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5.いつか、彼女にも。









 その日の俺は、帰るとすぐに眠りに落ちた。











「カトレアは、俺のことどう思ってるんだ?」

「どうした。そんな、藪から棒に」



 いつだったか。

 俺は黒髪の少女――カトレアにそう訊ねた。

 これといって特別な理由なんかはない。ただ彼女が【眷属】としての俺を、どう思っているのかが気になったのだ。

 こちらの問いかけに、レーションを頬張っていたカトレアは腕を組む。

 考え込み、出てきた答えは――。



「あぁ、そうだな。本当に使えない奴だ、というところか?」

「お前なぁ……」



 あまりに素直すぎるものだった。

 俺はついつい苦笑しながら、がくっと肩を落とす。



「気にするな、拓馬」

「いや、気にするだろ」



 そんなこちらを見て、美しい少女は赤い瞳にしっかりとした光を宿しながら言った。俺がツッコミを入れると、首を左右に振る。



「そうではない。使えない、というのはこちらの落ち度だ」

「……? それって、どういうことだ?」



 首を傾げてしまった。

 対してカトレアは、こう続ける。



「その部下が使える、使えないは上司の技量によるところだ。人にはそれぞれ得手不得手があり、それを理解して配置するは上の役割だろう?」

「はぁ、つまり……?」

「お前が【使えない眷属】である所以は、すなわちボクの力不足だ」



 そして、スッと立ち上がって俺のもとへとやってきた。

 小さなその手をこちらの頬に当てて、スッと、蠱惑的な目を細める。



「安心すると良い。まだ能力の発現はないが、その分だけ拓馬には可能性が眠っている。もしかしたら、魔物との戦いに終止符を打つような――な?」



 吸い込まれるような、その輝き。

 思わず見とれているとカトレアはニヤリと笑った。そして、



「いてっ!?」



 俺の頬を軽くつねるのだ。

 口元には小悪魔らしい笑みを浮かべて。



「だから、お前は今まで通り。自分にできることをやる拓馬で良いんだ。諦めの悪い、その意地の強さだけを頼りにな?」

「諦めが悪いは、余計だろ……」

「ん、褒めているんだぞ、ボクは。それだけ真っすぐ、という意味で」

「褒めてない。絶対に……!」



 口調だけまともに聞こえるが、目が笑っている。

 というか、小馬鹿にしてきている。俺はこの少女とそれなりに長い付き合いだから、そういった機微については聡いのだ。



「おやおや、可愛くない配下だな」

「どーせ可愛くないっての……」

「ふふふ、そうだな」

「…………」



 こちらが不貞腐れると、彼女はどこか嬉しそうにテーブルに置いてあったブラックコーヒーを飲む。まるで子供をあしらう親のような、そんな表情だった。

 俺の両親はとっくに死んでるから、なんとなくだけど。



「あぁ、でも良い言葉があった」



 そう思っていると、不意に彼女は思い出したようにこう言った。

 俺のことを見て、こう例えるのだ。





「アレだ。お前は――」





 今度は無邪気な子供のような、そんな笑顔で。





「ロマンの塊。つまるところ『夢の塊』というやつだな」――と。





 ただ、その時の俺は。

 それさえも小馬鹿にされているような気がして、素直になれなかった。









 目を覚ますと、すでに日はそれなりに昇っていた。




「誰が、諦めが悪い夢の塊だ、っての……」



 俺はボンヤリとしながら、そう夢の住人に文句を口にする。

 とりあえずノートを手に取って、内容を書き加えた。相も変わらず分からないことばかり。だけど一つ思ったことがあった。

 それは――。



「……会えないかな。カトレアにも」





 いつか、賀東のように。

 あの少女にも出会ってみたいものだ、ということだった。




 


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