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姫宮衣千子・五日目・01「魂」

 昼休み、俺は裏庭に向かった。

 裏庭で凜子のメル友のハーフアウトと会う約束をしたのだ。

 俺が裏庭に行くと、そいつは木に寄りかかってスマフォを弄っていた。


「おっと、これはアップルさん……。ではなくストロベリーさん。俺に会いに来たってことは写真を撮らせてくれるのかな?」


 スマフォから視線をあげてそう言ったのは磯谷だった。

 凜子のハンドルネームを知っているということは、磯谷がメル友だろう。

 

「あなたが、ハーフアウト?」俺は磯谷の言葉を無視して率直に訊ねる。

「そういうこと。格好良いハンドルネームだろ? 苗字を捻って考えたんだ」


 磯谷は自慢げに語る。

 そんなことはどうでもいい。


「凜子とメル友になったのは、偶然? それともわざと?」

「凜子ちゃんと、メル友になりたかったから、病室の扉にアドレスを書いた紙を挟んで置いたんだよ。そしたら凜子ちゃんからメールが来たって寸法さ」


 磯谷が凜子の病室の前に来たことを知って、悪寒が走った。


「なんのために、凜子に近づいたの?」

「それはさ、衣千子ちゃんの大切なものだからだよ」

「私の?」凜子が直接の目的ではないのか。

「そ、衣千子ちゃんの大切なもの。俺はそれをぶち壊したいんだよ」


 磯谷は邪悪な笑みを浮かべた。


「何のためにそんなことするの?」

「衣千子ちゃんの魂を傷つけるため」

「魂を傷つける?」

「そう魂。基本的に魂は肉体と結びついていて、離れることはない。だけど、魂を傷つけることで肉体との結びつきが弱くなる。それが目的、その為に凜子ちゃんを使うだけだよ。分かったかいアップルさん?」


 磯谷は俺の後ろに視線を向けた。


「凜子?」


 俺が振り返ると、そこには凜子がいた。

 凜子の体は透けている。みんなが見たという凜子の幽霊だ。


「私じゃなくて、お姉ちゃんが目的だったなんて……。待ち合わせ場所に来なかったのも態とだったんですか?」


 凜子が磯谷を睨み付けた。


「もちろん。でも、遠くからは見てたよ。凜子ちゃんの体が弱いってことは知ってたから、運が良ければ病気が悪化して死ぬんじゃないかと思ってた。……でも、良かったよ。凜子ちゃんが魂だけで会いに来てくれて。肉体ごと殺すと殺人になっちゃうけど、魂だけなら罪にはならないから、ねっ!」


 磯谷は俺の脇をすり抜けて、一気に凜子に飛びかかった。


「な、なんで、触れるの?」


 凜子が驚きの声を上げた。

 凜子の左胸に磯谷の右手が突き刺さっている。


「普通の奴ならば触れない。だが、俺の能力は魂に干渉する能力なんだよ。悪いが凜子ちゃん、死んでくれっ」


 磯谷が突き刺した腕を引き抜くと、その手には光の球のようなものを握っていた。

 凜子は力なくくずおれる。

 俺は凜子を支えようとしたが、凜子には触ることは出来なかった。


「さようなら」そう言って磯谷は光の球を握りつぶした。

「うわあああああああ!」


 凜子は叫び声を上げて、空気に溶けるように消えていった。


「お前、凜子に何をした?」俺は磯谷に詰問をする。

「魂を壊した。病院にいる本体も死ぬはずだ。しばらくしたら病院から電話が掛かってくると思うよ?」


「貴様ぁ!」俺は磯谷に飛びかかった。

「おっと」


 磯谷は身を翻して躱すと、俺の腕を取って捻った。

 俺はあっさりと磯谷に捕まってしまった。


「まだだよ。まだ焦るなって。お前は桜木優太の仕込みが終わってからだ」


 磯谷は俺を地面に投げ出すと、去っていった。




 放課後、病院から電話が掛かって来て、凜子が死んだことを伝えられた。

 磯谷が凜子の幽霊を殺したからといって、本体の凜子が死ぬとは本気では思ってなかった。

 デタラメかもしれないと心のどこかで思っていたが、磯谷の言葉は本当だった。

 すぐに病院に行かなければならないけど、俺は少し部活に顔を出してから病院に行くことにした。

 桜木さんと柊がどうなるのか見届けたかったのだ。

 部室に行くと、桜木さんが一人パイプ椅子に座っていた。


「こんにちわ」

「…………」


 挨拶をするも桜木さんからは返事が返ってこなかった。

 思い詰めたような顔をして俺が入って来たことにまったく気付いていないようだ。

 俺は適当な椅子に座って、みんなが来るのを待った。

 すぐに神崎がやって来て、三人で無言の時間が過ぎていく。

 やがて柊がやって来て、

 

