4.今の生活が、大切で。
――そういう意味じゃないんだよなあああああああああああああ!?
俺は心の中で叫んだ。
何故なら朝倉先輩に連れ込まれた後、多くのメイドたちの手によって衣服をひん剥かれた。そして、メイクを施されてウィッグをつけられ、最後はメイド服に着替えさせられる。
「…………」
最終的に俺は、見事なまでに変身してしまった。
鏡に映るのは黒髪の美少女。目の色こそ違うものの、夢の中の少女――カトレアのようだった。これが俺。これが、俺……?
「良く似合ってるよ~、拓馬くん!」
「あ、あはは……」
ウキウキの先輩が、俺の肩を掴んで微笑む。
乾いた笑いしか出なかった。
「拓馬くんと凪咲ちゃん、どっちも似合うと思ってたんだ! やっぱり私の目に狂いはなかったんだね!!」
「………………」
この人、隙あらば凪咲も餌食にするつもりだったのか。
それはさておき、満足してもらえたなら早く解放してもらいたかった。
「そ、それじゃ――」
「うん! お店で働いてみようか!!」
「…………へ?」
俺がメイド服を脱ごうとした瞬間。
朝倉先輩が、正気の沙汰ではない発言をした。
まさかと思い、青ざめつつ見るとそこには――。
「ふふふふふ、ほら行こう? 拓馬くん!!」
瞳を輝かせる、天使のような悪魔がそこにいた。
◆
「大好評だったねぇ~」
「やめて。俺に男の娘属性なんて、ないから……」
「きっと明海ちゃんを見て、目覚めちゃった人もいるね!」
「………………」
先輩の言葉に、全身が怖気だつ。
やめてください、まだ俺死にたくない。
「さすがに、もう着替えても良いですか……」
「うん、ありがとうね!」
一応の了承を取ってから、俺は更衣室でメイド服を脱ぎ始めた。
モノの流れで職業体験をすることになったけれど、どうやらここは朝倉先輩の父が経営している店のひとつらしい。他のメイドさんから、そんな話を聞いた。
そして今日は彼女も遊びに来ていたらしく、偶然にぶつかった、と。
「それにしても……」
普段着に袖を通したところで、俺はふと思った。
こうやって自分の好きなことをしている朝倉先輩は、本当に幸せそうだ、と。今日、あっちの学校で聞いた暗い過去なんて微塵も感じられなかった。
だからこそ、俺は思う。
――元チームメイトの現状を教えて良いものか、と。
「拓馬くん、そろそろ大丈夫かな?」
「あ、はい。大丈夫です!」
俺はその声に慌てて服装を整えた。
そして、それが完了したタイミングで先輩が顔を覗かせる。
「今日のお礼! ここのサービス券なんだけど……」
「あぁ、ありがとうございます!」
「ふふふ。こちらこそ」
サービス券を受け取って、財布に仕舞い込んだ。
そんなこちらを見て、先輩はまた嬉しそうに目を細めてからこう言う。
「私ね、今の生活が気に入ってるの」――と。
心の底から、そう思っていると告げるようにして。
「だから、それを守るためなら何でもしたいな、って!」
彼女は、曇りない笑顔で。
そう口にしてから、改めて感謝を述べるのだった。
◆
一人、電車に乗って考える。
やっぱり俺のような、部外者がかかわるべきではない、と。
「先輩も、きっと望んでないよな……」
車窓から見える景色の移り変わり。
夕日の沈む地平線に、ゆっくりと目を細めるのだった。




