月詠黒兎・一日目・03「仲間」
五時間目の授業が終わった後、俺と天音は桜木優太のクラスに向かった。
近くにいた生徒に優太を呼んできてもらう。
「初めましてかな? 桜木優太くん。俺は二年の柊一真。で、こっちが天音綾花。俺達、お姉さんと同じクラスなんだけど、ちょっと話いいかな?」
優太は上級生に呼び出されて少し緊張気味だったので、俺は優しく話しかけた。
「ああ、はい、大丈夫です」
優太が軽く頭を下げながら返事をする。
「今日、お姉さん学校休んだけど、どうしたのかな?」
「それなんですけど……」
優太は辛そうな顔をして言葉が途中で切れてしまった。
「風邪じゃないよね? もしかして目が覚めないとかじゃないかな?」
「……はい、そうです。でも、どうして?」
優太は俺が知っていることに驚いている様子だ。
「脅かすわけじゃないんだけど、このままだと一生お姉さんは目を覚まさないと思うよ」
「どういうことですか?」
「信じられないかもしれないけど、今、お姉さんの魂は体から抜け出てしまっているんだ。目を覚まさせるには、その抜けた魂を体に戻してやらないといけない」
「魂、ですか?」
優太がうさんくさそうな顔をした。
無理もない話だ。いきなり魂といわれても、信じるのは難しいだろう。
「そう魂だ。今、お姉さんの魂は磯谷誠二が持っている。知ってるだろ? お前の部活の先輩だ。磯谷はお前のお姉さんの他にも二人の魂を持っている。俺達は磯谷が奪った魂を取り返したいんだ。そのために優太には俺達に協力をしてもらいたい。どうだ、協力してくれないか?」
「……話が荒唐無稽過ぎて、ついて行けません。悪いんですが協力は出来ません。でも、磯谷先輩が魂を持っているという話。一応、磯谷先輩に訊いてみることにします」
「ちょっと待て、今の話は磯谷にはしないで貰いたい。奴にはなるべく知られたくないんだ」
「どうしてです? 直接話をして、説得すればいいだけじゃないですか」
「説得が無理だから、こうして協力を頼んでいるんだ」
「……磯谷先輩は、良い人です。ちゃんと話せばきっと分かってくれる人です。悪いんですが、僕はあなたよりも磯谷先輩のことを信じます。それじゃ失礼します」
そう言って優太は教室に戻って行ってしまった。
優太が席に戻ると、美咲が興味津々に話を聴きだそうとしていた。
姫宮の席は、もちろん空席だ。
優太への説得は失敗に終わってしまった。
それに磯谷にまで報告されてしまうことにもなり、かなり幸先の悪いスタートになった。
そしてこの時点では優太と美咲は恋人同士だ。
自動的に美咲への協力も失敗と言える。
だけど、まだ他に仲間に出来る奴はいる。
こんなところで、立ち止まっては言われない。
もうすぐ授業が始まるので、一端教室に戻り、放課後にまた仲間集めをやることになった。
放課後、俺と天音は神崎詩季の教室に向かった。
だが、詩季はすでに帰ってしまったらしい。
神崎仁のことが心配で心配でたまらなかったのかもしれない。
速攻で学校を出て行ったということだ。
詩季に会うことが出来なかったので、次は霧野楓に会いに行くことにした。
霧野は教室に残っていたので、廊下に出て来てもらい話をした。
「嘘じゃないみたいですね」
俺が一通り説明をし終えると、霧野はそう呟いた。
霧野は相手の感覚を自分にトレースすることが出来る。
呼吸、発汗、脈拍などから相手が嘘を付いているかどうかを判断出来るのだろう。
「わかりました。協力します。クラスメイトを助けるのもクラス委員長の仕事ですからね」
霧野はあっさりと協力してくれることになった。
最初の仲間がやっと出来て、俺達は意気揚々と凜子のいる病院に向かった。
凜子の病室の扉をノックする。
中から「どうぞ」という声が聞こえたので、俺と天音は入室した。
「はじめまして、凜子ちゃん。俺は君のお姉さんが通う高校の二年生。柊一真。で、こっちが同じ二年の天音綾花」
俺は自分と天音の紹介をする。
「凜子ちゃんに、話が合って来たんだけど、その前にお土産があるんだ。どうぞ」
俺は病院に来る途中、公園のクレープ屋によってクレープを二つ購入していた。
それを凜子にプレゼントする。
凜子は目をキラキラさせて、クレープを見つめている。
凜子がクレープをどれだけ好きなのかを、俺は良く知っている。
「食べながらでいいから話を聞いてくれ」
俺はそう言って凜子に、今の状況を話した。
「わかりました。私に出来ることなら、ぜひ協力せさてください。こんな私でも役に立てるのなら……」
凜子はそう言って協力することを約束してくれた。
病室から出た廊下で、ばったり詩季に会った。
詩季は今にも死にそうな顔をして、廊下をふらふらとおぼつかない足取りで歩いていた。
「あの、ちょっと話いいかな?」
俺は詩季の前に立ちはだかって声を掛けた。
「誰ですか?」
虚ろな目で詩季は訊いてくる。
「俺は神崎仁の知り合いだ。……もしかして神崎仁は入院してるのか?」
俺が質問をすると、詩季はこくりと頷く。
「神崎仁を目覚めさせたくないか?」
「え?」
「お前の兄貴を目覚めさせる方法を俺は知ってる。お前が力を貸してくれるなら、兄貴を目覚めさせられるかもしれない」
「宗教の勧誘?」
詩季が疑いの目を向けてきた。
「違う違う。……俺はただ助けたいだけなんだよ。自分一人で出来るなら、とっくにやってる。だけど、一人じゃ無理なんだ。仲間が必要なんだ。俺に力がないから、仲間が必要なんだ」
「……どうやら変な宗教じゃないみたいですね。話を聞かせて貰えますか?」
詩季はそう言って、真剣な表情を向けた。
俺は詩季に事情を説明した。
「私にそんな能力が? でも、今思えば体が軽くなったりしたことが……」
詩季は自分に無重力の能力があることに驚いていた。
まだ、詩季は自分の能力について把握していないのだろう。
「明日の放課後、三階の元文芸部部室で作戦会議をやるから、協力してくれる気になったら来てくれ」
「わかりました」
そう言って詩季と別れた。




