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2.互いを想うからこそ。









 トイレから出ると、ソフト部の女子たちが並んでいた。



「あの、ありがとうございました!」

「助けてくださって、感謝です!!」



 いや、単純にトイレに行きたかっただけとは言えない。

 少しばかり苦笑いをしながら頬を掻いた。しかしちょうど良いので、要件を済ませようと思う。俺はその女子たちに訊ねた。



「訊きたいことがあるんですけど。あの、朝倉って人知ってますか?」

「え……!」



 すると彼女たちは、一様に困惑したような表情を浮かべる。

 こちらから視線をそらして、どこか宙を見ていた。

 そして、沈黙が続いて……。



「あ、すみませんっ! 部活の練習が始まるので!」

「ちょっと、待って!!」



 そう、一人が言うと足早に去って行ってしまった。

 ぽつんと取り残される。俺は唖然としたまま、彼女たちの消えていった方を見つめるだけ。いったい、どうしたというのだろうか。

 しかし、たしかなのは手掛かりがなくなってしまったこと。

 俺はどうしたものかと、腕を組んだ。



「あの、それって陽子さんのこと、ですよね……?」

「ん? あ、キミは――案内してくれた女の子」



 すると、そんな俺に声をかけてきたのは道案内人の少女。

 彼女は緊張した面持ちで、こう名乗った。



「あの、わたし佐那、っていいます。実は陽子さんとは知り合いで……」



 少女――佐那は、意を決したように言う。




「陽子さんのお話、聞かせてください!」









「そう、ですか。陽子さんはいま、文芸部に……」



 一通りの話を終えて、佐那は少し寂し気にそう口にした。

 その様子を見て、俺は自分の疑問について訊ねる。



「なぁ、佐那? さっきのソフト部の女子たちは――」

「イジメられているんです。上級生のみなさんに」

「え、どうして……?」



 すると、返ってきたのはそんな言葉。

 こちらの反応に、佐那は少し困ったように説明した。



「さっきのソフト部の人たちは、全員同じ――陽子さんと一緒の中学だったんです。つまり、陽子さんのことをイジメてた上級生と、チームメイトさん」

「………………」



 彼女の言葉を聞いて、絶句する。

 それって、要するに――。



「イジメの標的が、変わっただけ、ってことか?」

「…………はい」



 俺の導き出した答えに佐那は頷いた。


 改めて状況を整理する。

 過去に朝倉先輩をイジメていた上級生は、卒業後にこの私立に入学した。そして、あとから入ってきた中学の後輩にイジメを行っている。

 そんな奴ら、どうしようもなく……。



「クズじゃねぇか……!」



 思わずそう口にしてしまった。

 要するに賀東が話していたような、才能への嫉妬だとか、そんなのは関係ない。あの上級生たちはとにかく、自分より弱い立場の人間を攻撃するんだ。

 そんなの、本当にどうしようもない。

 朝倉先輩だとか、関係なくて――。



「あ、れ? でも、どうして――」



 そこで、俺の思考は少し立ち止まった。

 そういえばさっき、先輩のチームメイトたちは、怯えたように逃げていった。それはいったい、どういうことなのだろう。


 そう考えていると、佐那が静かな声でこう言った。



「みなさん、陽子さんに迷惑をかけたくないんです」

「迷惑を、かけたくない……?」



 俺が繰り返すと、少女は頷く。



「中学時代のイジメも、事の発端は部員のみなさんへのイジメからでした。陽子さんはそれに抵抗して、それで――」



 佐那は困ったような顔で、髪を撫でる。

 一度言葉を切ってから、こう言うのだった。



「ソフト部のみなさんはきっと、いまの状況を陽子さんが知れば同じになると考えているんです。だから自分たちが耐えれば、と。そう考えています」

「………………」

「みなさん、陽子さんのことが大好きなんですよ。ほんとに、心の底から」



 ――でも、だからこそ心配をかけたくないんです。



 俺はその言葉を聞いて、言いようのない気持ちになった。

 どうしようも、ないのかと。こんなこと、見過ごしても良いのかと。そう思っていると、佐那がこう言葉を漏らすのだった。



「もし、陽子さんがいたら――」



 どこか、遠くを見つめながら。





「あの日の強い陽子さんがいたら、何か変わるのかも」――と。





 


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