4.賀東との約束。
にわか雨がやむのを待っていると、凪咲のシフトも終わっていた。
せっかくなので一緒に帰ろうという話になり、賀東と三人でファミレスを出る。そうして歩いていると、ふと彼は俺に向かってこう言うのだった。
「もし興味があるなら、明日でも俺の高校に見学に来るか? 朝倉の同期だった部員たちは、みんなうちに進学してるんだ」
「そう、なのか?」
「あいつらも、口にしないだけで朝倉のことを心配してるかもしれない。俺はどうにも絡みに行き辛くてな、もしよかったら拓馬から話してやってくれ」
「………………分かった」
俺が頷くと賀東は安心したように微笑む。
そして、ちょうど分かれ道だったところでその日は別れた。残された俺と凪咲は、いまだどんよりと愚図っている夜空を見上げて立ち尽くす。
「陽子も、大変なのだな」
「ん、どうしたんだ?」
そうしていると、不意に少女が何かを呟いた。
小さな声ではあったが、ハッキリと聞こえた俺は彼女に訊ねる。だが凪咲は首を左右に振ると、一つ気持ちを落ち着けるように息をつくのだった。
街灯のみに照らされる、曖昧な世界の中で。
小柄な少女は俺の顔をじっと見つめた。
「明海氏は、こういう時に頼りになる」
「へ……?」
そして、腕を組んで一人勝手に納得したように頷くのだ。
意味が分からないこちらは、首を傾げる。
「いいや、こちらの話だ。だがしかし――」
そんな俺の様子など知ったことではないと、そう言わんばかりに。
しかし真っすぐに凪咲は、こう言うのだった。
「明海氏は、困っている人を見捨てなどしないだろう?」――と。
まるで、俺のすべてを知っているかのように。
「急にどうしたんだ。どうして、そんな……」
「ふはははは! アタシは明海氏が思うよりも、明海氏を知っているということだ! こういう時に、お前は絶対に手を差し伸べるのだからな!!」
「お、おう……?」
そして近所迷惑など知らぬ、といった風に笑った。
どうしたというのだろう。相も変わらず、掴み所のない奴だった。
「それで、結局どうするのだ?」
「明日、行ってくるよ。それで、様子を見てくる」
「うむ、それでこそ明海氏だ!」
「それでこそ、ってなんだよ……」
凪咲の意味の分からない発言に、思わず苦笑い。
しかしながら、今の言葉で背中を押してもらえたかもしれなかった。
「朝倉先輩……」
好意を持っている相手のためだからとか、そんなことではない。
俺はただ、大切な友人の一人として手助けがしたいと、そう思ったのだ。
「そういえば、凪咲はくるのか?」
「む? 行かないぞよ?」
ちなみに訊いてみると、少女は当たり前のように首を傾げる。
そして、にっこりと無邪気な笑みを浮かべて言うのだ。
「これはきっと、明海氏たちにとっての大切なこと。だったら今回、アタシは客席から応援させてもらうことにするよ」――と。
そんな、何やら意味深な雰囲気で。
ということで、俺の明日の予定は決まったのだった。




