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初めての出会い

「とは言ったものの…」


 達成が降り立ったのは、世界線ベガのセブ大陸南東に位置するヘイルスという国であった。「神」の話によると、ベガへ転生した者がどの町からスタートするかはランダムであるらしい。いわゆる始まりの村は、転生者によって様々であるということだ。ここから、東西南北のどこに行くかで全く雰囲気が違うらしいが…。幸いにも、日本語が公用語として使うことができたため、情報収集をした達成は、ヘイルスは商業が盛んな国であり、景気がいいのだが、近隣諸国との仲が悪く、近々戦争になるかもしれないほど状況が悪いということを聞き出した。


 「どうりで、馬車やら人の移動がせわしいわけだ。」


 「この辺じゃぁ、有名な話なんだが。さっきの騒ぎようといい、この国の情勢を知っていなかったり、あんちゃん、よそ者か?」


 この男は、八百屋を営んでいるおっちゃんで、何しろ俺の異世界転生生活最初のコミュニケーションをとった者だ。異世界に降り立って、これまたテンプレな古代西洋チックな街並み、情景に気分が高まっているところに、うるせぇと怒鳴られた出会いであったが。


 「でもなんで、最近近隣諸国と仲悪くなったんだ?」


 「なんでも、よそから来るときの通行料を今の3倍に上げるんだと。ほら、この国、周辺国家の中でも景気がいい方だからさ。」


 「政治がらみの争いか。」


今まで見てきた小説の中では、こういう展開こそ、転生者が現れたり、裏でカギを握っていたりした。これは、さっそくあるだろうか。


「いづれにしても、困ったときに、逃げる場所は確保しておくんだな、あんちゃん」


「もう俺は、逃げ出せないんだけどね。」


首をかしげ、いかにも何言ってるんだこのよそ者は、という表情であるが、わざわざ話す必要もあるまい。


「ありがとおっちゃん」


「早死にすんなよ」


八百屋のおっちゃんに別れを告げ、町の中心街を歩いていると周りの景色を見ていると、自分が本当に異世界に来たんだと実感する。ラノベやネット小説を読みながらずっと疑問に思っていた。なぜ魔法が使える世界なのに、移動手段が馬車なんだと。誰かが作った固定概念が繰り返し流用されていると。しかし、実際に異世界はそういうものであった。はは。思わず期待と、感嘆しおた声が漏れる。この道をずっと行った先には、壁で一帯が覆われているのが見える。先程のおっちゃんから聞いた話では、壁の向こう側は王都であるらしい。確かに、壁の上にちらっとだが塔のようなものが見える。


「とりあえず、王都まで行ってみるか」


達成は、見るからに王様が住んでいそうなお城のある壁の中に向かうことにした。


◇◇◇◇◇◇◇

 

 金糸の豪華な装飾が施された豪勢な布に包まれ、男は目を覚ました。部屋の真ん中に寝床が位置しているため、朝日で目を覚ますということはない。だが、カーテンのわずかな隙間に光が差し込んでいることで、夜が明けたことを男は理解した。ヘイルスという国は、めったに雨が降ることはない。産業には、向いていないのかもしれないが、いろいろなものが集まるこの国においては、好都合である。むしろ、雨が降らないからこそ、男はこの地に国を建てた。もともと、川の下流に位置し、あたりが湿地帯で、作物を植えるにも不向き、人が住むには地盤が緩いなどの理由で、何もなかった土地であったため、安い金額で広大な土地が手に入った。


 男は、「神」から授かった錬土の力をもとに、地盤を固め、川の流れを整備することで、人が住める土地を作り上げた。徐々に、建物は増えていき、城の周りを壁で囲うことで、敵国からの侵略に備えた。町の安全性が担保されると、人が増え、人が増えると物が増え、いつしかこの町は商業の中心に、そして国へと大きくなっていった。

 そんな過去の物思いにふけっていると、ドアをノックする音が聞こえてくる。 


 「失礼します。旦那様、朝食のご準備が整いました。」


 扉の向こうから聞こえてくるのは、この城に従えるメイドの一人である。というよりも、何番目かの妻である。


 「わかった。すぐ行く。」


 朝食を済ませ、メイドに寝ぐせや服をしたててもらい、部屋を出たところで、タツミが出てくるのを待っていたであろう兵が頭を下げた。腰には、剣を構え、肩までかかる銀色の髪は地毛であろうか、赤い甲冑を付けた男、ジョネス・ラーバインがヘイルス国王タツミ・アヤカワに同行する。


 「タツミ様、経団連より、例の件で会合を開きたいと使者が来ております。講堂は来客用に準備ができておりますが、いかがなさいますか」


 「何回も何回もめんどくさいやつらだ。その剣で斬ってはどうかね?」


 「それは…」


 返答は返ってこない。おそらく現実的ではないと言い出いのだろう。何もこちらも本気でそうは思っていない。いや、そうして欲しい思いは山々であるのだが、そう簡単な話ではないことは理解しているつもりである。経団連の連中は、何かと俺がすることにケチをつけてくる。俺がこの町を作ったころは、そんなものなかったのに、ここ20年で急速に組織だってきて、たいした団体じゃないだろうと軽くあしらっていたらこのざまだ。周辺諸国を巻き込んで、特産品がどうだとか、通行費が高いだとかもう、うんざりだ。


