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22/30

22 鮭バターコーン炊き込みご飯は炊飯器だけで完結する


「なぁハルノ、混ぜうどんって知ってる?」


「ゲホゲホゲホッ……!」


 休み時間。


 俺の席で一緒にお昼を食べていた倫太郎が突然ぶっ込んできた。そのせいでむせてしまう。


「うわ、なんだよ汚いなぁ!」


「だってお前が変なこと言うから……!」


「はあ? 変なことなんて何も言ってないけど」


「いや言っただろ……! 混ぜうどんが——」


 俺は言いかけて言葉を引っ込める。


 よくよく考えたら、混ぜうどんを知っているかどうかと尋ねることなんて少しも変なことではない。


「……言ってない」


 俺はスンとして続けた。


「それで、混ぜうどんがどうしたのさ」


 俺の態度がコロコロ変わるものだから、倫太郎は「なんだお前」と言って、これの奇行について以上言及せずに混ぜうどんの会話へ戻る。


「ショート動画でバズってた混ぜうどんレシピ。これが簡単でめっちゃうまいんだよ」


 見せてもらった動画は言うまでもなく伊月さんの動画だった。


 俺は「だってよ」という意味を込めて、伊月さんを見やる。当然、伊月さんは会話を聞いていたようで明らかに機嫌が良い顔をしていた。


「ふふーん」


 伊月さんは鼻を鳴らしてご機嫌そうだ。一緒にご飯を食べている本保さんは「アズキなんか機嫌良くない?」と話しかけている。



 ☆



 放課後、裏庭にて。


 伊月さんはベンチ座っていた。俺のことを見つけると、こっちこっちと手招きをする。


 そして彼女は大袈裟に頬を膨らませて不満を顕にした。


「遅いよ、ハルノくん」


「ごめんごめん」


「全く。ようやく福がやってきたよ」


「俺って福の擬人化なの?」


「ちなみに私は招き猫の擬人化」


「だからいつも猫耳ヘアなの?」


「ううん。いつでもカラオケに誘われても良いように」


「まねきねこ……」


 俺は伊月さんの隣に腰をかける。伊月さんはさっきまでスマホを見ていたようで、画面が明るく光っていた。


「見てたの? 自分のショート動画」


 画面には混ぜうどんを作っている伊月さんの手元が写っている。


「再生回数、止まらなくて」


 伊月さんは混ぜうどんの動画を見せてきた。


 ピークよりも再生回数は落ちたものの、それでもまだまだ動画は出回っているようだ。


「やっぱり攻め方はあってたね!」


「次は守りのターンか」


「野球じゃないんだから」


 すると伊月さんは再び動画を見返す。その顔は微笑んではいたが、少しだけ複雑そうな顔をしていた。


「……レシピ本出せるかな」


 彼女には珍しい弱音だった。俺はもちろん「大丈夫だよ」と声をかける。


「伊月さんのレシピ、世の中に見せつけていこ」


 すると伊月さんは俺の顔をじっと見て、口をほんのり開けた。そして、開いた口は結ばれ微かに口角を上げる。


「……うん」


 俺たちはふたりで「えいえいおー!」と声を上げた。


 伊月さんは両手を本のようにして、へへん、と鼻を鳴らす。


「レシピ本作るときには、自分の好きなレシピもいっぱい入れちゃお」


 伊月さんは「角煮でしょ〜、コロッケでしょ〜、ポテトサラダでしょ〜」と手間のかかるレシピを指折り数えていく。


 そしてひとりで納得するように頷いた。


「やりたいことは、また今度」


 伊月さんはそっとスマホの画面を閉じた。


「てわけで、ハルノくん。お腹空いてる?」


 伊月さんはいつものお弁当袋を出してきた。それを見た俺は、お弁当の中身も見てないのにお腹が空いてくる。


「新作動画のために作ってきたんだ」


 伊月さんはお弁当袋の中身を空けた。そこにはアルミホイルの塊がごろごろと転がっている。


「……おにぎり?」


「正解」


 俺は伊月さんからおにぎりをひとつもらう。手作りおにぎりであるあるの包んである根源を探した。コンビニのおにぎりと違って、少しだけ取り出しにくいのも味があって良い。


 そして中身にたどり着く。なんの具材かなと楽しみにしていたが、これは具材が中心にあるタイプでないことに気付いた。


「炊き込みご飯?」


「追い炊きご飯じゃないよ」


「お風呂にしかないよ、その機能」


 目視でわかる具材はコーンと鮭だ。この組み合わせだけで、もう美味しそうである。


「いただきます」


 この米からどんな宇宙が広がっているのかと楽しみに頬張る。


 ——!? 王道の醤油バター……だっ!


 白米なのに油がコーティングされている。それも、ただの油ではなく、濃厚で奥行きのある油。間違いなくバターだ。


 そこに醤油が加わると、あっという間に化ける。香ばしさの底がしれない。


 鮭にはバター醤油と相場が決まっており、バター醤油のホイル巻きというレシピの存在を思い出す。そして奥歯でコーンが弾けるたび、口にほのかな甘さが広がる。これもまた、たまらなかった。


