19 ソールイーターVS冒険者パーティー
(階段だ)
『階段だな』
俺とソールイーター先生の2人ぶらり旅だけど、平原を歩き続けた結果なんと平原のど真ん中に下へと続く階段を発見した。
(ここってマジでダンジョンなのか?)
『そのようだな』
(異世界で魔法やモンスターのある世界とはいえ、ダンジョンの中に空があったり、風が吹いていてもいいのだろうか?)
『……ここは地球でなく異世界なのだ。細かいことは気にするな』
気にするなって言われても、気になるんだけどなー。
ファンタジーの不思議法則ってことにして、全て片づけてしまっていいのか?
ま、別にいっかー。
気にしたからって、何かいいことあるわけじゃないし。ここは深く考えないでおくぞー。
というわけで、ソールイーター先生の助言に従って、俺はそれ以上考えないことにした。
『クックックッ、さすがは俺だな。その脳みそ能天気ぶりは敬服に値する』
(フッフッフッ、そう褒めないでおくれ)
その後俺とサールイーター先生の2人で、しばらく間、「アッハッハッ」と笑いあった。
元々同じ人間の人格なので、喧嘩さえしなければ話はとてもよく通じる。
間違っても、ソールイーター先生は俺のことをバカにしたわけじゃないよね?
それはともかくとして。
『それでだ。下への階段があるということは、探せば上へ行く階段もあると思うのだが』
(だよねー。でも上へ行くのと下へ行くの、どっちが正解かな?)
『人里を目指すという当初の計画でいくとして。ダンジョンであれば普通は地下へ潜っていくケースが多いよな』
(だけどここが地下ダンジョンでなく、塔タイプのダンジョンだったら上へ登っていくよねー)
2人で考えてみるが、俺はこの世界のことに関してあまりにも知らなすぎる。
2人で話しても結局推測しかできないので、とりあえず下へ向かって進んでいくことに決めた。
駄目だったら、今度は上へ上がっていけばいいだけだし。
というわけで、俺たち2人は階段を下へ向かって下りて行った。
さて、下の階へと降りてみると、そこもまた草原だった。
ただしさっきまでいた上層階が昼間だったのに対して、降りてきた階は太陽が地平線の辺りにあって、空は赤く染まっていた。
ここも草原地帯のようだけど、太陽が緩やかに登り始めていて、今は早朝のようだ。
階層を移動しただけで、ダンジョンの中の時間が変わっている。
階層によって時間が違うのもビックリだけど、それ前にここが塔なり地下迷宮として、建物の中で普通に空や太陽が存在していることがさらにビックリだ。
「ば、化け物だ!」
「な、なんだあの化け物は。こんな下層の階で出てくるようなモンスターじゃないぞ!」
「あんなの俺たちみたいな、低ランクの冒険者が戦えるか!」
「いやああああっ。皆、今すぐ逃げるのよ!」
ダンジョンの神秘にビックリしていた俺とソールイーター先生。
だけど階段を下りた先で、バッタリ人間の一行に遭遇した。
男2人に女2人のパーティーのようだ。
『本体よ、今冒険者という言葉が聞こえたぞ』
(ますます持って異世界ファンタジー満載の響き。俺、このダンジョン出たら、人間の中で生活して冒険者ライフを送るんだ)
『それは面白そうだな。……でも、あの冒険者たち、俺の姿見て滅茶苦茶怖がってるぞ』
(そりゃあ、ソールイーターの見た目って、明らかにヤバイモンスターだからね。ヤバイというか、ヤバすぎる?)
暢気に話し合う俺とソールイーター先生。だけどそんな俺たちの会話とは裏腹に、冒険者パーティーは取り乱していて、背中を見せて脱兎のごとく逃げ出していく。
普通敵が目の前にいるのに、背中を向けて全力で逃げ出すのって危険じゃないか?
もしも敵が背後から追いかけてきたら、攻撃されても対処できずにやられてしまう。
前世で聞いた話だけど、山でクマに遭遇した場合、いきなり背中を見せて逃げ出したらクマが追いかけてくるって話があったけど。
シャドウの俺としては、そんなことを考えてしまうわけだ。
もっとも俺ってただのド素人戦闘員だから、戦闘からの逃亡の仕方ってよく分からないけどさー。
『クハハハハ、愚かな人間どもよ。このワシから逃れられると思ってかー』
(えっ、ちょっとソールイーター先生。あんな何してるの!)
