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神崎仁・三日目・02「事故」

 美咲と喫茶店で過ごしていると、ドカーンと物凄い音が店の外から響いてきた。


「すごい音でしたね。何かの事故でしょうか?」


 美咲が驚いて、窓の外に視線を向けた。

 俺もそれにあわせて視線を外に向ける。

 うっすらと土煙のようなものが舞い上がっているのが見えた。


「ちょっと、見に行ってみましょうか?」


 俺は音の正体が気になって、見に行くことを提案した。

 美咲はそれに了承をして、二人で現場を見に行くことにした。

 現場は建設中のマンションで、人集りが出来ていた。

 人集りの中に見知った顔を見つけたので俺は声を掛ける。


「霧野さん、いったい何があったんですか?」

「ああ、神崎……くん。その子誰? もしかしてデートじゃないよね?」


 霧野は一瞬嬉しそうな顔を見せたが、俺の隣に立つ美咲に気付くと視線を鋭くした。


「こちらは支倉美咲はせくらみさきさん。不良に絡まれてるところに僕が偶然通り掛かって、彼女を助けたんですよ。それで一緒にいるだけです」


 俺は霧野に美咲を紹介した。


「不良ね……。私は神崎くんの恋人・・霧野楓きりのかえでです」

「それで一体何があったんですか? すごい騒ぎですけど」


 俺は改めて霧野に訊ねた。


「工事現場に誰かが忍び込んで、鉄骨を落下させたみたい。それで鉄骨の下敷きになった人がいるみたいよ」


 そう言っている間に、鉄骨はどけられ、その下から人が運び出された。


「神崎先輩、あの人達って……」


 美咲が鉄骨の下から運び出された人物の顔を見て驚いている。


「そうですね」


 鉄骨の下から救出されたのは合計三人。

 その三人は優太と美咲に絡んできた不良達だった。

 不良達は全員血だらけで意識はなかった。

 もしかしたら死んでいるのかもしれない。


「おかしいわね」


 霧野がぼそりと呟いた。


「何がです?」

「三人の他に、女の子もいたって話を聞いたから」

「どうやら三人だけのようですね。その女の子は無事なんじゃないでしょうか」


 鉄骨の下からは不良達三人しか運び出されなかった。

 だが、その女の子というのに少しだけ心当たりがあった。

 それは姫宮凜子だ。

 彼女が霊体でいたのなら鉄骨の下敷きになっても、すぐに脱出出来るので見つからないはずだ。


「神崎くん、今日は詩季さんと一緒じゃないのね?」


 霧野が、いきなりそんなことを聞いてきた。


「ええ、詩季には内緒で来ましたから、今は家にいると思いますよ」

「家に……。もしかしたら詩季さんかと思ったけど、家にいるなら大丈夫ね。良かったわ」


 霧野は、あははと無理に取り繕った笑顔を見せた。

 俺は霧野の言葉を聞いて、詩季のことが気になった。


「ちょっと心配なので、電話してみます」


 スマフォを出して詩季に電話をしてみた。

 すると鉄骨の下からスマフォの着信音が響いた。

 霧野と美咲が俺と鉄骨とを交互に見つめて驚いている。

 俺はまさかそんなはずはないと思いながらケータイの発信を解除した。

 すると、鉄骨の中から着信は聞こえなくなった。


 鉄骨をどかしてくれた作業員の人がスマフォの着信音に気づいて、拾い上げてくれた。

 俺はそれが妹のスマフォだと説明して返してもらった。

 霧野と美咲には、詩季が心配だからと言って別れた。

 

 俺は急いで家に戻った。

 しかし、詩季は家には帰っていなかった。

 俺はもう一度、街に戻り詩季を探し回った。

 一時間以上探したが見つからない。

 諦め掛けた頃、詩季を見つけた。


 詩季は歩道橋の手すりに寄りかかって一人で遠くを見つめていた。

 その視線の先には鉄骨が落下した事故現場がある。


「……詩季」


 俺は詩季の隣に立って呼びかけた。


「……仁……君?」


 詩季はゆっくりとした動作で俺に振り返った。

 俺は詩季と同じように手すりに寄りかかって、事故現場に視線を向けた。


「詩季は、あの事故現場にいたのか?」


 俺は詩季に視線を向けずに訊ねた。


「…………」


 詩季は無言だ。

 肯定も否定もしない。


「これ、詩季のスマフォだよな?」


 俺は事故現場から出て来たスマフォを詩季に見せた。


「どこにあったの?」

「……あそこだよ」


 俺は視線を事故現場に向けた。


「……そっか」


 そう言って俺の手からスマフォを受け取って、それをじーっと見つめた。

 

