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帰り道

何気ない時間が、少しだけいいと思えた日でした。

それが、どこまで続くのかはわかりません。

放課後。

 特に理由もなく、教室に残っていた。

 帰るタイミングを逃しただけだ。

 

「帰んないの?」

 

 後ろから声がする。

 

「……ああ」

 

 振り向くと、紬が立っていた。

 

「じゃあ一緒に帰ろ」

 

 当たり前みたいに言う。

 

「……なんで」

 

「いいじゃん、別に」

 

 それだけだった。

 

 

 結局、そのまま一緒に学校を出た。

 

 夕方の空は、少しだけオレンジ色で、風も昼よりやわらいでいた。

 

「ねえ」

 

「なに」

 

「今日さ」

 

 紬が前を歩きながら言う。

 

「ちゃんと考えなかった?」

 

「……ちょっとは」

 

「だめじゃん」

 

 すぐに返される。

 

 

 少しだけ笑った。

 

 

「でも、まあ」

 

 言葉を探す。

 

「昨日よりは、マシかも」

 

「でしょ」

 

 紬が振り向いて笑う。

 

 それだけで、少しだけ軽くなった気がした。

 

 

 信号で止まる。

 隣に並ぶ。

 

「ねえ、湊」

 

「なに」

 

「こういう時間さ」

 

 紬が空を見る。

 

「嫌いじゃないでしょ」

 

 

 少し考える。

 

 ただ歩いてるだけ。

 特に何かしてるわけでもない。

 

 それなのに。

 

「……まあ」

 

「嫌いじゃないかも」

 

「うん」

 

 紬は、それで満足そうだった。

 

 

 信号が変わる。

 また歩き出す。

 

「でもさ」

 

 紬が、ぽつりと言う。

 

「こういうのって」

 

「いつか終わるよね」

 

 

 足が、少しだけ止まりそうになる。

 

「……は?」

 

「なんで急にそんな話になるんだよ」

 

「別に」

 

 紬は前を向いたまま言う。

 

「なんとなく」

 

 

 それ以上は、何も言わなかった。

 

 

 さっきまで軽かった空気が、少しだけ変わる。

 

 

「……終わるって」

 

 小さくつぶやく。

 

 そんなこと、考えたことなかった。

 

 今があるだけで、それでよかったはずなのに。

 

 

「まあ」

 

 紬が、少しだけ笑う。

 

「だからいいんじゃない?」

 

「え?」

 

「終わるから、今があるんだし」

 

 

 その言葉が、妙に残った。

 

 

 また少し歩く。

 

 

「……なあ」

 

「なに」

 

「明日もさ」

 

 言いかけて、止まる。

 

 なんでこんなこと聞こうとしてるのか、自分でもわからなかった。

 

「……なんでもない」

 

「ふーん」

 

 紬は、それ以上何も言わなかった。

 

 

 ただ。

 

 

 その帰り道は、前より少しだけ短く感じた。

 

 

 ――こういう時間が。

 

 

 なくなったら、どうなるんだろう。

 

 

 そんなことを、少しだけ考えた。

 

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