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7 伊月さんの友達に何やら疑われているが、そんなことは関係なくタッパーで小籠包を食べる


「ねえ、青輝」


「な、なにさ、本保《ほんぽ》さん……」


 俺の席にやってきたのは本保《ほんぽ》美玖《みく》さん。


 伊月さんと仲の良い友達だ。


 快活かつギャルっぽい印象で、金髪(校則にひっかからないのか?)を頭の高い位置でポニーテールにしている。


 本保さんはポニーテールを払って続けた。


「あんた、やっぱりアズキと付き合ってるの?」


「違うよ」


 突然しゃべりかけてきたと思ったらそんなことか。


 俺は事実だけを告げる。しかし彼女は思ったような返事が来なかったからか、不満を惜しげも無くだした。


「ええー! うっそだあ! だってめちゃくちゃ仲いいじゃん!」


「あのね、仲がいいからって付き合ってるとは限らないでしょ?」


「限る!」


 困った俺は「ほんとに付き合ってないんだけどな」と眉を八の字にする。


「だいたいなんでそう思うのさ」


「だってアズキからご飯作ってもらってるでしょ?」


「なんで知ってんだ?」


「そりゃあわかるよ」


 本保さんは腕を組んで頷く。


「アズキは昔から料理上手だったからね~」


「本保さんって伊月さんと付き合い長いの?」


「長いよ! 幼馴染だし」


 そうなのか、と今度は俺が頷く番だった。


 本保さんは隣の席、伊月さんの席を見ながら話す。


「アズキってあんまり男子としゃべるタイプじゃないし。自分から話しかけることなんてほとんどないんじゃないかな?」


「……そうなんだ」


「あ! 今嬉しそうにしたね!」


「うるせえな」


 俺は「もういいだろ」って言って、蚊を払うように手でしっしっと追い返そうとした。


 しかし本保は少しも気にせず話し続ける。


「両片思いか〜。大変だね〜」


「なんだそれ、よくわかんないこと言うな」


 俺はこれ以上の言及をかわすために、ふと気になったことを聞いてみる。


「やっぱ本保さんも伊月さんの手作りよく食べるの?」


 すると本保さんは「あるよ!」と間を開けず答える。だが「あー、でもね」と付け加えた。


「たまにくれるぐらいだよ。今だって時々しかもらわないし。アズキってば『美玖にはいつか私がビックになったらたくさん食べて欲しい』って言うばっかりなんだよ。ビックってどういうこと? って聞いたんだけど答えてくれないんだよ~」


 俺は違和感を覚えた。この前、倫太郎とお昼を食べている時、2人の会話を盗み聞いたことがある。その時、どうやら伊月さんはインスタのことを本保さんに教えていないように思えた。


 その推測を裏付けるように、本保さんは続ける。


「『10万になったときは言う』とか『いつかは書籍化する』とか意味わかんなくない? 株で一儲けしたあと、大衆向けに億り人系の本を出して印税収入ってこと?」


 いろんな解釈ができる言い方をするなと思った。嘘は全く言ってない伊月さんに感心してしまう。


 フォロワー10万人とレシピ本を出すってことなんだろうけど、大事なところを抜いたらいかようにも判断できてしまうな。


「ねー! 青輝ってば教えろよー! ねーねーねー! やっぱお前知ってるんだろー!」


「あー! やかましいな! 知らないって!」


 俺は耳を塞いで、追われないために男子トイレへ駆け込んだ。




 ☆




「ハルノくんはししゃもどこから食べる派? 私は喉から」


「風邪ひきそうな食べ方だね」


 昼休み。伊月さんは俺の肩をつついて、話しかけてくる。


「お昼、持ってきてる?」


「いや、今から買いに行こうとしていたところ」


 すると伊月さんは俺の腕をぐいと引っ張った。


「裏庭行くよ。一緒にご飯食べるんだ」


「え! いいの!?」


 俺のお腹もぐうと鳴る。それは空腹を訴えるだけでなく、喜びを露にしてるようにも思えた。


 裏庭にて。今日はベンチが空いていたので、並んで腰を掛ける。


 いつものように伊月さんはお弁当袋を開けて、今日のランチを取り出した。


 そこである違和感に気付く。


「ん? タッパー?」


 いつも見た目を気にしてかその時その時のランチに合った包装をしてくる伊月さん。しかし、今日に限っては違った。食材をストックするために使われる容器、タッパーだ。


「そう。タッパー」


 伊月さんは違和感を覚える俺の反応が予想の範囲内だったのか、にやりと頷いた。


 パケッとタッパー開けて、俺にスプーンと一緒に寄こしてくる。


「さあ、食べてみて」


 渡されて中身を見ると、一面白い皮が敷き詰められていた。料理名も味の想像もできない。


俺は伊月さんの顔を見た。口には出さないが「食べて大丈夫なの?」という表情をしていただろう。


すると伊月さんからはグットサインが返ってきた。


俺は改めて白い皮に視線を移す。不安は残るが、伊月さんが大丈夫というなら大丈夫なんだろう。


俺は「いただきます」と言って、今からこれを食べるんだと覚悟を決めた。


 ――肉汁がゴクゴク飲めるだと!?


