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このままで

少しだけ、このままでいいと思える日がありました。

それが、どこまで続くのかはわかりません。

その日は、特別なことは何もなかった。

 授業を受けて、少し話して、気づいたら終わっていた。

 

 前だったら、そんな一日は意味がないと思っていた。

 

 でも。

 

「……まあ、いいか」

 

 気づいたら、そう思っていた。

 

 

 昼休み。

 

 いつもの場所。

 

「ねえ」

 

「なに」

 

「最近さ」

 

 紬が、少しだけこちらを見る。

 

「顔、違うよね」

 

「……そうか?」

 

「うん」

 

 それ以上は言わない。

 

 

 でも、自分でも少しだけわかっていた。

 

 前みたいに、ずっと重いわけじゃない。

 

 

「……楽だからじゃね」

 

 

 ぽつりと出る。

 

 

 紬は、少しだけ笑った。

 

 

「そっか」

 

 

 それだけだった。

 

 

 

 放課後。

 

 帰り道。

 

 

 並んで歩く。

 

 

 特に話すこともない。

 

 

 でも。

 

 

 それでよかった。

 

 

 

「ねえ」

 

 

「なに」

 

 

 

「もしさ」

 

 

 

 紬が、少しだけ前を見る。

 

 

 

「こういうの、なくなったら」

 

 

 

 少しだけ、間。

 

 

 

「寂しい?」

 

 

 

 言葉に詰まる。

 

 

 

 少し前の自分なら。

 

 

 

 そんなこと、考えもしなかったはずなのに。

 

 

 

 

「……まあ」

 

 

 

 

 言葉を選ぶ。

 

 

 

 

「ちょっとは」

 

 

 

 

 それだけだった。

 

 

 

 

 紬は、何も言わなかった。

 

 

 

 

 でも。

 

 

 

 

 少しだけ、安心したように見えた。

 

 

 

 

 

 風が、少しだけ吹く。

 

 

 

 

 

 同じ帰り道。

 

 

 

 

 

 同じ景色。

 

 

 

 

 

 でも。

 

 

 

 

 

 前とは、少し違って見える。

 

 

 

 

 

「……なあ」

 

 

 

 

「なに」

 

 

 

 

 

「明日もさ」

 

 

 

 

 

 言いかけて、止まる。

 

 

 

 

 

 でも、今度はやめなかった。

 

 

 

 

 

「一緒に帰るか」

 

 

 

 

 

 少しだけ、間。

 

 

 

 

 

「うん」

 

 

 

 

 

 それだけだった。

 

 

 

 

 

 でも。

 

 

 

 

 

 それで、十分だった。

 

 

 

 

 

 ――この時間。

 

 

 

 

 

 なくなったら、困るかもしれない。

 

 

 

 

 

 そんなことを、思った。

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