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忘却の治癒師 ~娘に忘れられても、俺は何度でも父親になる~  作者: レモンティー


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第十七話 忘れられた人たちの集会

鐘楼の封鎖が公表されると、王都では別の騒ぎが起きた。

記憶を失った人々を恐れ、商人が客を断り、子供たちが学校でからかわれるようになったのだ。

「忘れた人が悪いんじゃないのに」

ミウは教室で聞いた話を父に伝えた。

トビアスが『母親を捨てた子』と呼ばれたという。

オズマは学校へ行き、教師と話した。

病の説明をするにしても、患者の名前を勝手に公表してはいけない。

教師は学級で、誰かの記憶を失うことは本人の選択ではないと話すと約束した。


その日の夕方、サーラの店で集会が開かれた。

忘れられた家族と、忘れてしまった患者が同じ部屋に集まるのは初めてだった。

オズマは椅子を円形に並べた。

前後も上下もないようにするためだ。

「今日は、思い出させる会ではありません。互いの今の気持ちを聞く会です」

最初に口を開いたのはルークだった。

「妻が私を忘れた日、私は証拠を並べて責めました。十二年をなかったことにされた気がしたんです」

セシルは膝の上で手を握った。

「私は怖かった。知らない人が、私の全部を知っていたから」

ルークはゆっくりうなずいた。

「今は、もう一度知り合おうと思っています」

次にトビアスが立ち上がった。

「僕、母さんのことをまだ思い出せない。でも、昨日一緒にパンを焼いた。焦げちゃったけど、笑った」

母親が涙を拭いた。

「それが嬉しかったの」

集会には、かつてオズマが治療した患者の家族も来ていた。

彼らは治癒の代償を知っている。

救われた人に忘れられる痛みを、別の形で見守ってきた人々だった。

一人の女性が言った。

「先生。私は夫を助けてもらいました。夫は先生を覚えていません。でも、私は忘れません」

オズマは頭を下げた。

「ありがとうございます」

「だから今度は、私たちが誰かの記憶を支えたいんです」

サーラが帳面を掲げた。

「病気になった人を責めず、家族を一人にしない。手紙を書くのが苦手なら代筆する。会いたくないなら無理に会わせない。それを手伝う人を募ろう」

次々と手が挙がった。

オズマは胸が熱くなった。

自分が治療を続けてきた年月は、ただ忘れられて消えたわけではない。

救われた人々の暮らしの中に、別の形で残っていた。

しかし、集会の終わりに一人の男が叫んだ。

「こんな病気を広めたのは、あの治癒師だろう!」

場が凍りつく。

男は妹に忘れられたばかりだった。

「人の記憶を消す力があるんだ。あいつが犯人に決まってる!」

オズマは立ち上がった。

集会のあと、トビアスの母親はセシルに声をかけた。

「忘れられた日の夜、どうやって眠りましたか」

セシルは首を振った。

「私は忘れた側です。あの人が泣くのを見るのがつらくて」

二人はしばらく黙った。


やがて母親は言った。

「あなたも怖かったんですね」

互いの痛みは同じではない。

それでも、比べずに聞くことはできた。

オズマは遠くからその様子を見ていた。

「私の力は、治療した患者から私に関する記憶を消します。今回の病とは症状が違います。調査記録を公開します」

「そんな説明、信じられるか!」

男は拳を握った。

衛兵が近づくと、オズマは首を振った。

「怒っているのは当然です。妹さんを失ったように感じているんでしょう」

男の顔が歪んだ。

「……生きてるのに、俺のことを知らないんだ」

「つらいですね」

オズマはそれ以上言わなかった。

男は泣き崩れ、サーラが水を差し出した。

連絡網の最初の仕事は、忘れられた家族のための夕食会だった。

料理はサーラが作り、配膳は商人たちが手伝った。

席札には名前だけでなく「話しかけられたくないときは札を裏返す」と書いてある。

セシルは最初、札を裏返して座っていた。

ルークは少し離れた席でパンを食べ、声をかけなかった。

食事が終わるころ、セシルは札を戻し、ルークに尋ねた。

「あなた、明日は暇?」

ルークは驚き、すぐに答えなかった。

「散歩に行きたいの。昔の場所じゃなくて、私の知らない道へ」

