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1.賀東の高校で。

第3章です。







 賀東の通う高校は、二駅ほど離れた場所にあった。

 スポーツに力を入れている私立の強豪校。日曜日だというのに、至るところから学生の声が聞こえてきた。校門の前で待っていた賀東に連れられて、やってきたのはグラウンド。どうやら三つあるらしいそれのうち一つで、ここはソフト部の練習場所だった。



「いまは昼休憩になってるみたいだな。一応、見学の件は先生方にも伝えてあるから、その辺りは心配するなよ」

「あぁ、ありがとう。なにから、なにまで……」

「バーカ。今回、頼んだのは俺の方だっての」



 彼はそう言うと、駆け足にどこかへ行ってしまう。

 おそらくは自分の野球部の練習場だ。



「それにしても、私立の強豪校だとこんな感じなのか……」



 俺は周囲を見渡して、改めてため息をつく。

 設備から道具まで、何もかもが公立校であるうちとは違った。そりゃ、賀東もあんなガタイになる、って話だろう。


 ――と、そんなことを考えていると。



「う……。トイレ行きたいな」



 唐突に尿意を催した。

 仕方ない。ここは恥ずかしながら、誰かに訊かなければ。



「あ、ちょうど良いところに――すみません!」

「えっ!? あ、はい!」



 俺は苦笑いをしながら、一人の女子生徒に声をかけた。

 とても華奢で、人形のような姿をした子だ。学年は俺と同じ、だろうか。それでも若干幼い、そんな印象を受けた。――などと、観察している場合ではない。

 いまは有事だ。

 可及的速やかに、トイレの場所を聞き出さねば。



「あの、トイレってどこですか?」

「お手洗い、ですか……?」



 あまりに想定外の質問だったのか、相手の女の子も困惑する。

 そして、少し考えてからこう言うのだった。



「わ、わたしに任せてくださいっ! ご案内します!」――と。










「あ、あれ? 前までここに、カラーコーンがあったはずなのに……」

「………………あ、あの?」

「大丈夫です! たぶん、ここを曲がれば――」

「すみません、話を聞いて?」

「え……?」



 ――数十分後。

 俺と女の子は、二人で迷子になっていた。

 というのも、この少女があまりに方向音痴だったからだ。先ほどの言葉にもあるように、いつ位置が変わってもおかしくないものを目印に移動する。

 最初は何かの聞き間違いだと思ったが、いまはハッキリと聞こえた。



「あの、いいです。自分で探しますから……」

「ダメです! あなた、他校の生徒さんですよね! 迷子になりますよ!?」



 ――すでに、なってるんだよなぁ!?



 俺は思わず声を荒らげそうになったのを、ぐっと堪える。

 そして、脂汗をかきながらこう言った。



「い、いや。大丈夫……です」



 ヤバい、限界が近い。

 そう思って、俺は周囲を確認した。



「場所は人気のない校舎裏――って、あれは!」



 すると、神の救いがそこにあった。

 ひっそりとした佇まいのそれは、まさしくトイレ。誰にも使われない場所にあるせいか、少々手入れが行き届いていない。だが、背に腹は代えられなかった。



 俺は大きく息を吐きながら、一歩を踏み出そうと――。




「アンタら、いい加減にしなさいよねぇ!?」





 した、その時だ。

 そんな声が、校舎裏に響き渡ったのは。

 びっくりして俺と、一緒にきた女の子は物陰に隠れた。そして、そこからそっと声のした方を覗き込む。すると、そこにいたのは体操服を着た女子生徒たち。


 その集団は、二手に分かれている。

 見るからに狂暴そうな外見をした女生徒たちと、そうではない方だ。状況から察するに、前者が上級生なのだろうか?



「ほんっとに、中学時代から使えない後輩たちだよね」

「プレーも下手で、試合でもエラーばっかり!」

「打席では常に縮こまってさー」



 数名の後輩に、先輩と思しき三人が罵声を浴びせていた。

 これは分かりやすい。まさしく、イジメだった。



「あれは、ソフト部のみなさん……?」

「え、あれが……?」



 そこで不意に、背後に隠れていた女の子がそう口にする。

 俺はそれを聞いて、一団を見た。




「って、ことは。いまの話は――う!?」




 そして、思考を巡らせようとした。時だった。

 またしても強烈な尿意が、俺に襲い掛かってきたのは!





 どうする。

 あの集団を無視して、トイレに行くことは不可能だ。

 かといって、待っていてはとんでもない醜態をさらしてしまう。そうなってくると、俺にできる行動はたった一つだった。


 だから――。



「あ、あの!?」





 俺は思い切って、物陰から飛び出す。

 そして――。




「どいてくださああああああああああああああああああああい!?」




 絶叫した。

 鬼の形相だったのだろうか。

 ソフト部の上級生たちは、ひどく驚いてその場を去っていった。そのことを確認してから、俺は古ぼけたトイレに駆け込む!

 そして、思った。






 ――間に合って、よかった。




 


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