神崎仁・三日目・01「創立記念日(四周目)」
俺は朝早く、詩季に気付かれないようにこっそりと家を出て街に来ていた。
今日やることは二つ。
一つは姫宮を助けること。もう一つは宝くじを買うこと。
姫宮の時に覚えた一等の宝くじを買って、実際に一等が当たるかどうかを確かめる。
優太と美咲が不良に絡まれるまで、まだ時間がある。
現場近くのファーストフード店で時間を潰すことにした。
窓際の席に座ってコーヒーを飲みながら、適当な雑誌を読む。
時間になると、優太と美咲が仲良さそうに歩いていくのが見えた。
そして二人から少し距離を置いて、姫宮が尾行をしている。
俺は会計を済ませて、尾行をしている姫宮の様子を、距離を置いて観察した。
裏道から優太が逃げ出すのを見届けてから、俺は姫宮の元に向かった。
姫宮が小さい体にも拘わらず威勢良く不良達に立ち向かっていた。
だが、姫宮の啖呵に激高した不良は手を上げる。
俺は振り下ろされようとした拳を受け止めた。
「レディに手を挙げるとは、紳士的ではありませんね」
俺はそう格好良く決めた。
神崎の体は柊の体よりも数倍早く動ける。
「お前なんだぁ? うぜえ、とりあえずボコるわ」
不良達は突然の乱入者に驚いたが、俺が一人だと分かるとすぐに殴り掛かってきた。
俺は不良達の攻撃をひらりひらりと躱しながら、一人ずつたたきのめしていく。
……はずだったのだ。
姫宮視点の時の神崎は、華麗にカッコ良く不良を片付けていた。
「はっ、なんだこのザコは」
「よっわ」
「笑える。ははは」
ボコボコに殴られ、地面に転がった俺に不良達が吐き捨てる。
姫宮と美咲が、可哀相なものを見る哀れみの目で俺を見ていた。
俺の視界が白く染まり、時間が巻き戻っていく。
そして不良達との戦闘を十回以上、繰り返した。
敵の行動パターンを覚えて、ようやく俺は再現を成功させた。
俺の目の前には、虫けらのごとく地面に這いつくばる不良達がいる
「まだやりますか?」
俺は最後の決めセリフを言った。
不良達はしっぽを巻いて逃げて行った。
「大丈夫ですかお嬢さん? お怪我はありませんか?」
俺は地面に座り込んだままの美咲に手を差し出した。
十回以上も惨めな姿を晒した俺だが、この世界の美咲はそんなことを知らない。
だから、俺はイケメン声で話しかけた。
「平気です。あ、あの助けて頂いてありがとうございます。本当に助かりました」
美咲は少しだけ惚けていたが、すぐに気を取り戻して立ち上がると、御礼を言った。
頬を紅潮させており、明らかに俺に好意をいただいていることが分かる。
イケメンはすぐに人を恋に落とす。
まったく罪な存在だ。
「神崎先輩、どうしてここにいるんです?」
姫宮が怪しむような視線を向けてきた。
美咲とは対照的に、姫宮は俺に惚れた様子は一切ない。
まあ、中身は俺なんで、男に惚れることはありえないのだ。
「姫のピンチに駆けつけるのは、ナイトの役目ですから」
俺は戯けて見せた。
本当は再現しなければいけないだけなのだが。
俺の気持ちとしては恩返しのところもある。
俺は未来の俺に助けられた。
だから、今度は過去の俺を助けただけなんだ。
「何、キザなこと言ってるんですか。助けるならもっと早く助けてください」
姫宮はムっとしながら、文句を言った。
こちらとしても早く助けに入りたかったが、優太が逃げ出してくれないと困るので、それを待っていたのだ。
「ははは、これは申し訳ありませんでした。おっと姫、お城からお電話のようです」
「電話なんて──」
俺に文句を言おうとした瞬間に、姫宮のスマフォが鳴った。
姫宮は俺を睨み付けると電話に出た。
電話の内容は、病院から姫宮の妹がいなくなったというものだ。
姫宮は急用が出来たと言って去っていった。
「あの、神崎先輩! 本当に助かりました! ありがとうございます」
美咲は再度、俺に御礼を言った。
「支倉さんは、僕のこと知ってるんですか?」
「ええ、学校で友達が噂しているのを聞いてました。それよりなんで私の名前を神崎先輩は知ってるんですか?」
「そ、それは姫宮さんから聞いていたんですよ。支倉美咲さんと桜木優太くんのこと。……それより桜木くんに連絡した方がいいじゃないですか?」
連絡して仲直りされると困るが、一応提案しておく。
「……そうですね。後でメールしておきます。あの、いっちゃん……姫宮さんとは、知り合いなんですか?」
「部活仲間ですよ」
「部活? ……何の部活ですか?」
「それは悪の組織と戦う部活です」
「は、はあ。……あ、あのっ、これから予定とかありますか?」
美咲は悪の組織をスルーした。
まあ、これが普通の反応だろう。
「宝くじを買うぐらいですかね」
「良かったら、お茶でもしませんか?」
「ええ、いいですよ」
宝くじを買ってから美咲と喫茶店に入り、たわいも無い話をして時間を潰した。




