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2.打ち解けるふたり。









 俺と賀東さんは、他の野球部員たちを見送っていた。

 そのあと、ひとまず校内のベンチに腰掛けて自販機で買った飲料を口にする。



「あの、良かったんですか。チームメイトと一緒に帰らなくて」

「ん? 良いんだよ、気にすんな。どうせ荷物を整理して解散だったし、俺の家はここから近い。監督もそれでいいって、言ってくれたからな」

「はぁ、そうですか……」



 それで良いのだろうか。

 ほんの少しだけ不安に思ったが、すぐに賀東さんは俺を見て。



「それに――」



 何か、考えながらこう言った。



「どうやら、ちょっとばかし訳ありの様子だからな」

「………………」



 どうやら、見透かされているらしい。

 俺は唇を湿らせる程度に、飲料を口にしてから訊いた。



「あの、俺のこと……見覚えありませんか?」

「お前――たしか、明海拓馬、だっけか」

「はい、そうです」

「うーん……」



 すると賀東さんは、腕を組んで考え込む。

 しかし数秒の後に首を左右に振った。



「いんや、まったく記憶にねぇな。これでも野球やってると色々な人と会うんだが、俺はその全員を記憶している。その俺が覚えてねぇんだ。会ったことねぇよ」

「はは、そうですよね……」



 少し呆れたように言ってから、彼は飲料を勢いよく喉に流し込む。

 そして、ふっと息をついた。その様子を隣から見ていて、俺は変なことに付き合わせて申し訳ない気持ちに駆られる。

 今日はこれで切り上げることにしよう。



「あの、今日は――」

「でもよ。まったくの偶然ってことも、あり得ないだろ?」

「……え?」



 そう思ったが、眉間に皺を寄せながら賀東さんは言った。



「まったく面識がないにもかかわらず、お前――拓馬は、俺の名前を一発で言い当ててみせた。苗字はともかく、名前もだ。どうしてだ?」



 こちらをちらり、と見た目には好奇心が躍っている。

 それを見て俺の脳裏によぎったのは、夢の中に出てきた相棒。あの無邪気で気のいい、頼りになる兄貴的存在の笑顔だった。

 ニッと口角を上げた彼に、俺は深呼吸一つ。



「あの、笑わずに聞いて下さいね……?」



 夢での出来事を、語り聞かせるのだった。









「あっはっはっはっは! 夢の中で、俺に会った!? マジかそれ!!」

「わ、笑わないで、って言ったのに……」

「あはは、悪い悪い」



 話し終えると、賀東さんは俺の背中をバンバンと叩いた。

 こちらがしょんぼりすると、笑いを必死に堪えながら謝ってくる。



「しっかし、不思議なこともあったもんだ。見ず知らずの人間が夢の中に出てきたかと思えば、同一人物が目の前に現れるなんてな」

「信じられないですよね、こんなの」

「バーカ。それでも拓馬は見たんだろ? 偶然はあり得ないんだよ」

「偶然は、あり得ない……?」

「おうよ」



 俺が首を傾げると、彼は大きく頷いた。



「野球なんかでもそうだが、そういった結果が起こるには必ず理由が存在する。戦略や戦術然り、技術にしたってそうだ。練習で培ったものが、ゲームに出る」

「なる、ほど……?」



 そして、立ち上がって大きく伸びをする。



「だから、俺と拓馬が会ったのも偶然じゃない、ってことだ!」



 そう言って彼は手を差し出した。

 どうやら、握手を求められているらしい。



「というわけで、これからよろしくな。えっと……相棒、か」

「賀東さん……」

「さん付けなんて要らねぇよ。呼び捨てしろ」

「……ありがとう。賀東」



 なんだか、不思議な感じだ。

 初めて会ったはずなのに、初めての感じがしない。

 俺は彼の名を口ににすると、立ち上がってその手を取った。



「あぁ、そうだった。拓馬に訊いておきたいことがあるんだ」

「え、なんだ?」



 そして、話も一段落したところで。

 賀東は思い出したように、こう口にするのだった。






「朝倉陽子、って女子を知っているか?」――と。






 思わず、ドキリとした。



「朝倉、先輩を……?」





 俺はつい眉をひそめる。

 どうやら、なにか一波乱ありそうだった。



 


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