3.まさかの遭遇、展開。
佐那と話を終えて、その日はひとまず帰ることにした。
「ところで、どうして佐那は朝倉先輩のことを?」
去り際に訊ねると、彼女はこう答える。
少しだけ、はにかんで。
「わたしも小さい頃、陽子さんに助けてもらったんです」
――だから、ご恩に報いたくて。
佐那の言葉は俺の胸に残った。
心の底から、みんなが朝倉先輩に感謝している。
だからこそ彼女に、朝倉陽子という女の子を助けたいと思っていた。
「どうにか、できないのか」
少しだけ日が傾き始めた頃合い。
俺は街を歩きながら、必死に考えていた。しかし、考えれば考えるほどに沼にハマっていくような感覚に陥る。そして同時に――。
「そういえば昼飯、食ってなかったな」
腹が鳴った。
せっかくだし、どこかの店に入ろう。
地元とは少し離れた場所だから、どこも物珍しい店ばかりだ。そして、その中でもひときわ異彩を放っていたのが……。
「こんなところに、メイド喫茶なんてあったのか……。マジか」
ほんの少し寂れた街並みに似つかわしくない、ヲタクの隠れ家であった。場違いに思えるその景観に、思わず興味を惹かれてしまう。
俺は意を決して、そこに足を踏み入れた。
すると――。
「お帰りなさいませ、ご主人様っ!」
ワントーン高い、甘えるような声で迎えられる。
瞬間の羞恥心に身を引いてしまうが、ここまできたら引き下がれなかった。泳がせていた視線をどうにかスタッフの方へと向ける。
そこには一人のメイドさんが立っていた。
猫耳に、フリルをふんだんに使った衣装は愛らしい。
「あ、あの、一人です」
「分かりましたっ! ――でも、ごめんなさい。ご主人様、今日は他のお嬢様と一緒にお茶することになりますが、よろしいですか?」
「あぁ、相席ってことか。いいですよ」
「ありがとうございますっ!」
勢いに負けて、相席まで了承してしまった。
まぁ、仕方ない。それに、自分だけでないと思えれば多少は楽になる。前向きに考えよう、前向きに……。
「それでは、ご主人様こちらにどうぞ!」
「はい、ってあれ――!?」
「えっ!?」
俺は自分に必死に言い聞かせて、席へと向かった。
だが、そこで待っていたのは意外な人物。
「朝倉、先輩……?」
「拓馬くん、どうしてここに!?」
ケーキにパフェ。
そして、オリジナルドリンクを堪能する朝倉先輩の姿が、そこにあった。
◆
「…………」
「…………」
――まさかの事態です。
俺はたまさかの出会いから、憧れの先輩と一緒に喫茶店で食事することになった。そこがメイド喫茶でなければ、個人的にはさらに良かったのだが。
とにもかくにも、ここは何か会話を切り出さなければ……!
「せ、先輩ってこういうの好きなんですね!」
「うん、えへへ。可愛いの好きだから……」
「そ、そうですね! あはは……」
――やべぇ! ここにきてテンパってる!
元からないボキャブラリーが、さらに削られている気がした。
全身から嫌な汗が噴き出している感覚。そして背筋には砂が流れ落ちていくような、ある種で恐怖に近いそれが、俺を襲っていた。
「あの、拓馬くん……?」
「え、あ、はい?」
それに硬直していると、声をかけてきたのは先輩の方。
彼女は緊張した面持ちでこう訊いてきた。
「もしかして、こういうの興味あるの……?」――と。
それは、ある意味での踏み絵だった。
「――――――」
考えろ、明海拓馬。
ここはどう答えるのが、正解なのか。
朝倉先輩は、可愛いもの好きを公言していた。だから、ここは空気を壊さないために小さな嘘も悪ではない。しかしそれによって、これからの関係が変化してしまうのではないか。俺の中ではそんな思いや考えが、ぐるぐると巡っていた。
正直に答えるべきか。
それとも、小さな嘘をつくべきか。
男として正しいのは――。
「あの、拓馬く――」
「もっちろん、大好きに決まってるじゃないですか!!」
――はい。
もう、どうにでもなれ。
俺は満面の笑みに加え、サムズアップで先輩に答えた。
すると彼女は、パッと明るい表情になる。そして立ち上がると、俺の手を取って瞳を輝かせながらこう言うのだった。
「そうなの!? ――じゃあ、こっちにきてくれる!?」
「…………へ?」
言われるがまま、連れていかれたのは店のスタッフルーム。
そこに至って俺は確信した。
――不味った、と。




