月詠黒兎・一日目・02「月詠一族」
昼休み、俺は天音と一緒に元文芸部部室で昼食を取っていた。
「桜木さん、今日学校休んでるよな? 何か知ってるか?」
天音の作ってきてくれた弁当を完食した後、俺は口を開いた。
「ううん、何にも訊いてないよ。……どうして、ひなたのこと訊くの?」
天音が逆に訊き返してきた。
俺は迷った。天音に俺の知っていることを話すかどうかを。
話してしまえば、天音を巻き込んでしまうことになる。
だからと言って、俺一人で磯谷をどうにか出来るとも思えない。
俺の能力は時間を遡るだけだ。
それもまだ自由自在に操ることも出来ない不完全な状態。
「……柊くん、つらそうな顔してる」
唐突に天音がそう呟いた。
俺はその言葉を聞いてはっとする。
迷いが顔に出てしまっていたようだ。
「柊くんがつらそうな顔をしてることと、ひなたが学校を休んだことに関係があるの?」「…………」
俺は言葉を失った。
「……関係があるんだね」
俺が黙っているので、天音は肯定と受け取ったようだ。
「このままだと桜木さんは、ずっと学校を休むことになる」
俺は耐えきれず、口にしてしまった。
「時を駆ける魂?」
「いや、違う。……今、桜木さんの体には魂が入ってないんだ。魂を体に戻さない限り、桜木さんは目を覚まさない」
「どうやったら、魂を体に戻せるの?」
天音は俺の話を信じているのか、具体的な方法を聞いてくる。
俺は覚悟を決めて、俺の知っていること全部を天音に話した。
「……つまり磯谷くんが大魔王で、勇者が柊くん。大魔王に魂を奪われた三人を救うために勇者が旅に出るのね」
天音がRPG風に話を要約した。
「まあ大魔王でも勇者でも何でもいいんだが、三人を助けるには、磯谷の奴をやっつけるしか方法はないと思う。ただ殴って気絶させればいいのか、それとも殺さなければならないかは分からない。そもそも奴は強力な能力を持っているから、倒すのは無理だ」
「大魔王を一人で倒そうとするから、駄目なんだと思う。一人で倒せないなら、みんなで協力して倒せば良い。今の勇者に足りないのは仲間。柊くん、仲間を集めようよ」
天音に言われて、俺は気付いた。
これは俺一人の問題じゃないんだ。
魂を奪われた三人には、それぞれ弟や妹がいる。
それに家族がいる。目を覚まさないことを人一倍心配しているだろう。
俺一人が駄目だと決めつけて、諦めて良い問題じゃない。
「天音、いや、月詠愛莉栖。ありがとう、お前のお陰で自分が間違っていたことに気付けたよ。よし、仲間を集めよう」
「月詠一族を集めよう!! おー!!」
愛莉栖は元気よく右手を天に付きだした。
俺は愛莉栖に話して本当に良かったと思った。
俺一人だったら、仲間を集めるという発想が浮かばなかったかもしれない。
仲間がこんなにも頼もしいものだとは思わなかった。
「月詠一族か。たしか十三人いて、その内何人かは裏切りものなんだよな。今の状況そのものだな、笑えるぜ。せっかくだからみんなにも真名をつけてやろう」
俺は愛莉栖に提案した。
一部、能力がはっきりしないものがいるが、それは今までの言動から推測した。
そして全員に真名と能力名を紙に書いた。
真名:月詠黒兎。魂の座:柊一真。能力名:時を駆ける魂。能力効果:過去に戻る。
真名:月詠灰兎。魂の座:柊一真。(磯谷と同居中)。能力名:魂捕縛。能力効果:他の魂を捕縛し、捕縛した能力を扱う。
真名:月詠白兎。魂の座:柊一真。(行方不明)。能力名:未来螺旋流。能力効果:未来に行く。
真名:月詠愛莉栖。魂の座:天音綾花。能力名:時の番人。能力効果:不明。
真名:月詠心読。魂の座:桜木ひなた。(磯谷に捕縛中)。能力名:精神感応。能力効果:他人の心を読む。
真名:月詠透子。魂の座:姫宮衣千子。(磯谷に捕縛中)。能力名:透明な瞳。能力効果:透視。
真名:月詠未来。魂の座:神崎仁。(磯谷に捕縛中)。能力名:未来予知。能力効果:未来予知。
真名:月詠幽子。魂の座:姫宮凜子。能力名:幽体離脱。能力効果:肉体と魂の分離。
真名:月詠鬼械。魂の座:桜木優太。能力名:自動殺人。能力効果:感情感覚の麻痺による殺人鬼化。
真名:月詠空。魂の座:支倉美咲。能力名:透明人間。能力効果:透明化。
真名:月詠零。魂の座:神崎詩季。能力名:無重力。能力効果:物質の重さをゼロにする。
真名:月詠共子。魂の座:霧野楓。能力名:感覚共有。能力効果:自分と相手の五感を共有する。
真名:月詠海兎。魂の座:磯谷誠二。能力名:心配性。能力効果:負の感情を増大させ、判断能力を失わせることによる催眠誘導。
俺は紙に書かれた、いかにも中二病的な名称を見て、思わず笑いが漏れた。
能力名が全員格好良すぎる!
その中でも俺のお気に入りは、心配性だ。
言葉にしづらい単語を能力名に入れることで、気軽に言葉に出せようになっている。
是非とも可愛い女の子にこの能力名を口にしてもらいたい。
「黒兎? どうしたの、なんだかにやけてない?」
愛莉栖が俺の顔を覗き込んできた。
「いや、なんでもない。一族が勢揃いして嬉しくなったんだよ。よしっ、それじゃ次の休み時間から仲間集めを開始しよう」
こうして俺と愛莉栖の仲間集めが始まった。