「いったいあそこで何があったんだ?」


 俺が訊ねると、詩季はゆっくりと話し始める。


「朝、起きたら仁君がいなかった。たぶん街に出かけてるんだと思ったから、私は仁君を捜しに街に来た。そしたらあそこで不良っぽい人達に声を掛けられたの。兄を捜してるって言ったら、自分達は兄の居場所を知ってるって言った。どこにいるか聞いたんだけど、なかなか教えてくれなくて。それであそこで話してたら、いきなり上から鉄骨が落ちてきて、それで……」


 詩季は辛そうな顔をしながらことの経緯を教えてくれた。


「詩季は鉄骨が降ってくるのに気付いて、慌てて逃げたんだな? その時スマフォを落とした」

「ううん、違う」


 詩季は首を振った。


「何が違うんだ?」

「……私も鉄骨の下敷きになったから」


 俺は詩季の全身を見た。

 怪我をしてる様子はない。服が少し汚れている程度だ。


「下敷きになったら、無事じゃ済まないだろ?」

「私も鉄骨が落ちてきた時は死んだと思った。だけど、鉄骨は全然重くなかったの。まるで風船みたいで、それで私は鉄骨を手で受け止めた」

「鉄骨が重くないって、あの鉄骨は人が受け止められる重さじゃないぞ」

「私も良く分からない。だけど私は鉄骨を受け止めて無事だった。でも、すぐ目の前にいた人達は鉄骨に潰されて……。それで私は怖くなって、走って逃げた」

「……良く分からないか。でも、詩季が無事で良かったよ」


 俺は詩季の頭をポンと手を置いて軽く撫でた。

 詩季はたぶん混乱している。

 どんなにマッチョな奴でも鉄骨を受け止めることなんて不可能だ。

 きっと、詩季の場所だけ偶然、鉄骨の安全地帯になったのだ。


「それで仁君は、何しに街に来たの?」

「俺は、じゃなくて。僕は宝くじを買いにきただけだよ」

「……仁君、宝くじは絶対に買わないって言ってたのに。ホントは霧野先輩とデートしてたんじゃないの?」

「してないしてない。霧野さんとはあの事故現場で偶然会ったけど、すぐ別れたし」

「……あそこに霧野先輩いたの?」


 詩季は深刻そうな表情で訊いてきた。


「ああ、結構な騒ぎだったし、様子でも見に来たんだろうな」

「鉄骨が落ちてくる前、ちらっと霧野先輩を見た気がするんだよね。もしかして鉄骨を落としたのって、霧野先輩かも。うん、そうだよ。私を殺して仁君を奪うつもりなんだ。きっとそう」

「おいおい、話が飛躍しすぎだろう。霧野さんがそんなことするはずないよ」

「仁君は霧野先輩の肩を持つの?」

「肩を持つとかそうじゃなくて、たまたま見かけたってだけで、犯人だと決めつけるは、良くないだろ」

「仁君、宝くじ買ったんだよね? その買った宝くじ見せて」


 いきなり詩季は手を出して、宝くじを見せろと要求してきた。


「ああ、別に良いよ。……あれ? おかしいな」


 俺は折りたたんで入れていた宝くじを取り出そうと財布の中身を見た。

 しかし、入れたはずの宝くじが無くなっていた。


「財布に入れてたんだけど、どこかで落としちゃったみたいだ」


 買った番号は覚えているので、特に問題はない。


「やっぱりね」


 詩季は確信したような表情を見せた。


「何がやっぱりなんだ?」

「宝くじを買いに来たなんて、嘘だってこと。霧野先輩とデートしてたんでしょ?」

「いや、だからデートなんてしてないって」

「もう嘘はいいから……。今日はすごく疲れちゃったよ。帰ろっ」


 詩季は俺の腕に抱きついて来て、ぐいぐいと引っ張ってくる。

 いくら俺が弁解しても信用して貰えそうにないので、俺は諦めて詩季と一緒に家に帰ることにした。


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