新たな一歩
「は?」
一瞬、何を告げられたのか理解ができなった。不法滞在者?天界に戻す?何を言っているんだこの爺さんは。それが達成の第一感であった。
「ちょっと待ってくれよ神様。それはどういう意味なんだ。全然想像していたものと違うんだけど。」
達成が想像していたのは、派手な力で、あるいは下剋上的な力で世界を見返すことであった。しかし、「神」を名乗る老人が告げたのは、そのどれでもなく、理解もしがたいものであった。
「実はな、今の世界線は均衡を失っていてな」
達成はそこで、異世界の現状を聞かされた。しばらく前に転生した者が世界の均衡を破壊したこと、期限を守らず不法に異世界に滞在している者がいること、神の力では下界に干渉できないこと。達成が夢見ていた異世界転生物語は、過去の転生者たちによって散々やりつくされ、新しく入る隙間はなかった。
正直、なんだよそれと言いたくなった。全く思い描いていた転生じゃない。俺である必要もない。俺よりはるか前に転生してたやつらが好き放題したせいで、割を食うのは俺らじゃねーか。異世界でも俺の思い通りにはなってくれないのか。異世界転生に対する絶望と、不法滞在者と名付けられたそいつらに対する怒りがふつふつとこみあげてきた。だが、一方でその理不尽をもしかしたら自分が一掃できるかもしれないという期待がないわけでもなかった。
「それにしても、その不法滞在者たちを天界に戻す魔法って限定的過ぎやしねーか?第一、それは魔法なのか?範囲も威力とかもわかんねーよ」
「確かに、この力を理解してないと地味で、よくわからないじゃろな。」
まるで、この魔法にとんでもない力が隠されているかのような「神」の言い回しに、疑問を感じながら少しの期待を寄せた。
「例えばとな、この銃で、一定の距離内にいる相手に向かって引き金を引くと…」
そう言うと神は、数メートル先にピンク色の生き物を出現させると、その生き物めがけ引き金を引いた。その瞬間、そこにいたはずの生き物は炎が燃え尽きたような音とともに消えてしまった。
「任意のいきものを消滅させることができる」
「いや強すぎんだろ。これだよ。こんな力が欲しかったんだ」
「ただな、残念ながら、この魔法は下界でよく使われるような魔法で簡単に打ち消されるし、防がれてしまうというおまけつきじゃ」
急速に火がついて、急速に人気をなくした株のように、達成の気持ちは上下した。
勝手に落胆し、期待をさせられ、再び落胆させられるなんてあんまりである。
「さらに言うとな、人間、特に不法滞在者以外の者を消滅させた場合は、お主に罰がくだる」
「はい???」
この魔法。実は、とんでもなく期待外れの魔法でないか。むしろ、聞けば聞くほど、異世界を救うという豪だけ背負わされて、こんな魔法しかくれないなんて。この神、ケチすぎる。
「ちなみに、俺がそれを断ったらどうするんだ?」
「ま、ま、まつんじゃ」
なんとテンプレな…「神」のみるからに慌てふためく様子は、断られることを予想していなかったということだろうか。それとも、すでに断られてきて、担い手がいないのだろうか。いづれにしても、この話し合いの主導権は「神」だけではないのは確かである。
「もし、お主がこの状況を打破することができたのなら、次の世界線ではお主の好きな能力を授けるとしよう。もちろん制約は多少はつくことになるじゃろうが。今なら、さらにこの銃のおまけつきじゃ」
制約とは、言わずもがな期間のことなのだろう。
「神」の出した条件は、魅力がないと言ったら噓である。それは、俺が夢見た世界であり、今後実在するかもしれない未来だからだ。かといって、こんな能力でどう打破するんだよ。銃はどうでもいいが、正直、不安、疑心多くの疑問も残る。が…
「わかった。やるよ」
この先のあてがあるわけじゃない。この魔法の使い方をすべてわかったわけでも、不法滞在者がどんな奴らなのか、どんな能力なのか、わからないことだらけである。でもとりあえず引き受けることにした。これまで、散々馬鹿にされ、社会に敷かれ、自我を殺し、あまつさえ自分自身の肉体を殺してしまったのだ。今更臆することもないだろう。
達成を動かしたのは、根拠のない不確定な未来への希望であった。長年埃をかぶっていた針は、積もっていたものを振り払うように、次の指針にめがけ動き出した。一歩一歩止まりながら、不確定な時を刻んで。しかし、そこには確かな鋭さを宿して。




