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忘却の治癒師 ~娘に忘れられても、俺は何度でも父親になる~  作者: レモンティー


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第四十四話 父親が恐れているもの

ミウは父に、治療の話をするたび彼が窓の外を見ることを指摘した。

「お父さん、私が怖いんじゃなくて、忘れられるのが怖いんでしょう」

オズマは否定しかけたが、娘のまっすぐな瞳に嘘をつけなかった。

「怖いよ」とオズマは言った。

「君が目を覚まして、私を知らない人だと言うのが」

ミウは少し黙ったあと、「私も怖い」と答えた。

「お父さんの顔が分からなくなるのも、明日が来なくなるのも」

二人はどちらの恐怖も小さく扱わなかった。

「私が目を覚まして、お父さんを知らないと言ったら」

ミウは途中で口を閉ざした。

オズマは続きを急がせなかった。

「そのとき、あなたはどうする?」

「まず、名前を伝える。それから、君が嫌なら離れる」

ミウは首を振った。

「離れるかどうかは、そのときの私に聞いて」

オズマは言い直した。

「そうだね。君に聞く」

父親としての愛情が、娘の選択を奪う理由になってはいけない。

ミウは一枚の紙を二つに折り、左に「覚えていたいこと」、右に「これからしたいこと」と書いた。

左には母の声、父の手、焼き菓子の匂い。

右には海、友達との散歩、来年の誕生日。

右の欄が長くなるにつれ、オズマの胸が痛んだ。

ミウは紙の右側に「来年の冬に雪だるまを作る」と付け足した。

夜、ミウは二つ折りの紙を枕の下にしまった。

オズマは取り上げなかった。

娘の恐怖を理解するために書かせたのではない。

娘自身が自分の気持ちを確かめるための紙だからだ。

廊下に出ると、サーラが待っていた。

「話せた?」と尋ねられ、オズマは「怖いと言えた」と答えた。

サーラはそれ以上聞かなかった。

オズマは窓の外に目を向けた。

娘が指摘したとおり、彼は難しい話になると逃げるように外を見ていた。

明日から突然変われるわけではない。

それでも、次にミウが問いかけたときは、まず娘の顔を見ると決めた。

父親であることを証明するのは、過去の記録だけではない。

目の前の問いから逃げないことだった。

「私は、右のほうを諦めたくない」

ミウの言葉は命令ではなく願いだった。

オズマは初めて、娘を治療する決断を「奪う」だけのものと考えずに済んだ。

失うものは大きい。

それでも、残せる未来もある。

二つ折りの紙の片側に、ミウは「死ぬのが怖い」と書いた。

反対側には「お父さんを忘れるのが怖い」

オズマはどちらかを消すことができず、紙を机の中央に置いた。

「私も同じだ」と答えると、娘は少し怒った。

「同じじゃないよ。忘れるのは私だもの」

その指摘を受け止めて、オズマは初めて自分の恐怖を娘の恐怖と区別した。

オズマは治療の説明書を三度書き直した。

最初の紙には危険ばかり並び、二枚目には希望ばかり並んだ。

どちらも娘に見せるには不公平だった。

三枚目には、分かっている効果、分からない危険、治療しない場合の見通しを同じ大きさの字で書いた。

ミウは一行ずつ読み、「私が途中で怖くなったら、止められる?」と尋ねた。

オズマはオルドを呼び、いつまでなら止められるか一緒に説明した。

父親の言葉だけで決めさせたくなかった。

オズマは左の欄に「今のミウの声」と書き、右に「明日の声」と書いた。


翌朝、ミウは二つの欄の前で、昨日より長く考え込んでいた。

「昨日の私と今日の私は、同じ私かな」

オズマは答えを急がなかった。

「違うところもある。でも、どちらも君だよ」

娘は首をかしげ、それから小さく笑った。

「じゃあ、明日の私にも教えてあげよう」

その言葉を聞いて、オズマは記録を残す理由が少し変わったことに気づいた。

失った記憶を数えるためではない。

明日の娘が、自分の好きなものを選べるようにするためだった。

説明が終わったあと、ミウは窓辺で長いこと黙っていた。

オズマは返事を急かさず、少し離れた椅子に座った。


やがて娘が言った。

「忘れたあと、私があなたを嫌いだって言ったら?」

胸を刺されたようだったが、彼は逃げなかった。

「悲しいと思う。でも、そのときの君の気持ちを聞くよ」

ミウはようやく振り向いた。

「約束ね」

オズマは頷いた。

治療の成功を約束できなくても、目覚めた娘の言葉から逃げないことだけは約束できた。

昼過ぎ、サーラが二つの欄を見て「ここは急がなくていい」と言った。

オズマは、急がなければ手遅れになるという恐怖にずっと追われていた。

だが、今できることを丁寧にする時間まで奪ってはいけない。

ミウはサーラの手から布を受け取り、端をきれいに折った。

失敗すると二人で笑った。

その笑い声が部屋の奥まで届き、オズマは久しぶりに深く息を吸った。

夕方、オルドは二つの欄のそばでオズマに尋ねた。

「お前は、自分のことを責めていないか」

オズマは答えられなかった。

助けられた命の数を数えても、娘の苦しみが軽くなるわけではない。

オルドは続けた。

「責任を取ることと、すべてを一人で背負うことは違う」

オズマはその言葉を胸に留めた。

誰かに支えられるのは、弱さではない。

娘にそれを教えるためにも、まず自分が受け入れなければならなかった。


その晩、オズマは二つの欄を見つめ、マリアに話しかけるように心の中でつぶやいた。

もし君がここにいたら、私はもっと上手に笑えただろうか。

返事はない。

それでも、亡き妻の思い出は彼を過去へ閉じ込めるものではなかった。

ミウが今夜も眠り、明日目を覚ます。

そこに手を伸ばす勇気を、かつて妻と過ごした時間が支えていた。

ミウは翌朝の自分に向けて短い手紙を書いた。

『目の前の人が泣いていても、思い出せない自分を責めないで』。

オズマが読むと、娘は照れくさそうに紙を奪い返した。

「お父さんへの手紙じゃないからね」

オズマは笑った。

娘には父親の知らない内側がある。

それを守れることも、父親の仕事だった。

次の日、ミウは二つの欄について、自分の言葉で短い文章を書いた。

文字はところどころ傾いていたが、オズマは直さなかった。

娘が残したいと思った言葉を、父親の都合で整えたくなかったからだ。

「読みにくい?」と聞かれ、「ちゃんと読めるよ」と答えた。

ミウは満足そうに頷いた。

その表情を見て、オズマは今日という日が記録の中だけではなく、確かにここにあると感じた。

机に残った三枚目の説明書を、ミウは自分の手で折りたたんだ。

「明日また読みたい」と言った。

オズマは頷いた。

決断を急がせないための時間も必要だった。

ミウは二つ折りの紙の右側に、まだ書いていない場所を指さした。

「お父さんのしたいことも一つ書いて」

オズマは迷い、ようやく「一緒に海を見る」と書いた。

娘は満足そうに笑った。

「私だけの未来じゃないね」

オズマはその言葉を、治療の前に忘れないよう胸に刻んだ。

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