「んはぁ……美味しい美味しい……」


 5個目を食べている最中、ふと、このおにぎりはどのように作られているのか気になった。


 伊月さんは最近『簡単で美味しく』を目指している。つまり、これも簡単に作れるということなのだろうか。


「炊飯器だけだよ」


 俺の考えていることに答えるように伊月さんは言う。


 呆然とする俺に、伊月さんはもう一度言った。


「炊飯器だけだよ。材料を炊飯器に入れて、炊くだけ」


「え、嘘!? てことは、俺でもできる?」


「できるできる」


 俺は「教えて!」の「お」と発言したが、その先は伊月さんの腕で作ったバツ印で制されてしまう。そして意地悪な笑顔でこう言った。


「でも、レシピは教えてあげない」


 伊月さんは「ふひ」とこれまた意地悪な笑みを浮かべる。


「だって、ハルノくんが作れるようになっちゃったら、私のこと頼らなくなっちゃうかもでしょ」


 そう言う彼女の茶目っ気ある顔に俺はなんともいえない気持ちになる。


 俺は人差し指を立てて、言葉を返す。


「でもショート動画あげるなら、俺にもバレちゃうよ」というと、伊月さんは「ガーン。確かに」と頭を抱える。


「……でも、ハルノくんは私の作ったご飯が1番好きなはず」


 何故かもじもじと言う伊月さん。俺は頭にクエスチョンマークを浮かべる。


「? ……そりゃあそうだけど」


 すると伊月さんはムッとした顔になり、手をチョキにして俺の鼻をつまんできた。


「本当にハルノくんって人タラバガニだよね」


「美味しくなってる美味しくなってる」


 伊月さんは「ふん」と言って俺の鼻を解放してくれる。俺は「痛い……」と鼻を擦った。


「じゃあ早速今日、このレシピアップしよっと」


 伊月さんは言いながら、動画編集アプリでショート動画を編集していく。


「え、今日アップするの? だってその炊き込みご飯の動画撮ったの今朝でしょ?」


「ショート動画が水物だからね。バズりそうってうちに、早く編集してアップしなきゃ」


 伊月さんは手馴れたように動画を切って貼って切って貼ってする。


「伊月さんってやっぱり努力家だよね」


 俺は関心しながら、そう漏らす。すると、伊月さんピタリと手を止めて俺の方を向いた。


「それを言うならハルノくんだってそうじゃん」


「え、俺?」


 伊月さんは頷く。


「ハルノくん、いつもそこそこの成績ではいようって勉強頑張ってるし、それに最近は私と一緒にSNS活動頑張ってくれてるし、一度やろうって決めたことは努力する人じゃん」


 俺は伊月さんの言葉ひとつひとつを咀嚼する。


「……そうなんだ。俺ってそういう一面もあるんだ」


「そうだよ。知らなかったの?」


「知らなかった」


「じゃあ私の方がハルノくんのこと知ってるね」


 伊月さんは勝ち誇ったように笑った。俺は照れ隠しのために笑った。


 すると、後ろから話声が聞こえてくる。きゃぴきゃぴした声を聞くに、女子だろう。


「むむっ……刺客か……?」


「一般高校生を狙う人なんて誰もいないから大丈夫だよ」


 俺はそう言いつつも、伊月さんと一緒に声を潜める。


 ベンチに座っているから俺たちの姿はバレバレではあるのだが。細かにいえば、影を薄くしているになるだろうか。


 こっそりと姿を確認すると、別のクラスの女子だった。スマホを見ながら、何やら盛り上がっているように見える。


「そういえばさ、アキラ先輩最近メジャーデビューしたよね! ヤバくない!?」


「それな? マジヤバい。わが校の星すぎる」


「わが校の星って笑」


 すると伊月さんは顔を顰めた。


「まだ解散してなかったんだ……」


「先輩そもそもソロプレイヤーだから」


 伊月さんは女子生徒がAKIRAについて話ているのが面白くないようで、「ちぇっ」とつまんなそうな声を漏らす。


 しかし、女子生徒の片割れの一言で話の流れが変わる。


「アキラ先輩がフォローしてる……このまめ吉って人、最近バズってたよね」

 俺たちは顔を見合わせる。



 そして示しを合わせたように、一層影を薄くした。


「あー、混ぜうどんの子?」


「そうそう。それでその子の過去動画漁ったんだけどさ、見てこのVlog動画」


「え、ここの裏庭にそっくりじゃん」


 Vlogは最初の方にバズった、俺と伊月さんがパンケーキを囲んで学校の裏庭でピクニックのようなことをする動画だ。


「もしまめ吉ちゃんがいたら、うちの学校にインフルエンサーが2人もいることになるね!」


「だったらやばくない!? インフルエンサー専門学校じゃん」


「なにそれ笑」


 盛り上がる学生に、俺は思わず反応を示してしまう。


「ねえ、あの話って伊月さんの……」


 すると、伊月さんは人差し指を口元に置いた。


「しーっ……」


 俺は「ヤバッ!」と漏らし、慌てて両手で自分の口を塞ぐ。


 俺と伊月さんはさっきの子たちの動向を窺う。先ほどまでと変わらず、きゃっきゃっと会話が弾んでいた。俺の声は聞こえていなかったようだ。


 俺たちはほっと胸をなでおろす。


 そして伊月さんは俺にくぎを刺すように言った。


「私とハルノくんの秘密だから……!」


「ごめん~……」


「全く。いかのおすし、って習ったでしょ」


「それは天災の話でしょうよ」


「ちなみに私はマグロのお寿司」


「ひょっとして食べたいだけだね?」


 伊月さんはジェスチャーで寿司を握る素振りを見せる。


「そりゃあ魚が旨いで鮨だからね。食べたくもなるよ」


「今度回転寿司行こうね」


 俺は『スシローのフェアって今何やってたかな』と調べ始めた。

 

 


  今回の摂取カロリー、約1300カロリー。

  まめ吉のフォロワー、約フォロワー8600(前話比+800)。

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