2.打ち解けるふたり。
俺と賀東さんは、他の野球部員たちを見送っていた。
そのあと、ひとまず校内のベンチに腰掛けて自販機で買った飲料を口にする。
「あの、良かったんですか。チームメイトと一緒に帰らなくて」
「ん? 良いんだよ、気にすんな。どうせ荷物を整理して解散だったし、俺の家はここから近い。監督もそれでいいって、言ってくれたからな」
「はぁ、そうですか……」
それで良いのだろうか。
ほんの少しだけ不安に思ったが、すぐに賀東さんは俺を見て。
「それに――」
何か、考えながらこう言った。
「どうやら、ちょっとばかし訳ありの様子だからな」
「………………」
どうやら、見透かされているらしい。
俺は唇を湿らせる程度に、飲料を口にしてから訊いた。
「あの、俺のこと……見覚えありませんか?」
「お前――たしか、明海拓馬、だっけか」
「はい、そうです」
「うーん……」
すると賀東さんは、腕を組んで考え込む。
しかし数秒の後に首を左右に振った。
「いんや、まったく記憶にねぇな。これでも野球やってると色々な人と会うんだが、俺はその全員を記憶している。その俺が覚えてねぇんだ。会ったことねぇよ」
「はは、そうですよね……」
少し呆れたように言ってから、彼は飲料を勢いよく喉に流し込む。
そして、ふっと息をついた。その様子を隣から見ていて、俺は変なことに付き合わせて申し訳ない気持ちに駆られる。
今日はこれで切り上げることにしよう。
「あの、今日は――」
「でもよ。まったくの偶然ってことも、あり得ないだろ?」
「……え?」
そう思ったが、眉間に皺を寄せながら賀東さんは言った。
「まったく面識がないにもかかわらず、お前――拓馬は、俺の名前を一発で言い当ててみせた。苗字はともかく、名前もだ。どうしてだ?」
こちらをちらり、と見た目には好奇心が躍っている。
それを見て俺の脳裏によぎったのは、夢の中に出てきた相棒。あの無邪気で気のいい、頼りになる兄貴的存在の笑顔だった。
ニッと口角を上げた彼に、俺は深呼吸一つ。
「あの、笑わずに聞いて下さいね……?」
夢での出来事を、語り聞かせるのだった。
◆
「あっはっはっはっは! 夢の中で、俺に会った!? マジかそれ!!」
「わ、笑わないで、って言ったのに……」
「あはは、悪い悪い」
話し終えると、賀東さんは俺の背中をバンバンと叩いた。
こちらがしょんぼりすると、笑いを必死に堪えながら謝ってくる。
「しっかし、不思議なこともあったもんだ。見ず知らずの人間が夢の中に出てきたかと思えば、同一人物が目の前に現れるなんてな」
「信じられないですよね、こんなの」
「バーカ。それでも拓馬は見たんだろ? 偶然はあり得ないんだよ」
「偶然は、あり得ない……?」
「おうよ」
俺が首を傾げると、彼は大きく頷いた。
「野球なんかでもそうだが、そういった結果が起こるには必ず理由が存在する。戦略や戦術然り、技術にしたってそうだ。練習で培ったものが、ゲームに出る」
「なる、ほど……?」
そして、立ち上がって大きく伸びをする。
「だから、俺と拓馬が会ったのも偶然じゃない、ってことだ!」
そう言って彼は手を差し出した。
どうやら、握手を求められているらしい。
「というわけで、これからよろしくな。えっと……相棒、か」
「賀東さん……」
「さん付けなんて要らねぇよ。呼び捨てしろ」
「……ありがとう。賀東」
なんだか、不思議な感じだ。
初めて会ったはずなのに、初めての感じがしない。
俺は彼の名を口ににすると、立ち上がってその手を取った。
「あぁ、そうだった。拓馬に訊いておきたいことがあるんだ」
「え、なんだ?」
そして、話も一段落したところで。
賀東は思い出したように、こう口にするのだった。
「朝倉陽子、って女子を知っているか?」――と。
思わず、ドキリとした。
「朝倉、先輩を……?」
俺はつい眉をひそめる。
どうやら、なにか一波乱ありそうだった。




