってるよ~、拓馬くん!」

「あ、あはは……」



 ウキウキの先輩が、俺の肩を掴んで微笑む。

 乾いた笑いしか出なかった。



「拓馬くんと凪咲ちゃん、どっちも似合うと思ってたんだ! やっぱり私の目に狂いはなかったんだね!!」

「………………」



 この人、隙あらば凪咲も餌食にするつもりだったのか。

 それはさておき、満足してもらえたなら早く解放してもらいたかった。



「そ、それじゃ――」

「うん! お店で働いてみようか!!」

「…………へ?」



 俺がメイド服を脱ごうとした瞬間。

 朝倉先輩が、正気の沙汰ではない発言をした。

 まさかと思い、青ざめつつ見るとそこには――。



「ふふふふふ、ほら行こう? 拓馬くん!!」




 瞳を輝かせる、天使のような悪魔がそこにいた。







「大好評だったねぇ~」

「やめて。俺に男の娘属性なんて、ないから……」

「きっと明海ちゃんを見て、目覚めちゃった人もいるね!」

「………………」



 先輩の言葉に、全身が怖気だつ。

 やめてください、まだ俺死にたくない。



「さすがに、もう着替えても良いですか……」

「うん、ありがとうね!」



 一応の了承を取ってから、俺は更衣室でメイド服を脱ぎ始めた。

 モノの流れで職業体験をすることになったけれど、どうやらここは朝倉先輩の父が経営している店のひとつらしい。他のメイドさんから、そんな話を聞いた。

 そして今日は彼女も遊びに来ていたらしく、偶然にぶつかった、と。



「それにしても……」



 普段着に袖を通したところで、俺はふと思った。

 こうやって自分の好きなことをしている朝倉先輩は、本当に幸せそうだ、と。今日、あっちの学校で聞いた暗い過去なんて微塵も感じられなかった。

 だからこそ、俺は思う。



 ――元チームメイトの現状を教えて良いものか、と。



「拓馬くん、そろそろ大丈夫かな?」

「あ、はい。大丈夫です!」



 俺はその声に慌てて服装を整えた。

 そして、それが完了したタイミングで先輩が顔を覗かせる。



「今日のお礼! ここのサービス券なんだけど……」

「あぁ、ありがとうございます!」

「ふふふ。こちらこそ」



 サービス券を受け取って、財布に仕舞い込んだ。

 そんなこちらを見て、先輩はまた嬉しそうに目を細めてからこう言う。



「私ね、今の生活が気に入ってるの」――と。



 心の底から、そう思っていると告げるようにして。



「だから、それを守るためなら何でもしたいな、って!」




 彼女は、曇りない笑顔で。

 そう口にしてから、改めて感謝を述べるのだった。







 一人、電車に乗って考える。

 やっぱり俺のような、部外者がかかわるべきではない、と。



「先輩も、きっと望んでないよな……」





 車窓から見える景色の移り変わり。

 夕日の沈む地平線に、ゆっくりと目を細めるのだった。



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