神崎仁・五日目・03「真相」
──ガシャン!!
屋上から降ってきたフェンスが大きな音を立てる。
四角形の角の部分が、俺の上にいた霧野の頭に直撃した。
霧野の頭が思い切り俺の胸をぶつかり、息が詰まる。
そして俺の目には落下してくる二人が見えた。
「詩季、上だ!」
俺はかすれた声で詩季に伝えた。
普通なら落ちてきた人間を受け止めることはできない。
だが詩季はモノの重さを無くすことができる。
「え? うわああ! とっとと」
詩季が落下してくる二人。桜木さんと柊を見て驚いた。
だが能力を使って、二人が地面に叩き付けられる前に二人をキャッチした。
二人は気を失っているようで、詩季は保健室のベットに運んだ。
詩季が二人を置く間、俺は屋上から覗く人影を見ていた。
距離があるからはっきりと顔は分からないが、一人目は天音、そして次に覗き込んだのは姫宮だろう。
俺が姫宮だった頃、落下した桜木さんと柊だと思っていたのは、神崎と霧野だったのだ。
桜木さんも柊も死んではいなかった。
まさか屋上から落ちた二人が、違う誰かと入れ替わってるなんて思うはずがない。
間違えて当然だ。
「霧野?」
声を掛けるが霧野はぴくりとも動かない。
ただ頭から血をドクドクと垂れ流しているだけだ。
俺は霧野をなるべく動かさないように起き上がった。
胸に鈍い痛みを感じた。
手で触ってみると、肋骨が折れているのが分かった。
「仁君! いったい何が起きたの?」
詩季が駆け寄ってくる。
「……無理心中。それに偶然巻き込まれたんだよ」
俺は端的に答えた。
そしてよろよろと歩いて柊の元に行き、気絶しているその顔を見下ろす。
「柊、お前死んでなかったよ。良かったな」
自分が勘違いしていたことに、自然と笑いが零れた。
その様子を見ていた詩季が不思議そうな顔をしていた。
すると、突然あらぬ方向から笑い声が響いてきた。
「……磯谷」
笑いの主は磯谷だった。
そして、今度は保健室のカーテンが独りでにサーッとしまった。
「ずっと、見てたぜ。まさか桜木と柊が空から降ってくるとは思ってなかったが、桜木を助けてくれたことには礼を言おう。死なれては困るんでな」
「ずっと見ていた? もしかしてあなたは透明にでもなれるですか?」
俺は磯谷にそう訊いた。
「透明になるのは俺の能力じゃない。それは支倉美咲の能力だ。……やれ」
磯谷がそう言うと、隣で詩季がいきなり倒れた。
「詩季!?」
詩季の脇腹からは血が出ていた。
「仁君、いきなり誰かに刺された。……痛いよ」
苦痛に顔を歪めながら詩季が言う。
「支倉さん! いるんでしょう? なんでこんなことをするんですか?」
俺は部屋を見回しながらそう叫んだ。
すると、磯谷の隣に支倉が姿を表した。
「支倉はどうしてもお前と恋人になりたいらしい。そのためには邪魔者を排除する必要がある。だから、俺が殺せば良いって教えてやったんだよ」
「……神崎先輩」
支倉が期待の籠もった瞳で見つめてくる。
「支倉さん、あなたはバカです。自分がバカなことをしてるって何で分からないんですか?」
「神崎無駄だよ。支倉は俺の能力下にある。正常な判断は出来ない。ただお前と恋人になるための障害を排除するだけだ。ん? 誰か来たな。支倉」
磯谷が美咲の手を握ると、スウッと溶けるように消えた。
保健室のドアを誰かが開けようとしている。
だが、鍵が掛かっていて開けられないでいる。
その時、カシャリとドアの鍵が開いた。磯谷が開けたのだろう。
「失礼します。……何これ?」
そう言って入ってきたのは姫宮を背負った天音だった。
天音は床に倒れてる詩季や血だらけの俺を見て、言葉を失っていた。
天音は入り口付近に姫宮を降ろすと、俺の元に駆け寄ってきた。
駆け寄ってくると同時に、保健室のドアの鍵が閉められた。
「神崎くん! いったい何があったの? ひなたと一真くんも屋上から落ちちゃうし訳がわからないよ」
「天音さん、今の状況を説明するのはとても難しいんですが、とりあえず桜木さんと柊さんは生きています。ベットで横になっています、怪我もしていません」
「え? 嘘? だって、屋上から落ちて……。それで……」
天音は信じられない様子で、ベットに寝ている二人の元に行き顔を見つめた。
「ありがとう天音嬢。姫宮を連れて来てくれて、おかげで手間が省けたよ」
今まで透明になって隠れていた磯谷が、姿を現した。
「磯谷くん? あれ? どこから現れたの?」
「これで、俺の欲しい能力がすべて手に入る。読心、透視、予知。完璧だ。これで俺は全てを知覚できる。一切の不安、心配事から解放されるんだ」
磯谷は天音の問いを無視して、一人で盛り上がっている。
ゆっくりと俺の方に近づいてくると、蹴りを放った。
屈んでいた俺の顎を磯谷の足に蹴りが捉える。
俺はその衝撃で意識を失った。




