15 アボカドに合う海鮮は本当にサーモンが最適なのだろうか
「一投稿目なのに結構伸びてるじゃん。すごいよ」
ショート動画5000回再生。フォロワー7人。うち一人がまめ吉。
「そうかな、えへへ……」
俺はホクホクした気持ちで自分の動画を見返す。
『簡単バズレシピ、一般大食い男子高校生でも簡単に作れるの?』
というタイトルで、まめ吉の直近でバズったレシピを真似て作るという動画を作った。
一投稿目は、サーモンアボカド丼。
サーモンとアボカドを角切りにして、コチュジャンと醤油がベースの甘辛いタレにあえたもの。
料理を普段やらない人でも簡単に出来てかなり美味しい。
「それにしても、ハルノくん3人前も作って完食するなんてすごいね」
「そうかな? 美味しくてペロリだったよ」
実際、ものすごく美味しかった。
角切りにしたサーモンは、表面積が広がりタレが存分に絡まる。これがまた、白米を進めさせた。
かつ、味が濃いかも、なんて思わせてくれない。なぜならアボカドがいるから。
サーモンの脂をアボカドの脂でクリーミィにしていく。食べやすくなりすぎてカロリー減ったんじゃないかと勘ぐってしまう。(アボカド1個、約270カロリー)
ああ、どうしよう。サーモンアボカド丼を食べた日のことを思い出して、また食べたくなってきた。今日、家に帰ってらまた作ってしまおうか。
「このままいけば、俺ひとりで料理もできるようになっちゃうかも」
もちろん、まめ吉のおかげで。と加えようとしたら、伊月さんの眼圧によって言葉が制されてしまう。
俺が黙ると、伊月さんは少し怒りが滲んだ声で話し出す。
「ハルノくん。お笑いコンビってなんでコンビなんだと思う?」
「え? 突然なんの話?」
「ボケとツッコミに役割分担されているからだよね」
「いや、本当になんの話?」
「じゃあなんで私達はコンビで活動してるの?」
「ちょっと待って。俺たちっていつコンビになったの? ていうか、なんのコンビ?」
疑問形に対して疑問形で答える。コミュニケーションの中でも、お手本にしてはいけない最低のコミュニケーションだ。
伊月さんは、ため息混じりで答える。
「私が作る。ハルノくんが食べるでしょ」
はあ、と俺が気の抜けた返事をすると、それが一層気に入らなかったのか、ジト目を鋭くして俺の眼前まで迫ってきた。
「今日も私の家に来て」
それだけ残し、伊月さんはどこかへ行ってしまった。有無を言わさずとはまさにこのこと。
ていうか、この頻度で家に行くって。
「……半同棲?」
言葉の意味を噛み締めてから、恥ずかしくなってしまう。
友達、あくまで友達だから! と自分に強く言い聞かせた。
☆
「サーモンアボカド丼は、本当にサーモンが一番最適なのか検証していこ〜う」
伊月さんの家に着いた途端、机の上には様々なポキ丼が並んでいた。
「もちろん、今回は動画回すからね。まめ吉初の公式コラボ動画」
カメラのセットをしながら、伊月さんは俺に言う。
「え、フォロワー7人の俺と?」
コラボというものは同じフォロワー数の人達がする、という認識がある。
まめ吉の現在のフォロワーは5000人に差し掛かりそうなところ。あまりにも釣り合っていないように思える。
それに、まめ吉も俺も(ユーザーネーム、お腹は張るもの)顔出しこそしてないものの、動画の雰囲気から性別はバレていると考えていい。
そうなると、フォロワー数も全然違う、しかも男女がコラボ動画なんて、伊月さんにとって良くないのではないだろうか。
だからやんわりと「他の人がいいんじゃない……?」と伝えてみる。すると、伊月さんの目が夜の猫のごとく鋭くなった。
「ハルノくんじゃないとダメなの」
ムッとした表情だ。頬もむくれている気がする。そんな彼女の行動にときめいてしまう。
どうして俺じゃないとダメなんだろうか。
聞いてみてしまおう。そう意気込んだその時、ネタばらしをされた。
「だって、私の周りでこんなに大食いなのハルノくんぐらいしかいないし」
「あっ。あ〜。あー……そういうことね」
「すごい。同じ一音なのに全部違う感情を乗せてる」
「俺、声優になれるかな」
こうして、伊月さんがいつも通りカトラリーを準備してくれる。
今回は大き目のスプーンだった。
「ポキ丼、好きな順番で食べていいよ。いつも通り、ぶつぶつ感想も言ってて良いからね。面白かったところ、私がピックアップして編集した後、動画アップするから」
そう言って、俺の手元胸元がカメラに移される。顔出ししてないとはいえ、少し恥ずかしい。
「で、では、食べていこうと思いまーす」
自分でも驚くぐらい棒読みで話すと、伊月さんが横からカットインしてくる。
「固い。いつも通りでいい」
「いや、そんなこと言われてもカメラが俺のこと見てるんだもん」
「じゃあほら」
そう言って伊月さんは俺からポキ丼を取り上げる。
かと思えば、スプーンに大きなひとくちをよそって俺の口へ運ぶ。
あーん、だ。
俺はこの厚意を突っぱねることはできなかった。
恐る恐る口を開ける。伊月さんとの顔の距離が近くなると、俺は恥ずかしさがピークに達して目を閉じてしまう。
(俺、今伊月さんにどう見られてるんだろう)
唇にスプーンが触れる。かと思ったら、一気に魚介が押し寄せてきた。
——マグロにコチュジャン、合う……合うぞ!?
