考えない日
気づかないうちに、考えていない時間が少しだけ増えていました。
それがいいことなのかは、まだよくわかりません。
朝。
目が覚めた瞬間、少しだけ憂鬱だった。理由はわかってる。どうせまた、考えるからだ。
生きる意味とか。この先どうなるのかとか。考えても答えが出ないことばかり。
「……めんどくさ」
小さくつぶやいて、布団から出る。
教室に入ると、いつも通りの空気だった。ざわざわした声。机を引く音。
その中に、自分も混ざっている。
「おはよ」
振り向く前に、誰かわかった。
「……おはよ」
紬が、軽く手を振る。
「ねえ」
「なに」
「今日さ」
少しだけ間を置いて、紬が言う。
「考えるのやめない?」
「……は?」
唐突すぎて、意味がわからない。
「全部じゃなくていいからさ」
紬は、少しだけ笑った。
「“今は考えない”ってやつ」
「……できるわけないだろ」
即答だった。考えたくて考えてるわけじゃない。
「うん、知ってる」
あっさり返される。
「だから、やめるんじゃなくて」
少しだけ間。
「後回し」
「……後回し」
「うん。夜にやればいいじゃん」
「……なんだそれ」
思わず、少しだけ笑った。
昼休み。
気づいたら、また一緒にいた。
「で?」
「なに」
「考えてないの」
紬が、じっと見てくる。
「……ちょっとは」
「だめじゃん」
すぐにツッコまれる。
その流れで、少しだけ笑った。
「ほら」
紬が言う。
「今、考えてなかったでしょ」
「……まあ」
言われてみれば、そうだった。さっきの一瞬だけ、何も考えてなかった。
「それでいいんだよ」
紬が、当たり前みたいに言う。
「一瞬でも、そういう時間あればさ」
「それ、ちゃんと今だから」
その言葉が、少しだけ残った。
放課後。
帰り道。
「ねえ」
「なに」
「今日さ」
紬が、前を歩きながら言う。
「ちょっと楽じゃなかった?」
考える。
朝みたいな重さは、なかった気がする。
「……まあ、ちょっとは」
「でしょ」
振り向いて、笑う。
それだけで、少しだけ軽くなった気がした。
「……なあ」
「なに」
「お前さ」
言葉を探す。
「なんでそんな普通なんだよ」
自分でもよくわからない質問だった。
紬は、一瞬だけ止まって。
「普通じゃないよ」
すぐに、笑った。
「全然」
その答えが、少しだけ引っかかった。
でも。
「……まあいいか」
それ以上は、何も聞かなかった。考えない方が、楽だった。
意味なんて、まだわからないけど。
それでも、今日くらいはこのままでいいと思った。
帰り道の空は、少しだけ軽く見えた。
そんな気がした。