なんてしてたら、ソールイーター先生が両腕を上げて、闇魔法の呪文の詠唱を始める。
や、やめてー。
いくら今モンスターになってるからって、さすがに人間殺すのはダメでしょうー。
あっ、でもちょっとノリと勢いがあったとはいえ、俺も俺を殺した奴らに報復しようと、さっきは考えてたっけー。
……ま、そんなことはもはや忘れた。
自分にとって都合の悪いことなど、忘れてしまうのが一番だー。
という間に、ソールイーター先生の闇魔法が完成してしまった。
『暗きゲヘナの炎よ、地上を焼き払え。カオスフレイム』
超ノリノリで、ソールイーター先生が魔法を宣告。
それと共に、草原の各所から黒い呪いの炎が巻き起こり、ゴウゴウと音を立てながら黒い炎が燃え上がった。
黒い炎に触れた大地と草が、一瞬にして黒い灰となって消え去っていく。
「な、なんて魔法だ!」
「こ、こんなところで死ぬなんて嫌……」
そして黒い炎は、背中を見せて逃げだしていた冒険者パーティーの逃走先を塞いでしまう。
「私、まだキスもしたことないのに……うっ、うううっ」
なんてしてたら、絶望した冒険者パーティーの女の子が1人、ショックから気を失ってしまった。
「おい、エミリー、エミリー、しっかりしろ。クソウッ、こうなったら一か八かだ!」
気絶した女の子を見て、大剣を装備した男冒険者がやけくそになってソールイーターに向かって走り出す。
『カハハハ、人間風情が、このワシに勝てると思ってか!』
男冒険者は勇敢だった。だがしかし、無謀だった。
ソールイーターに向けて装備していた大剣を振り下ろすものの、ソールイーターは手にした大鎌で軽々と受け止める。
それどころか武器の性能差がありすぎたせいか、大剣と大鎌が接触した瞬間、大剣が中ほどからパキンッと音を立てて折れてしまった。
「なあっ!」
折れてしまった剣が空中をクルクルと飛んでいき、男冒険者はその光景を絶句しながら眺める。
『ワシを前にしてよそ見をするとは言語道断』
「ガハッ!」
その隙をついて、男冒険者の首をソールイーターが骨だけでできた腕で掴みあげた。
(ちょっ、ストープ。先生やめて、やめましょう。人殺しはNoー。OK?)
『無論分かっておるわ!』
戦いの光景を傍観するしかない俺は、慌てて止めに入る。
返事では分かっているって言ってるけど、本当にソールイーター先生は分かっているのかね?
なんて思っていたら、ソールイーター先生のスキル精神汚染Lv6が発動して、首を掴んでいた男冒険者がこの世のものと思えない雄叫びを上げだして、ガクブルと体を痙攣させ始めた。
すぐさま白目を吹いて、口から泡を吹きだす。
おまけに極度の精神状態からか、股間から黄色い液体を漏らして、皮のズボンを濡らしていた。
『ウゲッ、バッチイ!』
漏れ出した液体を見て、ソールイーター先生は男冒険者をその辺にポイと投げ捨てた。
(頭から地面に落ちてないからセーフかな?まあ精神汚染受けたせいで、ちょっと心に消えないトラウマが残るかもしれないけどー)
そしてその後もソールイーター先生は、逃げようとする残りの冒険者2人に、圧倒的強者として臨み、精神汚染スキルで攻撃していった。
最初に気絶してしまった女冒険者を除いて、みんな精神をやられてぶっ倒れてしまった。
ついでながら精神汚染を受けて倒れた女冒険者も、気絶したままお漏らしをしている。
『ふっ、我ながらナイスな仕事だ』
(そうだね。ただ精神汚染がよっぽど怖かったのか、顔からゲロ吐いてなきゃもっとよかったのに)
『いや、ゲロインもそれはそれで……』
圧倒的な強さで冒険者4人を一方的に無力化したけれど、その後の光景を見て、こんなことを話している俺とソールイーター先生。
『俺たち野郎2人、只今ヒロイン候補を募集中です』ってか?
なお冒険者たちは精神汚染でかなり心がやられただろうけど、今回は人間相手だったので命は奪っていない。
……一応ね。