「何かあったのか?」

 

 部屋の空気がおかしいので全員に問いかける。

 だが柊の問いに誰も答えようとはしなかった。

 その後、柊の必死の呼びかけに桜木さんが答え、二人は屋上に行った。


 二人が出て行くと、すぐに神崎のスマフォが鳴った。

 神崎はスマフォで誰かと話すと、用事が出来たと行って部室を出て行ったしまった。

 部室に一人だけになってしまった。

 屋上の様子でも見に行こうと席を立った所で、天音がやってきた。


「あれ、みんなはいないの?」

「桜木先輩と柊先輩は二人で屋上に行きました。神崎先輩は電話で誰かに呼び出せれて、どこかに行ってしまいました」

「ひなたと一真くんが屋上で……。なんの話をしてるんだろ?」


 腕組みをして考える仕草をする天音。気になって仕方がないようだ。


「気になるなら様子を見にいきませんか?」俺はそう提案した。

「そうね、部長は部員の事を良く知って置かなければならないわね。屋上に行きましょう」

「はい」


 そう言って俺と天音は柊達の様子を見に屋上にやってきた。

 屋上に出る鉄扉の隙間から、柊と桜木さんの様子を盗み見る。


「ちょ、なんで抱き合ってるのよ!」天音が小さく避難の声を上げた。

「桜木先輩、泣いてる見たいですね」

「ひなたが、……泣いてる。一真くんにフラれたのかしら。でも、一真くんのこと、なんとも思ってないって言ってたのに、どうして?」


 天音は完全に色恋沙汰だと誤解しているようだ。


「あ、場所を移動しました」


 桜木さんと柊が花壇の前に移動をする。


「なんで場所なんか……。えっ、えっ、嘘でしょ? きゃあああああ!」


 天音と俺の前で、柊と桜木さんは屋上から落ちた。

 天音が悲鳴を上げる。

 それと重なるように、柊の悲鳴が聞こえた。


「嘘、嘘、嘘よ、こんなの……」


 天音が屋上に飛び出して、柊達が落ちていった場所を覗き込む。

 計画通り、これで良いんだ。これで俺は元の体に戻る。

 俺はそう自分に言い聞かせつつ、天音の隣に立って下を覗き込んだ。

 下はコンクリートで、真っ赤な薔薇が咲いたように赤く染まっていた。


「どうして、どうして、どうして!」


 天音は涙を流しながら、地面を手で殴り付けていた。

 俺は戸惑った。

 俺が柊や桜木さんだった時、落ちた瞬間に意識を失い。

 そして目が覚めたら時間遡行と精神の入れ替えが発生していた。

 だが今はそんなことにはなっていない。

 二人が落ちれば、ループが発生するとばかり思っていた。


 ──失敗したのか?

 

 俺の脳裏に最悪の言葉が浮かんだ。

 このまま俺は姫宮の体で過ごすことになってしまうのか。


「ねえ、衣千子ちゃん? あなた何か知ってたんじゃないの?」


 天音がいきなり立ち上がると、俺に詰め寄ってきた。


「し、知りません。私は何も……」


 本当は知っているが、そんなことを言えるわけがない。


「衣千子ちゃん、教えてよ! なんで、なんで二人が飛び降り自殺なんてするのか! ねえ、教えて、教えて! なんでも良いからぁ! 知ってること教えてよ!」


 天音が俺の両肩を掴んで揺すってくる。天音の顔は涙でボロボロだ。

 俺はガクガクと体を揺さぶられて、バンラスを崩し一歩下がった。

 しかし、コンクリートの出っ張りに足が引っかかり後ろに転んでしまった。


「うわああ!!」


 天音も俺に引きずられるように一緒に倒れてくる。

 俺は地面に後頭部をぶつけた。

 そして一緒に倒れてきた天音の口が俺の口にぶつかった。

 その瞬間、俺の意識は飛んだ。

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