 「タツミ様…」


 先ほどまで、返答に困っていたラーバインの手は、腰の剣を握っていた。それにしても、いつ見ても見事な良剣である。濃紫色の剣先から放たれる力は、なんでも、北の国の竜を斬ったらしい。その噂を俺が聞きつけ、護衛としているわけだが。ラーバインが剣を抜くような事態に陥ったことは一度しかない。相変わらず、ラーバインの手は、剣を握りしめ、こちらの様子を伺いながら、俺に命令をされたら仕方ないと言わんばかりの、そんな雰囲気を醸し出していた。


 「あぁ、冗談だよ。そんなに心配な表情をしないでくれ。1階の講堂だったな。準備したら向かおう」

 とりあえずは、コーヒーでも飲むか。朝食の時にも飲んだのだが、朝からくそつまらない話など、カフェインを多めにでもとらないとできる気もしない。経団連の連中は、待たせることになるが、有利なのはこちら側。向こうも文句は言えまい。


 タツミは、書斎に入るや否や、メイドに指示を出し、やる気になる時までゆっくりすることにした。



◇◇◇◇◇◇◇


 俺は今、閉じ込められている。

 石で敷き詰められた壁は隙間なく、錆びた鉄格子から外の木漏れ日があるのみである。申し訳程度に、公園のベンチをわらが薄く敷かれた寝床のようなものが置いてある。


 さかのぼること一日前…


 

 「お前、この国の住人か。」


 王都がある壁の前まで来たが、どうやら門番がいるらしい。きっちりと仕立てられた赤のベストに黒いハットをかぶっているが、その腰にはしっかりと剣が携えられている。この国兵隊なのだろうか。ハットには、この町に来てからよく見る紋章のような、国旗のようなマークが入っている。殴り合いになっても勝てられないんだろうな~。


 「いえ、違いますが」


 「通行票がないなら、通行料を払え。」


 八百屋のおっちゃんから聞いたのは、この国に入る時の通行料だが、王都に入るのにも必要になるのか…。それにしてもこの国の者ですと言っていたら自由に入れたのだろうか。


 「冗談ですよ~。この国の人に決まってるじゃないですか~」


 「お前…ヘイルス人の顔立ちではないし、どこの混血だ」


 「ぁえ?あぁ、えっとぉ、」


 まずい。聞き返されるとは思っていなかった。適当にあしらわれたら引きつもりであったが、ここで逃げ出すと余計に変に思われてしまう。この国の人種事情も知らないし、どうごまかせばいいものか。


 「おい。お前、怪しいな」


 門番が腰に構えた剣を伸ばし、今にも引きそうな状況である。まさか使うつもりはなかったが、ここで魔法を使うか。いやでも、罰もあるらしいし、ここで使うには目立ちすぎるし。やばい状況である。


 「さては、お前。嘘をついたな。兵への嘘はこの国への冒涜。禁固刑だぞ」


 禁固刑??重すぎんだろ。景色だけじゃなくて、倫理観まで中世かよ。

 達成が気付いたときには、3人の兵隊が周りを囲んでいた。

 

 

 その結果が今である。暗く、錆びた鉄の匂いのする部屋で夜を明かすことになった。昨日の昼頃にとらえられてい以降、なんの進展もない。そればかりか寝心地の悪いベンチで寝たせいで、体中のあちこちが痛い。「神」がすごい能力でもくれていたならば、あんなの記憶のも残らないような出来事なのだろうが、あいにく俺に与えられた力は一般人相手に向けて打てるものではない。そういえば、罰ってホントどんな罰なんだよ。救ってほしいとかお願いして制限付きの微妙な能力しかくれないあのケチ神め。

 目の前の細い鉄格子をけってみるが、ガシャンという辺り一帯に響くのみで、曲がりも壊れもしない。特殊な能力はなくとも力がすごいという展開もどうやら無いようだ。


 「転生者はオーラをまとっている。異世界の住人とはレベル差があるから、きっと達成も見た瞬間にわかるじゃろ。特に、天界に戻さなければならない5人の転生者のオーラは他の転生者と比べても圧倒的なもの。頼んだぞ」


 静かなで暗い独房で、神の間で記憶がよみがえる。

そういうえば、ここに来るまでにオーラといえるような何かをまとった雰囲気の者はいなかった。神からは、5人を異世界から消すことをお願いされているが、他の転生者は何人くらいいるのだろうか。聞いておけばよかったと今になって思う。


 「あなたは何をして捕まったの?」


 静かで誰もいないと思っていた空間で、かすかにそんな声が聞こえた気がした。


 「あなたも、転生者…なんでしょ?」


 ひどく暗く、視界のはっきりとしない中で、確かにそれは聞こえた。


 これがルシル・リオン・アルベイラとの出会いであった。


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