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鵺の呼ぶ声  作者: 松岡織


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競謀 - 2


 寛生が運転席に進もうとすると、森が運転すると言ってハンドルを握った。

「ぶっ通しで疲れたろ。ちょっと休め」

「あざッス、お言葉に甘えます。煙草吸っていいですか?」

 了解を得て煙草に火をつけて吸い込み、ようやく他のことにも気が回る。スマホを確認すると、睦希からのメッセージが届いていた。

『今日は帰ってくる?』

 家族として寄り添ってやりたいが、それが叶わぬ立場だ。

『まだわからない。帰れたら起こすから休んでてくれ。少しでもいいから眠れよ』

 返事を打っていると、隣から森がチラッと覗き見をする。寛生が睦希だと伝えると『うん』と短い返事をした。

「睦希ちゃんの人生も、随分とハードモードだな。彼氏ができたと思ったら、まさか狩谷の息子とは。なぁ、堤が睦希ちゃんを助けた説は、本当だと思うか?」

「俺は本当だと思います。あの睦希が、堤にはあっという間に懐きました。何か特別な繋がりがあったとしか考えられない。でも助けたからと言って、信用したわけじゃない。あの男は危険です」

 短くなった煙草を消して、寛生は助手席のシートに背を預ける。先ほどの会議室の様子が脳裏に浮かんだ。

「狩谷事件の方ですが、石川警視監はどうするんでしょうか。堤がどこまで関与していたのか、真相を究明すると思いますか?」

「わからん。再捜査をしても十四歳未満じゃ手出しできない。裁判にすら持ち込めない事件に、どれだけの労力を注ぎ込むか」

 森の言う通り、終結している事件に人員を割く余裕は、警察にはない。身も蓋もない言い方をすれば、最後に犯人を有罪にするために、警察や検察庁は動いてると言っても過言ではなく、未解決な事件は他にもあるのだ。寛生が黙って考えていると、森が話を続けた。

「狩谷事件が起きていた当時さ、警察叩きが凄かったんだよ。連続殺人事件が起きているのに、警察が全く機能していない。一体いつになったら犯人は逮捕されるんだって。俺は当時まだペーペーで交番(ハコ)勤務だったけど、それでも住民が苦情を言いに来たり、なぜか遠い親戚が文句の電話を掛けて来たり。担当捜査員は、そりゃあ大変だったろうな」

「そうでしょうね。中坊だった俺も『もっと早く捕まえてくれていたら』『警察は何をやってたんだ』ってはらわたが煮えくり返ってましたから」

 この話題の意図はよくわからないが、寛生は当時の心境を正直に吐露する。うなされる睦希をあやしながら、毎晩のように警察の無能さに憤りを感じていた。その感情が蘇り、冷たく突き放した口調になるのを止められない。運転席の森は寛生の不満を受けとめる間を取った後、話を続ける。

「おまけに、捜査じゃなくて通報で解決したって終わり方もマズかった。警察の面子丸潰れの完敗で、お偉いさんの辞任も続いたし、担当刑事も極限まで追い詰められて何人もメンタルをやられて辞職した。間違いなく、上層部には思い出したくもない黒歴史だろう。通報したのが犯人側に居た息子だったなんて話は、石川警視監としては聞きたくもないんだろうな」

 やっと森が何を言いたいのか理解する。警察官になった今となっては、その心境もわからなくはない。寛生はやるせない気持ちから胸の奥深くから息を吐いた。

「同じ理由で、現場に居たって話も、捜査漏れがあったことになるので受け入れないんでしょうね」

「そう。そう言うことだ」

 堤の関与の有無を明らかにする捜査は、この先行われるかどうかわからない。同じ組織内に身を置く寛生も、頭では理解できる。だが私人としては、堤の危険性を知るために、全てを明らかにしたい。本当に堤は被害者でしかないのか。再び自由の身になった時、睦希の安全は守れるのか。視線を窓の外に向けていても、寛生の目は景色など映してはいない。いつの間にか目的地の病院に到着したのか、森がハンドルを切って車は駐車場へと滑り込んだ。


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