おびただしい量の肉汁が俺の口をジャックした。


 タッパーを見ると、俺がスプーンを入れたところから断面が見える。


 肉だねが入っていた。


 肉だねの中には刻まれた長ネギっぽいものが練りこまれている。肉だねにネギは切っても切れない関係だろう。安定にウマい。


おびただしい肉汁と白い薄皮、そして肉だね。これはつまりデカイ小籠包ではないだろうか。



この敷き詰められた白い皮は餃子の皮だろう。もちもちしててすごく美味しい。肉だねととてもマッチしている。


 俺はふたくち目を口に運ぼうとする。そこで気づいてしまった。肉だねから優しく湯気がたっていることに。


 ハグッと小籠包を食べる。やはり温かかった。

 学校でこんなに温かい出来立てが食べれるなんて信じられない……!


「さっき食堂のレンジで温めてきた」


 またもや思ってたことが口に出てたのか、伊月さんは俺の疑問に答えてくれる。


「え、出来立てじゃないのに、こんなに温かい肉汁が溢れちゃうの……? こんなのもうどこでも小籠包じゃん……中華街じゃなくてもこの味楽しめちゃうじゃん……」


「肉だねに水分をいっぱい含ませているからね。だから肉汁が滝のように出るの。スーパーのチルド小籠包は形が崩れないことを優先されてるから」


 そういうわけか。俺は食べながら頷く。長い時間店頭に並べられることも考えると、どうしても水分の含有量が減ってしまうのか。


 俺は手作りってなんて小回りが利くんだと改めて感動する。


 そしてまた一口、また一口と食べてると、タッパーの中は残り半分となっていた。そこで伊月さんは一度俺の食べる手を制す。


「じゃん。味変のラー油。いーっぱいかけちゃいな」


 伊月さんの手には赤い油が入っている小瓶が握られている。まるで悪魔の取引だ。俺がこの小瓶を手に取ってしまっては、取引は成立。


 ラー油なんてかければかけるほど美味しいだから、取り留めなくラー油を垂らしてしまう。


もちろん、躊躇なんてしなかった。

ダバダバと油をかけた先に待っているのは天国でも地獄でもある。


 ――油の洪水だ!


 ラー油と肉汁の脂が俺の口の中で大洪水を起こしていた。俺の口の中を全て油にしてやろうという気概すら感じる。


そして意外にもくどくない。生姜がアクセントになっているからだ。


 油の海がジンジャーによって、食べやすくなっているのだ。


 口の中を油で溺れさせてやる、という肉汁陣営の試みは、生姜という優秀な薬味に阻止される。それじゃあ口が油でやられて手が止まっちゃうでしょ、と。


 攻めれば良いだけじゃないというのを完全に知り尽くしている立ち周りだ。こんなのもう、無限に食べれてしまう。


 そう気づきを得た頃には、小籠包は跡形もなく消えていた。


 俺は「ごちそうさまでした……」と幸せのため息とともに吐き出す。


 伊月さんは「相変わらずいい食べっぷりだね」と、小籠包を食べながら言った。


 我に返った俺は途端に恥ずかしくなって頬をかきながら答える。


「食べるのが好きすぎて食事中は自分を忘れちゃうんだよ」


 茶化されるかと思ったが、意外にも伊月さんは嬉しそうに返す。


「それだけ私の料理が美味しいってことだね。嬉しい限りだよ」


 それはそうだった。伊月さんの料理は美味しすぎる。


 そこではたりと思い出す。そういえば、伊月さんって本保さんにインスタのこと俺意外には誰にも言ってないのかな。


 気になったので聞いてみることにした。


「え? 誰にも言ってないよ」


 俺は目を丸くする。


「本保さんにも? 仲良しだし、幼馴染なんじゃないの?」


 すると伊月さんは「あ~」と何とも言えない曖昧な感嘆を漏らす。


「だって、美玖は親友だし。親友にはかっこつけたいじゃん」


「じゃあ俺は?」


 伊月さん顔を上げる。俺は聞いてないなんて言わせないぞという気概で、もう一度繰り返した。


「本保さんが親友なら、俺はなんなの?」


 伊月さんは黙ってしまう。困らせてしまっただろうか。それでも今回は引かなかった。伊月さんの瞳が揺れる。そして彼女はようやく口を開いた。


「パートナー」


 伊月さんはいつになく優しい声で言った。


「だって、そうでしょ。違う?」


 恥ずかしげもなく、きっぱりと言い切るものだから、聞いたこっちが動じてしまう。


「ち、違くない……」


 そしてあっけなく押されてしまった。パートナーという単語が、俺もしっくりきてしまったからだ。


 伊月さんは小籠包を食べながら話す。


「全く、ハルノくんが変なこと言うから」


「ご、ごめん……」


 少し意地悪を言ってしまった自覚があるので、俺は素直に謝った。


 伊月さんは謝罪をもらえたことに気をよくしたのか、機嫌よさそうに口を開く。


「私の皮は小籠包の皮ぐらい薄いんだから。ちょっとつつけば全部溢れてきちゃうよ」


「つんつん」


 俺は伊月さんの肩をつついてみる。すると伊月さんはスゥ、と息を吸って、吐くと同時に決壊した。


「バズりたい! もっと料理上手くなりたい! あわよくばレシピ本も出したい! もっとハルノくんの胃袋を掴みたい! 胃袋意外も掴みたい! 私のこと、目が離せなくなってほしい! フォロワー増えて増えて増えて増えて増えて!」


 溢れてきたのは夢と希望と俺の胃袋への思いだった。


 俺はつい笑ってしまう。


 伊月さんならその夢たちはすぐ叶うだろうなと思いながら。




 今回の摂取カロリー、約780カロリー。

 まめ吉のフォロワー、約3080フォロワー(前話比+1020)。

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