その会話を聞いたトビアスが、母親に「僕も知らない公園に行きたい」と言った。

誰も過去を思い出さなかった。

それでも、明日の約束がいくつも生まれた。

集会の記録を整理しながら、オズマは参加者の名前の横に小さな印をつけた。

相談を希望する人、静かに見守ってほしい人、手伝いを申し出た人。

全員に同じ支援を押しつけないためだった。

ミウは横で色鉛筆を削り、箱の絵を仕上げていた。

その日の出来事を帳面に残すとき、オズマは事実と推測を別の欄に書いた。

誰かの人生を左右する仕事で、確かめていないことを確かだと言ってはいけない。

ミウが隣で紙を折り、父の手元を覗いた。

「お父さん、今日も難しい顔だね」

オズマは筆を置き、娘と一緒に温かい茶を飲んだ。

調べることは大切だが、娘と過ごすこの時間も同じくらい大切だった。

サーラは閉店前に治療院を訪れ、明日の食事に使う野菜を置いていった。

「困ったら言いな。あんたは何でも一人で抱える」

オズマは礼を言い、受け取った野菜をミウと並べた。

助けられることに慣れていない自分を、少しずつ変えていきたかった。

帰宅後、ミウは父に尋ねた。

「お父さん、怒鳴られて怖くなかった?」

「怖かったよ」

「それでも、あの人の話を聞いたの?」

「怒りの下に、悲しみがあると思ったから」

ミウはしばらく考えた。

「じゃあ、悲しい人には怒ってもいいってこと?」

「怒ってもいい。でも、誰かを傷つけていいわけじゃない。今日は周りの人が守ってくれたから、話を聞けたんだ」

娘は納得したようにうなずいた。


翌朝、集会の参加者たちは連絡網を作り始めた。

名前、住所、助けてほしいこと。

患者本人の同意があるものだけを書き、紙は鍵のかかる箱に入れた。

ミウは箱の表紙に絵を描いた。

輪になって手をつなぐ人々だ。

集会で一人の父親が立ち上がった。

「鐘を止めれば、娘は私を思い出しますか」

オズマは答えられなかった。

「戻ると約束はできません。ただ、新しく失われる記憶を減らせるかは調べられます」

父親は落胆したが、隣の女性が「なら、観察の手伝いをします」と言った。

集会の帰り、女性がオズマを追いかけた。

「名簿から名前を消しても、私がここへ来たことは誰かが覚えている」

オズマは足を止めた。

帳面だけ守れば十分だと思っていた。


翌日、集会の入口に衝立を立て、参加者が別々の時刻に出入りできるようにした。

忘れられた人々を助ける場所で、新たな恐怖を与えてはならない。

女性は次の集会で初めて自分から椅子に座った。

集会の最後、一人の老人が立ち上がった。

「治ると約束してくれないのなら、ここへ来た意味はあるのか」

会場が静まった。

オズマは答えを探し、やがて言った。

「治るとは約束できません。でも、誰かの記憶に残っていないからといって、あなたが共に生きた日々が嘘になるわけではありません」

老人の隣に座る孫が手を握った。

「僕は覚えてるよ」

それだけで老人は泣き始めた。

オズマは、その場で治療をしなかったことを初めて誇らしく思った。

「みんなが全部覚えてなくても、手をつなげるように」

オズマは絵を見て、妻の言葉を思い出した。

助けるとは、相手の声を聞くことでもある。

集会の出口で、名前を忘れられた女性がオズマに言った。

「あなたの話を聞いて、夫を責めるのをやめようと思います。でも悲しくなくなったわけではありません」

オズマは答えた。

「悲しいままでいいんです」

治癒の成功と心の回復は同じ速度では進まない。

彼はその言葉を、治療記録ではなく自分の日記に書いた。

集会のあと、参加者の一人が名簿の破棄を求めた。

「私の家族が忘れたことを、町中に知られたくない」

オズマはその場で名簿を閉じた。

記録が人を救うこともあれば、記録そのものが人を傷つけることもある。


翌日から参加者は名前の掲載を選べるようにした。

誰かの記憶を守る活動が、その人の秘密を奪ってはならなかった。

その夜、フェルが急いで訪ねてきた。

「鐘楼の発注書が見つかりました。院長の印が押されています。でも、署名の筆跡が違うんです」

「偽造の可能性がある?」

「はい。それに、発注日は院長が王都を離れていた日でした」

オズマは立ち上がった。

事件は、誰か一人を悪者にすれば終わるほど単純ではなかった。

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