俺はカッと目を見開いた。
伊月さんと目が合う。彼女はニヤリと口角を上げた。
「きたきた」
俺は伊月さんからマグロアボカド丼とスプーンを受け取る。
ふたくちめを放り込むと赤身の旨みがスっと鼻から抜けていった。
サーモンと比べてさっぱりめ。しかし、物足りないわけじゃない。
たまごの黄身を割り、溢れ出てきた卵液をマグロアボカドと一緒に食べる。マグロユッケなるものだった。いつの間にか出されていたコーラによく合う。
——炭酸にマグロユッケが効くッ!
いつの間にかマグロアボカドは食べ終わり、次に手を伸ばしたのはイカ。
——イカの甘味がコチュジャンの甘辛と調和している!
ねっとり甘々海の幸。前のふたつに比べて歯ごたえもあり、食べた感がでる。
ここで一層、食欲にギアが上がった。
俺は目の前にあるポキ丼たちを次々平らげる。
——甘エビッ! ねっとり濃厚の高みへ……!
——真鯛という白身の代表格! さっぱり上品で大葉も入っているのが『わかってる』側の味付け!
——まさかのホタテ!? 繊維が崩れて味が絡まる……! 意外かと思ったが、ここに来て一番美味しいかもしれない!
そして、最後のひと皿、最後の米一粒まで味わって食べた。
「ご馳走様でした……」
俺はそのままフラフラとソファの元へ向かう。ゴロリ、と身体を預けて、重力のまま沈んでいく。
そして、眠気が一気に襲ってきた。
(まずいな……先日も伊月さんの家で醜態を晒したばっかだっていうのに……ドカ食いの代償、眠気にどうしても……抗えない……)
意識が途切れ途切れになる中、ソファに寝転がる俺を伊月さんは覗き込む。手にはスマホが握られていた。
「大食いのお腹は張るもの君も、この量を食べると気絶しちゃうみたいです」
ナレーションのような物言いに、俺は思わず飛び起きてスマホレンズへ手を伸ばす。
「ちょっ……! 今のは削除して……!」
こんなところ、動画にされたらたまったもんじゃない。俺は慌てて、動画を消してもらうよう抗議した。
すると伊月さんは意地悪な笑顔を浮かべて告白する。
「撮ってないよ」
俺は一瞬身体が固まる。そして、すぐに全身が脱力した。
「なんだ……焦った……」
はぁ、と大きなため息をついて、再びソファに寝転ぶ。もう寝れそうにないと察し、俺はよじよじと身体をゆっくり起こした。
ソファに腰をかけ、伊月さんを見つめる。すると彼女は俺の隣に座って、口を開く。
「ハルノくんの寝顔は私だけのものだからさ」
「い、伊月さんだけのものなの……?」
俺は自分の顔を指さしながら言った。
すると伊月さんはスマホのカメラをこちらに向けてくる。
「じゃあハルノくんの寝顔全世界にシェアハピしていいの?」
「俺もシェアされた方もバットだろ」
「だから私だけのものにしといてあげる」
「語り口は少女漫画なんだよなぁ……」
その実、俺の寝顔を拡散されたくないから、伊月さんだけに留めておいてもらうということだった。
☆
1週間後。動画は瞬く間にバズった。
「は、ハルノくん。動画、50万回超えた……」
伊月さんは俺と撮影したショート動画を見せてくる。
俺が出演した動画は今もなお、伸び続けていた。
動画の中の俺がしゃべっている。
『サーモンアボカド丼、本当に一番合うのはサーモンなのか検証していきます』
『個人的なランキングはコチラっ。一位は甘エビ、二位にサーモンという形になりました』
『割と俺が甘党なのでね、甘エビが上位に来たのかなと思います』
『ちなみに、まめ吉が作ってくれたポキ丼は全部美味しかったです』
『(まめ吉がふざけてカメラを近づける)近い近い近い。どこ撮ってるの』
『wwwww(まめ吉の笑い声)』
改めて動画を見ると、俺たち仲良すぎないか? と自分のことながら思ってしまう。
動画の当事者である俺がそう思うぐらいだから、コメント欄も同じ意見で。
『まめ吉ちゃん、めちゃくちゃ機嫌良い』
『顔が見えないのに、絶対ふたりとも終始笑顔なのが分かる動画』
『もはやカップルアカウントだろ。もっとやれ』
俺はみるみる顔が赤くなっていく。
「い、伊月さん。これ……」
コメント欄のことを暗に示しながら、全ては言わずにこそあど言葉で表す。
すると、伊月さんは大きく頷いた。
「そう。この一投稿で1000人もフォロワー増えた」
伊月さんは俺の意図を知らずに純粋に増えたフォロワー数を喜ぶ。
「……嬉しいよね。俺も嬉しい」
気づいてないならいいか、と思った俺は伊月さんの会話に合わせた。
俺が意識しすぎなのだろうか。
今回の摂取カロリー、約7000カロリー。
まめ吉のフォロワー、約5660フォロワー(前話比+1000)。




