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神崎仁・二日目・01「妹と恋人」

「神崎くん、今日は一緒に帰ってくれるよね?」


 放課後、霧野が話しかけてきた。


「昨日は詩季とでしたから、順番的にそうですね」


 昨日の悪夢が頭をよぎった。

 もう女同士の醜い争うには巻き込まれたくない。


「順番って何? まさか妹さんと交互にするつもり? 彼女の私を妹と同列に扱うの?」

 霧野は不満そうな顔を向けてくる。


「その方が争いがなくて、平和的だと思うんですけど」

「普通は恋人を優先するもんじゃないの?」

「僕達は普通ではないと思いますよ」


 霧野に脅迫されて、仕方なく恋人になったんだ。

 普通とは言えないと思う。


「じーんくん! 今日も一緒に帰ろう!」


 早速というか、やっぱりというか詩季が今日もまた教室にやってきた。


「詩季さん! 今日は遠慮してくれませんか?」


 霧野はさっそく詩季に睨みをきかせる。


「私と仁君は兄妹だから、一切遠慮する必要はないよ」


 兄妹だって遠慮は必要だと思ったが、それを口にはしない。

 口にしたら面倒くさいことになりそうなので黙って置くことにした。


「お兄さんにではなく。私に遠慮をお願いします!」

「私はあなたを彼女だって認めてない! だから、遠慮をする必要はない!」

「詩季さんが認めなくても、神崎くんは私を認めてます!」

「私が認めなない限り、仁君の彼女にはなれないの!」


 俺を挟んで霧野と詩季が猛烈な言い争いを繰り広げている。

 俺は目を瞑って早く嵐が去ってくれることを祈りながら待つことにした。

 クラスのみんなが突然始まった女のバトルに唖然としている。

 ああ、視線が痛い。

 …………。

 急に静かになったので目を開けると、霧野と詩季が俺のことを見つめていた。

 

「「どっち?」」


 二人が口を揃えて俺に訊いてくる。


「……何が?」


 いったい何がどっちなのか俺は二人に訊ねる。


「「だから! どっちと帰るの?」」


 仲が良いのか悪いのか、またまた口を揃えて俺に訊いてくる。

 最終的に俺に決めろということか。

 順番的には霧野を選びたいところだが、どちらかを選ぶと、また二人の争いが酷くなる。

 今後のことを考えると、それは避けたい。

 なので、


「どっちとも、一緒には帰らない。一人で帰る」


 俺は第三の選択をした。


「ちょっと、仁君! ふざけないで!」

「神崎くん、それは認めません! どちらかを選んでください」


 二人が物凄い勢いで俺を責めてくる。

 俺が一人悪者になれば、二人の争いは無くなる。

 俺の判断は正しかったと確信する。


「二人は先に帰ってください。僕は部活がありますので、ではっ」


 さっと席を立って教室を飛び出していく。


「「部活になんて入ってないくせに!」」


 二人が追いかけてくる。

 俺は急いで昇降口に向かった。

 靴箱から靴を取り出し鞄に入れて、俺が帰ったと偽装をしてから男子トレイに隠れた。


「トイレに隠れるのが見えました」

「うん、出て来たところを捕まえよう」


 霧野と詩季は男子トイレの前で待ち伏せをしているようだ。

 もしかしたら男子トイレの中にまで入ってくるかもしれないと思ったが、さすがにそこまでしてこないみたいで助かった。


 俺は出入り口ではなく、トイレの窓から脱出して二人を振り切った後、屋上に逃げ込んだ。

 今頃、二人仲良く男子トイレの前で、俺が出てくるのを待っているだろう。

 俺はフェンスに寄りかかって、一階のトイレの辺りに視線を向けた。

 すると、野球の球がちょうど廊下の窓ガラスを割ったところだった。

 すぐ近くに姫宮と天音の姿が見えた。

 俺は昔の自分を思い出して懐かしく思った。


 騒ぎを聞きつけた生徒達がぞろぞろと割れた窓の元に集まって来ていた。

 俺はその様子を眺めていたが、集まって来た生徒達の一人と目が合ってしまった。

 それは霧野だ。

 霧野は隣の詩季に話しかけると、俺の方を指さした。


「やばい、見つかった!」


 二人が走り出すのが見えた。

 急いで屋上から移動しないと二人に捕まってしまう。

 俺は急いで屋上を後にした。

 このまま下の階に移動しようとも考えたが、ヘタに階段を下りると二人とばったり合ってしまう可能性がある。


 俺は三階の廊下を進み、通い慣れたある部室に飛び込んだ。

 扉に耳を当てて廊下の様子を確認する。

 ドタバタと廊下を走っていく二人分の足音が通りすぎて行った。

 ふぅと、一息ついて部室の中を見回すと、柊と桜木さんが俺のことをじーっと見つめていた。


「やあ、驚かせてしまってすみません。〝カノッサ機関〟の手先に追われて逃げていたら、ここに辿り着いてしましました」


 俺は二人に近づきながら、そんな嘘の言い訳をした。


「なにぃぃぃ!?」


 柊は目が飛び出るほど驚きの声を上げた。


「あら〝カノッサ機関〟に追われているなんて、私達と同じですね」


 桜木さんは俺の戯れ言に付き合ってくれた。

 おそらく桜木さんの中身は二周目の俺だろう。

 だから、俺がここに来ることを知っており平然としている。


「……ああそうか、お前、天音にそう言えって言われて来たんだな? それなら説明が付く」


 柊は混乱して、自分なりに納得出来る理由付けを考え出していた。

 実に微笑ましい光景だ。

 まさか、未来の自分だとは夢にも思っていない頃の初々しいさを感じる。


「……少し僕を匿ってくれませんか?」


 まだ霧野と詩季が近くを彷徨うろついているかもしれないので、しばらく時間を潰す必要がある。


「別に、少しぐらいならいてもいいぞ」


 柊はしぶしぶといった様子で了解してくれた。


「ありがとうございます。では、失礼します」


 御礼を言った後、俺は柊の隣の椅子に座った。

 柊の顔を見ながら、これからこいつは色々な苦労を経験するだなあと思うと感慨深いものを感じて、つい頬が緩んでしまった。


 その後、天音と姫宮が部室にやってきて、天音は俺に部活の勧誘を始めた。

 部活に入っておけば、部活を言い訳に二人から逃げることが出来るので、入って置いて損はない。

 俺は快く部活に入ることを了承した。

 それから全員が軽く自己紹介をして、すぐに解散になった。

 柊は桜木さんに呼ばれて屋上に行き、天音は部活設立の手続きをやると言って出て行った。

 部室には姫宮と俺の二人だけになってしまった。

 姫宮を軽くからかった後、俺は部室を後した。

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